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閉じ込められた歌姫と王子になれない青年  作者: 発芽
ライア、僕と一緒に……
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さぁ、行こう

 燃え続ける炎は、遂に蔵書室を飲み込んだ。そして、遠くから消防のサイレンが近づいてくるのが聞こえた。

 ……やっと来たか。

 というのが正直な感想で、やっぱり鎮火するのを呑気に待っていたら、ライアは助からなかったんだと改めて思った。



「火を放ったのは、ライアさんへの個人的な怒りなのか、それとも所有権がわたくしの家に移っている事を知っての事なのか……。どちらでも同じことだわ」


 ディアンヌ様は、売られた喧嘩を買いそうな、強気の目を宿す。今ごろ彼女は、一時の感情だけで大変なことをしてしまったと、青ざめているだろうか。蔵書室は本館から離れた位置にあるから、燃え移る心配はないのは良かったのかもしれない。

 


「あ、あの、ディアンヌ様。差し出がましいお願いなのですが……」


 

 緊張した声でライアは頭を下げた。


「なにかしら?」

「此処を出るまでに、フロンの傷を手当てさせて下さい。血は止まってませんし、この状態で逃げても何もしてあげられません……っ」

「いえ! 僕なら大丈夫です。こんな傷なんて」

「そんなのダメ! ちゃんと手当てしなきゃ化膿しちゃうんだからね」

「そうね。……でもわたくしにお願いされても困るわ。救急箱なんて持ち合わせていないもの」


 笑の中に何かを含ませながらディアンヌ様は、アルバート様の顔をじっと見る。ライアがアルバート様に直接お願い出来なかったの理由を、なんとなく僕も察した。


「お願いを聞いて差し上げたら? もう負けたたんですから。意地悪なさると、ライアさんに嫌われてもしりませんわよ」


 一言余計だ。そう言いたくなるのを抑えてか、アルバート様は肩をわざと落とし屈する。そして、あれこれ考えた末に彼は答えた。


「今更、嫌われるも好かれるもないが。……まぁ、いい。メイドに頼んで、持って来させよう。だがな、お前のためじゃない。済んだら直ぐに此処を離れろよ。もたもたしてるなら、またライアを俺のものにするからな」


 敵意むき出しに睨まれ、背を向けてる。「お前たちを見ていても、余計にむしゃくしゃするだけだ」と、そんな捨て台詞のおまけ付きで。

 僕はともかく、ライアにくらいは挨拶するかと思ったのに、少し意外だった。


「誰も居ない所で泣いてたりてね」


 そんなアルバート様の態度をディアンヌ様は、茶化すように小さな声を漏らして笑っている。幾度も彼女の思ったように事が最終的に運んで、さぞかし幸せな生き方をしているんじゃないかと思ってしまう。

 ……とは言っても、そのディアンヌ様に僕らも助けられたのは事実だ。

 そして、アルバート様は半分だけ振り返ると、「ディアンヌ嬢、君も父さん所に一緒に来るんだ。良いな?」と呼びかけた。


「あら、やっとご決心して下ったの?」

「……その前に、ライアを逃がした事を話すのが先だろ」

「分かってますわ。わたくしから言わないと、納得して下さらないでしょうからね」


 容易く言うと、ディアンヌ様は僕らに向き直ると、にっこり笑ってドレスの端を掴みお辞儀をして、後にした。



「ねえ、フロン」

「ん」

「ディアンヌ様とアルバート様はこの先、大丈夫かな……」

「ライアが気にすることじゃないよ」


 

 二人が結婚して、上手くやって行けるか。婚約者ではない別の人と結婚を望んでいたのだから、多少わだかまりは残るだろうけど。少なくてもライアのせいではない。




「フロン! ライア様!!」


 そう叫んだのは、サラだった。救急箱を抱えて走って来た。目にはいっぱいに涙を溜めてるのが見えて、どれだけ気に病んでいたのか伝わってくる。


「……良かった。ご無事だったんですね」

「サラさん、心配かけました」

「本当にっ」


 サラはライアの肩をぎゅっと抱きしめた。


「フロンがこの火の中に飛び込んだ時、どうなってしまうのか、不安でした。でも本当に…、本当にライア様は蔵書室の中に居たなんて……」


 あの時、こんな場所にライアが居てたまるかと思った。でも居ないとも言いきれない状況かった。そんな不確かなままに、飛び込んだけど。でも本当はどこかで、ライアは蔵書室に居る気がしていた。


「良く分かりましたね?」

「居ると思った、それだけだよ」


 僕らが五年ぶりに再会したのは蔵書室だった。


「もっと早く勘が働けば良かったんだけどな」


 ため息を着くと、ライアは首を振って「そんなことない」と、痛くない方の腕をぎゅっと掴まれた。


「腕、見せて下さい。早く消毒しないといけませんから」


 言われた通り、処置しやすい様に上着を脱ぎ、袖を捲りあげ、サラに腕を差し出すと、少し驚いたように瞬きされた。


「……変わりましたね」

「ん?」

「少し前まで、人に触れられるのを拒絶してたのに。今では、私に大人しく手当てさせてくれるなんて、考えられないことですよ?」

「……確かに、そうだったな」

「それに、柔らかくなりました」


 そう言ってサラは、懐かしむように微かに笑う。でも少しだけ寂しそうにも見えた。

 

「ライア様に会えて、良かったですね」


 独り言のような小さな声で言っかたと思うと、サラは今の言葉を消すように早口で言った。


「血を止めるために、強めに抑えます。この傷なので痛いのは覚悟して下さいね?」

「う……っ!」

「男なら、我慢してください」


 涼しい顔で言われたけど、そりゃあサラは痛くないだろよ。



「……私は、ライア様が強く居られるかずっと心配していたんです。フロンに会ったら、ライア様は強くなれるのか、それとも弱くなってしまわないか、と。絶対に、未来なんて無いと思ってたから、会えば会うほど、不幸になってしまうだけですから」


 

 サラは言葉を探しながら、少し口を閉じた。



「良かったです。お二人が一緒になれて」

「サラさん……っ」


 締め付けられた目で、ライアは呟いた。サラとライアはお互いに何かを知っているみたいだったけど、僕には分からなかった。

 だけど、ライアの傍に居たのがサラで良かったと本当に思う。そんな事を言えば、サラに迷惑をかけっぱなしだったから、怒られそうだ。


「屋敷はディアンヌ様が来る事で、どう変わっていくか分からないけど、居心地が悪かったら、トーマスさんに頼めば良い紹介状を書いてくれるはずだから。無理している必要はないからな」

「頑張ってとは、言わないんですね」

「居なくなる僕が言っても、無責任だろ」

「えぇ」

「サラには感謝してる」

「私も、最初の方からフロンには助けられてたから、このくらいは良いんです。それに、ライア様の侍女ができて、とても楽しかったですよ」



 会話をしているうちに、サラはライアの手当も済ませ、片付け始めた。


「もし、私に気を使われているのでしたらなら、最後に一つだけ聞いてくれますか?」

「分かった」

「では、もう行って下さい。そして、振り向かずに聞いてくれるだけで良いんです。ライア様も、よろしいですか? 私が最後にフロンに本当のこと言っても」



 ライアは、サラが何を言おうとしているのか、分かったみたいで、しっかりと頷いた。

 サラに釣られて僕らも立ち上がると、そのまま背中を押して、歩き出して下さいと、急かす。


 


「フロンは、自分の事を価値のない人間だって思って、嫌ってるようですが、そんな事ないですよ。私は貴方のこと、好きでした。きっと貴方はもう大丈夫です。ライア様の事を任せましたからね!」



 思わず、振り向きそうになった。

 絶対に大事だったはずの言葉が、別の言葉で流れるようにかき消して、まるで僕が聞き間違えた気さえする。どんな表情で言ったのか

わからない。

 だけど、確かにサラは言った。


 気づかなかった間、どれだけライアのことをサラにお願いしてきたか。その時のサラの気持ちを思うと……。


「サラ、ありがとう」



 振り向かずに僕も、背中を向けたまま言った。

 こんな風に、誰かの好意を受け入れられるようになったのも、少し前の僕には考えられないことだった。







**



 それから僕らは走った。ライアの腰を縛るコルセットが肺を圧迫して苦しいのと、慣れないハイヒールで足を痛めて、歩く事にした。

 走れなくてごめんね、とライアに謝られたけど、気を使わなかった僕の方が悪かった。背負い込こうか? と提案したら、フロンは腕を怪我してるからいいって頑固に断られてしまった。


 少しだけベンチで休んだ時に、ライアは僕の顔を見て不安を言い当ててる。「アルバート様の言ったことを気にしてるんでしょ」と。


「貧しい生活なら、フロンより私の方が得意だから、任せて! なんならどっちが先に根をあげるか勝負する?」


 なんて、楽しそうに笑って言う。

 だけど、いつだってそんな風に笑うライアに助けられてた来た。


「あー、勝てる気がしない」



 それから、ディアンヌ様がくれたネックレスとライアが身につけてた使える金属を売って、換金し、古着屋で破れと焦げでダメになったドレスと僕の服を買い換えた。

 奥で着替えてできたライアは、「フロン、みてみて!軽い! 動きやすい! 苦しくない!」って僕に服を見せるようにクルクル回る。その勢いで、ワンピースがふんわりと舞った。

 こんななんでも無い、安ものの服とぺったんこの靴に戻ったと言うのに、本当に嬉しいそうだった。ライアは、やっぱり貴族なんて似合わない。

 古着屋の亭主と奥さんは、そんな僕らを見て呆気に取られているようだった。


「いったい、どこのお嬢様と使用人が、屋敷を抜け出してきたのかい……。それにその傷も、いったい何があったんだ?」


 正確には違うけど、似たようなものだろう。


「僕らは、しがない庶民ですよ」

 

 手を差し出すと、ライアは躊躇いなく僕の手を掴み返した。

 その固堅く握った手が、この先の未来を確かなものにしてくれる。


 


「ライア、僕と一緒に」

「うん!」



 ……今度こそ。

 今度こそ、僕らは何処にだって行ける。



 着飾ったもの、

 重たいものを脱ぎ去り、

 全てを捨て、

 軽くなった足で、

 僕らは、再び走り出した。





 それから、発車目前の汽車を追いかけて、三等車に飛び乗った。


 汽車は僕らを乗せて、南へと走り抜ける。




次回のエピローグで完結します!

その後の話として蛇足2話?

別ページで番外編が、気まぐれに数話


って感じの予定です。

あと少しお付き合い下さいませm(*_ _)m

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