01 よくできました
ロザリアは苛立っていた。
それは相手方の装いも影響していたに違いない。一応高級ブランドものらしい、黒の制服にとりあえず身を包み、これまた黒の革靴は磨き上げられピカピカと眩しい。服を統一することに神経を注ぎ過ぎていて、人によって丈が長かったり、短かったりしている。
それでもこれみよがしに胸を張り、じっと整列している姿は、まるで売れ残り尚もショーウィンドウに並ぶ人形のようでなんだかおかしい。
彼らに題名を付けるなら、なりきり貴族、しかしなりきれませんでした、といった具合だろう。
その書斎は無駄に広く豪勢で、臙脂色の絨毯が酷く踏み荒らされていた。
「では、いくらをご所望ですか?具体的な額を提示して下さい。」
ロザリアがそう言うなり、ヴィンダムは口元のつけ髭を指で撫でた。
何かを考えるふりだ。動きが酷く不自然で、やはりなりきれませんでした、という感じだ。
情報屋ヴィンダム。
ある吸血鬼に仕える人間で、主が入手した情報を差し支えのない範囲で商売道具にしている。売り上げの一部を主に献上することで、ビジネスは成り立っているらしい。
椅子に腰掛けるヴィンダムは、なかなか首を縦に振ってくれない。いつまで、この出来損ないの人形と対峙しなければならないのだろうか。
長い間この台詞を切り出せることを待ちわびていたかのように、ヴィンダムは口を開いた。
「そうですね……私の夜のお相手をして頂ければ、お金は要りませんよ。」
別に驚くということでもない。想定の範囲内である。
吸血鬼が人間から見返りを求められる場合、性的なことを要求されるのは珍しくない。
吸血鬼の美貌は人を誑かす。相手が自分に憔悴し切っているところで、するりと首元に回り、柔肌に牙を滑り込ませる。
美は吸血鬼の武器なのだ。
だがそこで、はいどうぞと体を交わらせる訳にはいかない。
ロザリアは高貴なる女吸血鬼。最上に生き、最上に死ぬ。
ロザリアは深く溜息をついた。
「ご存知ですか?吸血鬼に魅了された時点で、その者の死は確定するというお話は。」
「…と、言いますと?」
ヴィンダムは髭を撫でる。
「吸血鬼は美貌を武器とします。誘惑し、相手がのぼせたところを襲うからです。ですが私の場合は……」
ロザリアはその場で大きく跳躍し、頭上のシャンデリア付近まで跳んだ。
「よくも!この私を醜い娼婦と見なしてくれたな!たった今、この時をもって貴様らの死は確定した。この書斎は悲痛な雄叫びに満ち満ちて、醜悪な鮮血に染め上げられることだろう。」
空中でロザリアは体を捻る。ひゅっ、と空を切る音がしたかと思えば、周りに整列していた黒制服達の喉には、投げナイフが血の花を咲かせていた。
黒制服達はそのまま臙脂色の絨毯に倒れ込む。あちこちに血の溜まりができていた。
喉では無く踝辺りを貫かれたヴィンダムは、恐怖に目を見開き、吐瀉物が込み上げていた。
ロザリアはヴィンダムの喉にナイフを当てる。
「さあ、この辺りにいる吸血鬼の居場所を吐くんだ!」
鉄錆の匂いが立ち込める。ヴィンダムは堪らず嘔吐した。
「誰も吐瀉物を吐けなんて言っていない、いいから居場所を吐きな!」
手元に力が入り、ヴィンダムの喉から少し血が垂れる。
「わ、わかっているのか!?わた、わたしはあの
〈薄く笑うベルベッド〉様に仕える身、わたしの死を知れば貴様はきっと狙われる。」
ロザリアはナイフをもう一本取り出すと、ヴィンダムの右目に突き刺した。
「ーーーーーーーーーーーーーー!?」
熱い。目が熱い。痛みに声も上げられない。
「目は、もうひとつ、あるからね‥」
そう言ってロザリアはもう一本ナイフをちらつかせた。
「ま!!マ!マグノリア!花の都マグノリア!!そこの城に幽閉されています!!」
「名は?」
「名は、名は〈棄てられた騎士グリム〉です!」
ロザリアは微笑んだ。
「よくできました。」
喉元に当てられたナイフが的確にそれを裂いた。叫び声の代わりにドス黒い血が吹き出した。
ロザリアはヴィンダムのポケットから金色のライター(どうせパイプでも吸うのだろう)を取り出すと、書斎のあちこちに火を放った。
書斎はけたたましく炎を上げた。




