04 ダンデライオンにて
一面のマグノリアがロザリアを迎えた。
淡い紫色の花達が、夜空と見事なまでの共演を果たしていた。圧巻。完璧。
先の方に高く城が聳え立っている。
白を基調とし、ところどころ薄く桃色がかっていて幻想的だ。
街が活気付くまでには時間がある。その間どうしたものかと危惧していたが、それは杞憂に終わった。景色を眺めて歩くだけで三日くらいは潰せるだろう。むしろ数時間しか時間が無いことを惜しいと思った。
噴水を彩るスイレンの花。シロユリの庭園。ヒヤシンスの花壇。雪のように舞うタンポポの綿毛。
ここに季節という概念は存在しないらしい。
やがて人が見え始め、街は朝の目覚めを迎えた。
ロザリアは酒場を探すことにした。
情報が集うのは酒場と相場が決まっている。
ダンデライオンという酒場に入ることにした。
流石は花の都、店の名前にもお花が添えられている。
カウンター席に座る。お勧めはカクテルらしい。酒場というよりバーなのかもしれない。
吸血鬼も酒を飲む。肉も食べれば、スイーツも堪能する。ただ栄養を摂取することはできない。こと栄養摂取に関しては、血をすする他ないのだ。
吸血鬼にとって人間の食事とは、高級なガムのようなものだ。噛んでも噛んでも、味はするが栄養は摂取できない。
ロザリアはレッド・アイを注文した。結局吸血鬼という生き物は赤い液体を好むのだ。
「どうも、綺麗なお嬢さん、どこから来たの?」
店主らしき大男は、丁寧に髭を揃えていて上品だった。チャラチャラした若者が言えば、ナンパの台詞に聴こえそうなそれも、いやらしさを感じさせなかった。
「えっと、隣のニュークリプトンから。あ、でも、今お引っ越しを考えていて、ここも良いかな?なんて。」
「おうよ!マグノリアは最高の街さ。俺が保証するよ。」
「ええ、とても素敵なところだと思います。」
一瞬、あなたに保証されてどうするのよ、とも思ったが、お世辞ではない。心の底から素敵なところだと思っている。
ロザリアは一口飲んだ。
「ここ、酒場なら何か面白い情報とか入って来たりしないんですか?」
「そうだなぁ、確かに酒場は情報に関してはうってつけだ。場合によっては、その情報を金にする輩もいるみたいだがな、俺はそういうのは好かん。情報屋という奴らはな、たとえどんな窮地に立たされたとしても、持っているカードの半分までしか提示しない、なんてこともよく聞く話だ。おっとすまんすまん、とにかく何でも聞いてくれよ、金はとらんさ。」
情報屋は半分まで、というのが気にかかったが、今はいい。
「先程も言ったように、お引っ越しを考えています。それでその、最近物騒じゃないですか。ほら、吸血鬼がどうとか。ここにもそういう話はあったりするんですかね?」
しまった、とロザリアは思った。なるべく自然な流れで話題を振ったつもりだったが、なにせこの大男はこの街を溺愛しているのだ。
実はこの街のあのお城に、吸血鬼が幽閉されているんですよ、なんて教えたら普通の人は恐がるだろう。周りに言いふらされでもしたら一貫の終わりだ。大男は情報を伏せようとするかもしれない。
「それならね、お嬢さん……」
大男はどこまでも親切な大男だった。
かなり詳細な情報を話してもらった。
ロザリアは店を出た。
ダンデライオンにて情報を得た後、宿屋に帰る前、ロザリアは遠目から城を下見していた。
格式ある純白の正門。それぞれその左側、右側に大楯と槍を持った警備兵がいた。
守りの堅実な兵士は、今のロザリアが最も敵に回したくない相手だ。だが避けては通れない。
長閑な街の雰囲気に反し、城の警備は厳重を極めていた。入り口はあの正門以外に見当たらない。
ちっ、と舌打ちをして、ロザリアは城を後にした。
情報は整った。
幽閉されているグリムと邂逅し、更には一戦を交える方法は見出された。
しかしいざ実行すれば、ロザリアはもうこの街にいることはできなくなるだろう。お引っ越しなど冗談もいいところだ。
けれどもそんなこと、ロザリアにとって知ったことではなかった。




