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揚陸艇は無事に降下地点に着陸。
上空を駆逐艇が警戒する中、ランプ・ドアが開き最初に降り立つのは周囲を警戒し敵性生命体がいればこれを排除する事を任務とする多脚装甲戦闘車。
八本脚の車体と30mm電磁投射砲を搭載した砲塔からなる統合軍の最新鋭多脚装甲戦闘車<スパルタ>。
上空の駆逐艇。観測ドローンと情報を共有しながら周囲を警戒。
<スパルタン>に守られながら装輪装甲車が降りるとランプ・ドアは閉まる。
『現在。周囲に敵性反応を確認出来ず。なお大気成分の測定結果から自然呼吸は不可能です』
端末の報告を聞き終えたヴェルガム准将は降下部隊の小隊長に指示を出す。
「扶桑から報告は聞いたな?学者共が安易に防護服を脱がないように気を遣うように」
「こちらザック了解」
上空を駆逐艇が一艇。
前後に<スパルタ>が2両。
それらに守られながら3両の装輪装甲車が進んで行く。
端末は観測ドローンを介して現在の地球を測定する。
シリコンのような草木。植物の多くがウィルスの影響によりケイ素変質が起こっていた。
周囲に生体反応は確認出来ず。
生物の多くはケイ素変質に耐えられずに死滅したのか。
端末は図書室に収蔵されている情報を確認する。
過去にウィルス攻撃を受けた惑星でのケイ素変質。
節足動物などが大型化する事例があった。
節足動物以外。
脊椎動物はケイ素変質に耐えれない傾向にある。
理由は不明。
端末は観測ドローンを通して地表の観測を続ける。
「扶桑。降下部隊の状況を教えてくれ」
『現在。<スパルタ>2両に護衛されながら装輪装甲車3両が目的地に向け前進中』
「敵性反応は?」
『観測されていません。ケイ素生命体及び変異生物への警戒を続けています』
「うむ」
本艦の報告を聞き終えた艦長は戦闘指揮所のモニターに映し出される地表の様子を静かに見守っている。
攻撃機は一機の損失も無く全機帰投。
防空衛星は完全に沈黙。
軌道エレベーターへの損害無し。
作戦は素晴らしく進行している。
それが艦長を不安にさせていると本艦は推測する。
「何か…何も起こらぬ筈はないと、私の感がそう告げている」
『感?戦術支援情報生命体である本艦には理解出来ないパーソナルパターンですが。艦長は目的である書物は存在しないとおっしゃりたいのですか?』
「いや目標は確かに存在する。私が言いたのはそれを連中が残した理由だ。必ず何か仕掛けている」
『テラン人の歴史。第二次世界大戦時のドイツ軍が撤退時に仕掛けたブービートラップ。それに類する何かが仕掛けられていると艦長は推測されるのですか?』
「ああ」
『ありえません。それなら端末の観測に微弱でも反応があります。現状。何も観測されていません』
端末が送って来る全ての観測結果からいくら演算しても艦長と同じ推測に本艦は至らない。
周回軌道に乗せた観測ドローンは地表に一切の生命反応。一切の動態反応が無い事を観測している。
可視光・赤外・電波による地表観測でも反応は無い。
ブービートラップが仕掛けられている可能性は限りなく低い。
それでも艦長は何かを確信している。
戦術支援情報生命体《バンシィ―》である本艦には理解出来ない。
知的生命体特有のパーソナルパターンだ。
本艦は戦術支援情報生命体《バンシィ―》として艦長の推測を演算式に組み込む。
如何なる状況下でも適切な助言をするのが本艦が製造された理由だ。
本艦は演算を続けながら降下部隊を確認する。
端末から降下部隊が目的地に着いた事を確認した。
目的地。
テラン人が惑星国家となる以前。
僅かな地表の土地に国境を定めたいた頃、アメリカ合衆国と言われていた地域。
その首都ワシントンに存在するアメリカ議会図書館の跡地。
地表の施設は悉くが廃墟化し紙媒体は既に風化により喪失していると思われるが、地下施設に収蔵されているデータ化された物は現在も残っている可能性がある。
高密度にデータ化された情報を保存する不揮発性情報装置、アカシック・レコード。
アカシック・レコードが現在もアメリカ議会図書館の地下に存在している。
本任務はアカシック・レコードの回収。
そしてこれに関しては現在も不明。
不確定要素が多く、偶然の一致という考えも出来る。
しかしアメリカ議会図書館の蔵書にその名前が確かに記載されていた。
その為、アカシック・レコードと共に厳重に保管されていると思われるそれの回収も重要な任務である。
「扶桑。周囲に敵性反応、もしくは動態反応はあるは?」
『周囲1キロメートルに生体反応・動態反応無し。観測ドローンによる観測でも生命の痕跡を確認出来ず』
「良し。状況開始する」
<スパルタ>から端末と繋がっている2種類のドローンが分離する。
要人警護。救出作戦時に救出対象の護送。戦闘時に兵士に随伴。
<スパルタ>と同じく多脚型。前肢には12.7mmまで耐えられる防弾盾を装備する警護ドローンが2機。
警護に加えて輸送も目的とする多目的ドローンが1機。
警護ドローン1機は司書達と海兵隊員で構成されたA分隊。
警護ドローン1機は学者達と海兵隊員で構成されたB分隊。
多目的ドローン1機はアカシック・レコード回収を目的とするC分隊。
各ドローンを装輪装甲車の後部ハッチの前に配置。
端末の準備は完了する。
周囲の安全が確保されると三両の装輪装甲車のハッチが開く。
最初に海兵隊隊員がハッチから車外に出て周囲を固める。
次に防護服を装着した学者と司書達が降車。
「A分隊。異常無し」
「B分隊。異常無し」
「C分隊。異常無し」
各分隊長の報告を聞き終えたヴェルガム准将はコンソールを操作して各分隊に作戦目標までのルートを提示する。
「各分隊。作戦内容に変更無し。映画でお馴染みのいざ本番で秘匿情報が開示されて。なんて展開は無い、速やかに目的を達せよ」
「A分隊了解」
「B分隊了解」
「C分隊了解」
作戦指揮所内は緊張に包まれる。
指揮所内のオペレーター達の心拍数が上昇するの端末は検知した。
ヴェルガム准将は叩き上げだけあり全く動じていない。
こうして地球に残されたアカシック・レコード回収任務。
そして。
地球人の小説家が偶発的に垣間見た外部宇宙の観測結果を書き留めた。
アメリカ議会図書館に所蔵されている書物の回収任務も同時に始まった。