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血継ぎ物語  作者: ハーモニカ
第1章 棄てられた騎士グリム
1/8

血継ぎの物語

吸血鬼。


鉄錆の匂いによだれを垂らし、真紅の滴りに舌鼓を打つ。


人を超えてしまった怪物。

人になり損なった化物。


人々は語り継ぐ。

恐怖の権化として。

絶望の具現として。

災厄の集合として。


あるいは、不死の象徴として。



では、不死とは何なのか。何をもって死なないのか。


まず、考えられるのはそもそも死ねない、という場合。

包丁を何回心臓に突き立てても、猛毒をたっぷりと飲み干しても、死なない。死ぬことができない。

痛みに身をよじりながらも、苦しみに悶えながらも、心臓は脈を打ち、息は絶えず続く。


これは不死と言える。まさしく死なない、ということである。


次に、考えられるのは死んでも際限無く蘇る、という場合。

首をはねられ息の根が止まっても、血が流れ空っぽになった肉体が腐っていっても、蘇る。蘇り続ける。

走馬灯が駆け巡ったとしても、死神に出会ったとしても、そのうち心臓はまた脈を打ち、息は絶えず続く。


これは不死と言えるか。


ああ、言えるだろう。死ぬことはあっても、死に切ることはできない。



さて、吸血鬼の不死とはどちらを指すのか。


後者である。

死んでも、死んでも、死に切れない。生は輪のように巡る。



ここで、血の話をしておこう。


生命の源。

生存の証。


血は、命という不確かなものを動かし続けている。これら朱色の流動体が、人間を人間たらしめているのである。

これは、決して容易なことではない。


血には大きな力が宿っているのである。時に想像を覆し、不可能を可能にする程の壮大な力が。



そして、その血を吸う悪魔こそ吸血鬼であり、また、不死の禁忌が犯される秘密に直結する。


とりわけ吸血鬼の血は更なる特殊性を有する。その特殊性を保つがために、神聖なる血を蹂躙する義務が与えられているのである。


ではその特殊性とは。


吸血鬼の血には、その肉体の主の記憶が宿るのだ。

魂、と呼んでも差し支えあるまい。

人格が、歴史が、名前が、血に染み付いているのだ。


故に吸血鬼が死を迎えたとき、唯の有機物と成り果てた肉体とは縁を切り、血は次なる主を探し彷徨うのである。

そして美しき肉体、優雅なる生命を発掘し寝床とする。


蘇るのである。



だが繰り返される歴史の中で、吸血鬼は血の新しい使い道を見出した。


〈血継ぎ〉


わかりやすい言葉を使うと、共喰いである。

同種を殺め、肉体と縁を切った血をすすり、我が物にするのだ。


吸血鬼は唯でさえ強大且つ凶悪。複数の記憶を宿せたならば、その力量は言うまでもない。


英雄の血を吸い尽くせば、英雄の力を得る。

魔王の血を飲み干せば、魔王となり得るのだ。



太陽は陰り、やがて霧が立ち込める。

不死の時代の到来だ。


これは血を継ぎ、記憶を紡ぐ、〈血継ぎ〉の物語である。






















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