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警護ドローンの前肢に装備されている防弾盾を展開しながら端末は本艦の行った演算の誤りを理解した。
植物と言う存在に対して本艦は演算式に動態の可能性を含めていたなかった。可能性の低さから除外して何度も演算を行った。それは大きな誤りだった。
食虫植物。食肉植物。肉食植物。
食虫習性を獲得した植物。
この事を本艦は演算式に組み込んでいなかった。
前例が無く。可能性は限りなく低く。当然。除外していた。
艦長、フェレス司書准尉の見解は正しかった。
不測の事態。
本艦は致命的な演算ミスを犯していた。
ケリュケイオン考古学博士を補足した植物は擬態を解く。
茎の部分に溶解液を溜めたウツボカズラ属の捕虫器に酷似した器官が出現。
葉は0.01秒以下でハエトリグサの捕食葉に変化しケリュケイオン考古学博士を捕獲しようとする。
警護ドローンを近くに配置していた事が功を奏した。
端末は前肢の防弾盾をケリュケイオン考古学博士の前に展開。
フレーム全体を使って捕食葉を受け止める事に成功。
フレームに歪みを検知。
予想以上のダメージ。捕食葉の持つ馬力は容易に軍用の警護ドローンのフレームを歪ませる程だ。
パワードスーツや防護服の装甲を破壊。生命を停止させる可能大と端末は推測。
使用可能な兵装。
5.8mm機関銃…使用不能。
20mm擲弾発射機…使用不能。
遠隔測定器…使用可能。
端末はケイ素変質植物に向けて試験管のような遠隔測定器を打ち込む。
目的は攻撃ではなく直接打ち込み。直接、情報を得る為。
測定結果。
食虫植物から変異。生物と植物の中間に進化。遺伝子配列に多数の異質な反応を検知。知的生命体へ変異進化の途上、その可能性大。
測定結果を本艦はさらに演算する。
その間にもケイ素変質植物はケリュケイオン考古学博士を捕食せんと捕食葉の力を強める。
警護ドローンのフレームが明らかに歪み始める。
「撃ち方始め!撃ち方始め!あの凶悪な葉を吹き飛ばせ!!」
「「イエス・サー!!」」
7.92mm電磁投射小銃《EML》と7.92mmチェーンガンの一斉射撃。
電磁投射小銃《EML》の遅い発射速度の間を埋めるチェーンガン。
葉は即座に力を失う。
端末は警護ドローンの前肢でケリュケイオン考古学博士を守りつつ、第一、第二歩行脚でケリュケイオン考古学博士を持ち上げて残りの歩行脚で最大九速度で後進。
ケイ素変質植物から距離を取った事を確認したB分隊分隊長はマイクロミサイルの発射を行おうとする。
端末はパワードスーツのシステムに介入しマイクロミサイルをロックする。
「何のつもりだ扶桑!?」
『敵性生命体の茎部分に消化液を確認。濃度は未測定。不用意な攻撃は消化液を飛散させる事になります』
「っ!?そうか。総員!腹を狙うな!そこ以外を穴だらけにしろ!」
「「イエス・サー!」」
「扶桑。どういう事だ!?突然、動態反応が検知されたぞ?」
『現在。本艦の演算式に欠如している式を組み込み再演算中。判明しているのはケイ素変質を起こした植物が食虫能力を獲得。その後、独自に進化。生物と植物の中間となり、近付いたケリュケイオン考古学博士を捕食しようとしたと推測』
「植物と生物の中間?つまり…しまった!扶桑!」
『現在。システムのアップデートプログラムを構築中』
「オペレーター、降下部隊にB分隊が遭遇した敵性生命体の情報を送れ!小隊本部には揚陸艇を何時でも飛び立てる態勢で待機させろ」
「了解」
本艦は演算を続ける。
予想されていたケースが全て該当しなかった。
生命体は生存していない。植物はケイ素変質を起こしただけ。当初、このように予想されていた。
現状。解析結果から地球には植物と生物の中間の生命体が生息。
詳しい結果は解剖等を行わなければ断定出来ない。
打ち込んだ遠隔測定器が測定した限り。
葉脈には血液に似た成分が通り、その成分は二酸化炭素を運ぶ為だと判明。
『ヴェルガム准将。アップデートプログラム完成。何時でもアップロード可能です」
「良し。全部隊にアップロード。急げ!」
端末は観測ドローン。警護ドローン。多目的ドローン。端末と繋がっている全てをアップロード。そこで次々と敵性反応を発見する。
知的生命体の不合理なパーソナルパターン。
それに似たパターンが本艦のパーソナル領域から検知される。
本艦は動揺している?
既に揚陸艇が包囲されている状況。
ネクロノミコン回収の為に奥へと進むA分隊に迫る反応。
そして金星の異変。
本艦は幾つも同時に発生する緊急事態に動揺している。
不変。絶対とされて来た論理・常識・前提・法則が次々と崩れて行く事に。