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まおうさいばん!

作者: 倉里小悠

「時は来た――――。

 此度の催しは我々にとって初の試みとなる――――。

 皆の者、準備は出来ているな――――?」


 ゆっくりと、大いなる存在が顔を上げた。


「もちろんでございますぅ。今宵は必ず満足されることと思いますわぁ」


 妖艶なる美女は、恍惚の表情を浮かべ返答する。彼女の側頭部から生えた、黄金の山羊の角が小さく光った。


「シシッ、歴代の魔王サマで満足した人なんざ1人もいないヨ。スペルビア陛下だって同じサ。こんな常識を忘れるなんテ、男とヤリ過ぎて頭までイッちまったカ? シシシシッ!!」


 蛇の胴体を持つ女は、一見美しく見えるその顔を醜く歪めて山羊角の女を(わら)った。滑らかな鱗が光を受けててらてらとちらつく。


「傲慢の化身たる魔王様が満足を覚えたことなぞ無いのは当然だが、だからと言って今宵陛下が満足せんとは限らん。なにせ我らが忠誠を誓ったお方なのだからな」


 大の男すら見上げるほどの偉丈夫は、言外に蛇女を窘めた。その眼は炎かと見紛うほどに苛烈な輝きを湛えていた。



 この場には、7つの存在がいる。

 そのほとんどは異形であり、異常である。

 人よりはるかに優れ、人よりはるかに醜い。そんな存在ばかりである。


 魔王、スペルビアと呼ばれた存在は、他の6体の様子を見て大きく頷いた。


「では――――始めるとしよう――――」




 この悍ましき者たちによって開かれる、今宵の催し物とは――――――――























「開廷だ――――!」



 ――――裁判である。



□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


「被告体、証言台へ――――」


 俺は強い言葉で言い放った。

 この言葉には、魔界に生きる者にとって抗うことのできない力が込められている。魔界に住む者にとって、これには従うことしか許されない。

 ついでに、この場にいる者は皆人ではないので「~人」という表現は全て「~体」という表現になっている。


 俺が被告体と呼んだ魔物は――表情は分からないが――重い足取りで、人間にとってはとてつもなく大きい証言台へと上がる。


「それでは体定質問を行う――――。

 被告体、汝は何者であるか――――?」


 ううむ。人を体にするとなんだか違和感があるな。裁判での言い回しはやっぱり再考の余地ありか……


「……」

「む――――? 被告体、早く汝の名を言うがよい――――。

 名がないのであれば、種族の名を述べ、汝のみを表すものを示すのみで良い――――」


 ここは魔界であり、多種多様かつ異形の物が住んでいる。全ての住人が人間であり、法整備が行き届いた日本ではない。

 だから戸籍はもちろん、住処や名前がないなんてざらにある。


 であれば、ここ魔界の裁判において体定質問は、種族名と各個体固有の物を示すことで済ますのが無難だろう。

 まあ、これは間に合わせの策だ。今後とも法整備を進め続けて、ゆくゆくは魔界に住む民全てに名前を与えられるようにしないとな。



「……」

「どうした―――――。早く答えられよ――――」


「……」

「ええい! 貴様っ、魔王様が答えよとおっしゃられておるのだぞ!! さっさと答えないか!」


 傍聴席にいた1人の男が、被告体に向かってヤジを飛ばす。

 多分魔王崇拝派の魔界貴族だ…………面倒だな……。

 公判中は静粛にって言ったんだがなぁ。


「モブオ子爵、傍聴席では静かにと言付けておいたはずだが?」


 俺が言葉を発する前に、俺の右隣に座っていたイーラが大きな声で先ほどの男を窘めた。


「っひ!? サ、サタン公爵……し、しかし! そこな無礼者が魔王様の命を……」

「無礼者は貴様だ。貴様も陛下の命を無視しているであろう? 傍聴席では静粛に、という命をな」

「あ、あわわわ……も、申し訳ございませんでした……」


 さすがイーラだな。魔王の権能が無くても他の魔界生物を圧倒する気迫がある。

 ざわめきかけてた法廷内の空気が改めて引き締まった。



「では、公判を続ける――――。

 被告体、早く名を「あのー」……なんだ――――?」


 今度は検察側からかよ! 裁判長の言を遮るなっての!!


「今は体定質問ちゅ「ちょっと聞いてくださいって!」…………」


 不敬であろう! (オレ)は魔王であるぞ!? おのれおのれおのれおのれーーー!!


「陛下、一旦聞いた方がよろしいのでハ? (全く凡愚めガ。陛下はそれくらい承知の上にきまっているだろウ)」


 イーラの右隣に座っていたインヴィディアが、検察を若干見下した目で見ながら進言してきた。いや、インヴィディア、ボソっと言ってるけど俺には聞こえてるからね? あんまり他者の陰口は言っちゃだめだよ?

 まあ、インヴィディアも考えてから物を言う忠臣だ。その忠臣から愚かな検察官の言を聞くべきだとの進言あったなら……仕方ない、か。


「……申してみよ――――」

「あ、大したことじゃないんですけど」


 ……いや、大したことないなら裁判中断すんなよ。

 何かと癇に障る男だが、まあ言葉の綾ってやつだろう。ちゃっちゃと言わせて公判に戻ろう。

 ん? リビーディネは何をそんなに慌てて――




























「被告体、スライムなんで、喋れませんよ?」







 ――は?





















「……ブフッ」

「……グッ……グッ、ギャハハハハハハ! アーッハッハッハッハッハ!! もう我慢できねぇっ! アッハハハ!!」

「あっちゃぁ、言っちゃったかぁ。もう少しで間に合ったんだけどなぁ」

「エ、陛下素でミスってたのカ?」

「モグモグ、ドーナッツ美味しい……」


「……」


 アケディア、アワリティア……お前ら覚えてろよ?

 リビーディネとインヴィディアも気づいてたなら言えよな!

 あとなに公判におやつ持ってきてんだよグーラ!! しかもそれ俺の揚げたドーナッツじゃねぇか!!!


「陛下、気にする必要はない」

「イーラ……」


 おお、さすが俺の一番の忠臣……。お前だけはしっかりフォローしてくれるんだな……。


「貴方様しかこのようなミスはできぬ。むしろ誇るべきだ」

「ですよねー! あなたそういう人ですもんねー!! しっかりトドメ刺してくれたなこの蜥蜴顔無表情野郎っ!」

「常時ポーカーフェイスだからな」

「ギャハハハハハハハ! は、腹が、腹が捩れるぅ!! アッハハハハハ!!」

「モグモグウマウマ」

「早々に収拾つかなくなりましたねぇ……魔王様も素が口調に出ちゃいましたしぃ」

「ていうカ、傍聴席の魔界貴族ドン引きしてるゾ」

「うむ、もはやこれまでだな」

『……無様ね』(フリップボードに書かれている)

「「「ザワザワ」」」





「くっそーーーーーーーーーーー! 覚えてろよお前らぁあぁぁぁ!!

 『時間結界(テンプスオベクス)起動』! 『時間逆行アド・プラエテリトゥム』!!

 次は絶対へマなんてしねぇからなぁあぁぁあぁぁぁぁぁ!!!」


 魔王なのに三枚目徒しか思えない捨て台詞を吐きながら、俺は万が一の保険として用意していた第四魔法を起動した。

 魔法の光が法廷内を満たしていく…………



□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□


「開廷だ――――!」


 第四魔法。この世界において、時を司る高位の魔法種類である。

 今生の俺は、この第四魔法を得意とし、この力で魔王へと成り上がった。

 今回はかなりくだらない理由で使ったけれど、これかなりヤバい魔法なんだぞ?

 詠唱と魔力練り上げの時間を省略するために結界術まで併用した、世界最高クラスの魔法だし、大量のエネルギーを必要とする時間遡行の効果を持っているのだ。



「グッ、ア、アハッ……!」

『耐えろ、耐えるんだアワリティア!』(フリップボードに書かれている)

「(そうよアワリティアぁ。折角時間を巻き戻したんだからぁ、ここは耐えなきゃだめよぉ)」

「(うむ、陛下の涙ぐましい努力を無駄にしてはいかんからな)」

「(いヤ、陛下に止め刺したのアンタだロ)」

「む……お腹減った……」


 ひそひそ声で話してても聞こえるわ! 魔王の耳ナメんなよ!? 地獄耳だからなっ。魔王だけに!

 ていうかグーラはドーナッツ返せ!! 裁判の後のお楽しみにとっておいたんだぞ!

 お前ら自由過ぎんだよ!


 それよりも、俺だけ開廷の時間まで戻るよう魔法を発動したのに、なんで裁判官7体全員戻れてるんだよ!!?



 俺が怒りの視線を後ろに向けると、俺の忠臣(?)たちの内の1人の手が動いた。




『( ´∀`)b』(フリップボードに以下略)


 お前かアケディア! このダンマリオタク吸血鬼め!! 魔法の腕だけは上手だな!


『よせよ、照れるぜ……それほどでもあるけどよ(///▽///)』


 褒めてないわ! ていうか声にも出してないわ!! だってもう法廷の中だからな!




 影でくだらないやり取りをしているうちに、俺達は席についた。


「被告体、証言台へ――――」


 俺達7体はともかく、法廷にいる他のやつらはさっきの俺の失態を知らない。時間を巻き戻ったからな。

 だからさっきのノリのままでいて失敗するなんてドジは踏まないようにしなければならない。


 スライム特有の重い動きで、被告体が証言台へと移動する。

 よし、被告体はスライムだから喋れないんだったな。だったら名乗らせるんじゃなくて……


「それでは体定質問を行う――――。

 被告体、汝は何者であるか――――? 汝の体で表すがよい――――」


 よしっ、被告体がウネウネ動きだした!

 これで何かしらの表現をするだろ。スライムっていう種族の軟体性を利用したコペルニクス的閃き。ふっ、俺って天才だな!


 お、被告体の動きが止まった。

 ん? さっきと何も変わってないな……?



「どうした被告体――――。早く汝が何者であるかを表せ――――」

「……」


 え、何が起こってんの? こいつなんで何もしてないんだよ!? ちょっとウネっただけじゃん!



(チョイチョイ)


 ん? アケディアが何か合図してきたな……?


「(なんだ?)」


 ひそひそ声で俺はアケディアに応える。


『名は体を表す』(フリップ以下略)


 名は体を表す……? 日本のことわざがどうしたって言うんだ。


「(あぁ、なんか私ぃ……分かっちゃったかもぉ……)」

「……ッ! ……ッ!」

「(オイオイ、アワリティアがもうすでに耐えきれなさそうだゾ!?)」


 え、他のみんなは分かるの!?

 な、なんだ……? 名は体を表すって確か意味は、“名前はその物や人の性質や実体をよく表すもの”っていう意味――――まさか。


 俺は静かに、だが重い動きでアケディアの方を向く。

 確信に近い俺の予感が、当たっていてほしくないという思いを込めて。






 だが、現実とは無情である。




























『被告スライム:「名乗るまでもない。見ればわかるだろう?」』(フリ(ry)
































「ふっざけんなあああああああああああああああああああああ!!!!」


「アハハハハハハハハハハハ!! アッ、アッ!? アッハハハハハハハハハハ!!? やべえ! 死ぬっ!! 笑い死んじまう! ギャハハハハハハハハハハハ!!!」

「うむ。これで陛下はお疲れから、今宵は満足いく食事ができるだろう。この催し物は大成功だ」

「それってなんか嫌な満足の仕方じゃないカ……?」

「まぁまぁ、また陛下の第四魔法で戻ればいいじゃないですかぁ」

『さすが陛下! そこにシビれる! あこがれるぅ!』(略)



「こんなメンツで裁判なんてできるかぁあぁあああああああああああ!!! もういやだぁぁぁぁああああ!!!!」



 再び、法廷内を魔法の光が包み込む。

 この光を、俺達はこれから何百回と見ることとなったのだが、もう語る必要はないだろう。

 アッ涙が……。























「ドーナッツウマウマ……」

お試しでギャグコメを書いてみました。いやはや、やっぱりギャグって難しいですね汗

面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブクマ、感想よろしくお願いしますm(_ _)m


感想で希望があったら連載にしようかなと思ってます。

連載化したらギャグ一色じゃなくてシリアスも入るようになるかな?

まあ、書いてみないと分からないですけれどwww


今後とも倉里小悠をよろしくお願いします。

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[良い点] 着眼点が面白いと思いました(*゜▽゜)ノ [気になる点] 罪というからには、法があるわけですよね? 強いモノが勝ちなら裁判も不要です なんの罪だったんでしょうか? [一言] 弁護人と検事…
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