03 宵の海
花の都マグノリアは、ニュークリプトンから海を少し渡った先にある。
文字通り花が年中咲いており、今時珍しく住む人々も心優しい。華やかで煌びやか。色んな意味でお花畑な都市である。
吸血鬼には似つかわしくないかもしれない。
深夜の移動となると、手段は必然限られてくる。
馬車や蒸気機関車などの公共交通機関は、当然本数が多くない。何より人が少ないので、フードまですっぽり被った黒いコート姿は、目立ってしまって仕方がない。
ではどうするか。
…船だ。
マグノリアは花の輸出を収入の主軸としている。特に、近場であるニュークリプトンとのやりとりは頻繁に行われる。
観光客も多い日中では、行き交う船は客船ばかり。自然と交易船は深夜に赴かなければならなくなる。
交易船に忍び込む。これが最善の選択。
幸い船はすぐ見つかり、侵入も容易だった。
従業員は荷の木箱を運び出すことに夢中で、まさか灯の切れた街灯の上から、女が船に飛び移るとは思いもしなかったようだ。
船が動き出してからも、見張り役の様な者を除いては、ほぼ全員が仮眠についた。
念には念を入れ、物陰に身は潜めたが、さほど警戒をする必要はなさそうだ。
宵の海は静かに感じた。
波は規則正しく流れていたが、音が耳に馴染み騒々しくない。
空も海も濃いネイビー色で、すっかり一つになっていた。まるで夜空を渡っている気分だった。
だんだんと明かりが眩しくなってくる。
都市の明かり。
花の都マグノリアが近づく。




