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血継ぎ物語  作者: ハーモニカ
第1章 棄てられた騎士グリム
2/8

01 よくできました

ロザリアは苛立っていた。


それは相手方の装いも影響していたに違いない。一応高級ブランドものらしい、黒の制服にとりあえず身を包み、これまた黒の革靴は磨き上げられピカピカと眩しい。服を統一することに神経を注ぎ過ぎていて、人によって丈が長かったり、短かったりしている。

それでもこれみよがしに胸を張り、じっと整列している姿は、まるで売れ残り尚もショーウィンドウに並ぶ人形のようでなんだかおかしい。

彼らに題名を付けるなら、なりきり貴族、しかしなりきれませんでした、といった具合だろう。


その書斎は無駄に広く豪勢で、臙脂色の絨毯が酷く踏み荒らされていた。


「では、いくらをご所望ですか?具体的な額を提示して下さい。」


ロザリアがそう言うなり、ヴィンダムは口元のつけ髭を指で撫でた。

何かを考えるふりだ。動きが酷く不自然で、やはりなりきれませんでした、という感じだ。


情報屋ヴィンダム。

ある吸血鬼に仕える人間で、主が入手した情報を差し支えのない範囲で商売道具にしている。売り上げの一部を主に献上することで、ビジネスは成り立っているらしい。


椅子に腰掛けるヴィンダムは、なかなか首を縦に振ってくれない。いつまで、この出来損ないの人形と対峙しなければならないのだろうか。


長い間この台詞を切り出せることを待ちわびていたかのように、ヴィンダムは口を開いた。


「そうですね……私の夜のお相手をして頂ければ、お金は要りませんよ。」


別に驚くということでもない。想定の範囲内である。

吸血鬼が人間から見返りを求められる場合、性的なことを要求されるのは珍しくない。

吸血鬼の美貌は人を誑かす。相手が自分に憔悴し切っているところで、するりと首元に回り、柔肌に牙を滑り込ませる。

美は吸血鬼の武器なのだ。


だがそこで、はいどうぞと体を交わらせる訳にはいかない。

ロザリアは高貴なる女吸血鬼。最上に生き、最上に死ぬ。


ロザリアは深く溜息をついた。


「ご存知ですか?吸血鬼に魅了された時点で、その者の死は確定するというお話は。」


「…と、言いますと?」


ヴィンダムは髭を撫でる。


「吸血鬼は美貌を武器とします。誘惑し、相手がのぼせたところを襲うからです。ですが私の場合は……」


ロザリアはその場で大きく跳躍し、頭上のシャンデリア付近まで跳んだ。


「よくも!この私を醜い娼婦と見なしてくれたな!たった今、この時をもって貴様らの死は確定した。この書斎は悲痛な雄叫びに満ち満ちて、醜悪な鮮血に染め上げられることだろう。」


空中でロザリアは体を捻る。ひゅっ、と空を切る音がしたかと思えば、周りに整列していた黒制服達の喉には、投げナイフが血の花を咲かせていた。


黒制服達はそのまま臙脂色の絨毯に倒れ込む。あちこちに血の溜まりができていた。

喉では無く踝辺りを貫かれたヴィンダムは、恐怖に目を見開き、吐瀉物が込み上げていた。

ロザリアはヴィンダムの喉にナイフを当てる。


「さあ、この辺りにいる吸血鬼の居場所を吐くんだ!」


鉄錆の匂いが立ち込める。ヴィンダムは堪らず嘔吐した。


「誰も吐瀉物を吐けなんて言っていない、いいから居場所を吐きな!」


手元に力が入り、ヴィンダムの喉から少し血が垂れる。


「わ、わかっているのか!?わた、わたしはあの

〈薄く笑うベルベッド〉様に仕える身、わたしの死を知れば貴様はきっと狙われる。」


ロザリアはナイフをもう一本取り出すと、ヴィンダムの右目に突き刺した。


「ーーーーーーーーーーーーーー!?」


熱い。目が熱い。痛みに声も上げられない。


「目は、もうひとつ、あるからね‥」


そう言ってロザリアはもう一本ナイフをちらつかせた。


「ま!!マ!マグノリア!花の都マグノリア!!そこの城に幽閉されています!!」


「名は?」


「名は、名は〈棄てられた騎士グリム〉です!」


ロザリアは微笑んだ。


「よくできました。」


喉元に当てられたナイフが的確にそれを裂いた。叫び声の代わりにドス黒い血が吹き出した。


ロザリアはヴィンダムのポケットから金色のライター(どうせパイプでも吸うのだろう)を取り出すと、書斎のあちこちに火を放った。


書斎はけたたましく炎を上げた。



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