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閉じ込められた歌姫と王子になれない青年  作者: 発芽
ライア、僕と一緒に……
32/45

必ず迎えに行く




 静まり返った蔵書室で、トーマスさんは肩を竦める。



「全く。アルバート様のお気に入りのものに対してとんだ軽率な事を」

「僕が先です」

「言い返しおって。だとしてもだ。旦那様の私物だった時からなら尚更、罪は重いぞ。分かっているのか。まさか真面目なお前があそこまでの関係になっていたなんて、とんだ愚か者だ」


 いつになく、トーマスさんは僕を叱りつけた。この屋敷で、業務などを面倒見てくれたので、部下として申し訳ない気持ちにもなる。だけど、こればっかりはどうしようもなかった。 

 じっとトーマスさんは僕を観察するように見た。やり場のないような視線が向けられる。


「……蔵書室の鍵を開けるよう呼ばれ、驚いた。まさかお前が、"歌姫"と一緒に居るとは、耳を疑ったよ。だが、同時に、やはりそうだったか、とも思い直した」


トーマスさんは最初の面談の時から、僕がこの屋敷で働く動機を疑っていた節がある。そして、ライアが来てからもサラに僕を観察させる程にには。


「フロンとライア様は、いったいどんな関係なんだ。何処までライア様にした……? 場合によっては軽くは」

「信じてもらえないかもしれませんが、僕は潔白です。ただ本当に会っていただけです」

「あぁ、信じたい」



 そして、「立てるか?」と、手を差し伸べられて僕はなんとか痛いながらも立ち上がった。



「お前がライア様を大切にして来たであろうことも、先の会話から十分伝わってきた。あんな言い方をしてアルバート様をあそこまで、怒らせたのも彼女の身を守るためなんだろう。お前がその場しのぎの恋愛ではないのは良くわかる……」


 しかし……。そう言って首を振った。


「反対はしてやりたくないが、ライア様はいくらなんでも、諦めざるをえないぞ、フロン。アルバート様が好きになさってるが、今も旦那様の私物であることに変わりはないんだ。……どうして、よりにもよってライア様を好きになったんだ……」


 やるせなそうに吐き出された。僕もこの偶然を恨みたくなる。だけど、再会したからこそ僕はライアを好きだと気づけたし、こうして繋いでもらえたようなものだ。


 ……諦める?

 それは、無理だ。


 此処で僕が諦めたら、ライアを不幸にさせてしまう。



「旦那様は初日、僕に訊きましたよね。歌姫に心当たりはないかって。実は、あの日既にありました」

「何故、言わなかった?」

「僕の大切な人だったから……」

「まさか、」

「はい。ライアです。身内を売るような真似、言えるわけ無いじゃないですか」

「……お前とライア様は屋敷で会うよりも前から?」


 唖然としたトーマスさんは、何かを言いかけて口を噤む。


「では、ライアが本当は"買われてなかった"としたら、この屋敷に留まる理由なんてありませんよね」

「そんな証拠があるのか?」

「証拠なんてありません。偽の小切手は僕もライアも手元に持ってませんから。孤児院の近所に住むおばさんが証人になれるのかすら分からない。ですが、僕らが潔白である限り、自分を咎めずにこの屋敷を出ていくことができる」





 扉の先。目線は此処から出て、アルバート様の部屋の方向を睨みつけた。懲りない性格を、人は嘲笑えばいい。


 僕はまだ諦めていませんよ。

 怯えながら、待っていればいい。

 必ず姫を王子の手から救い出しにに行きますから。


 


 だからライア、信じて待っていて。







「悪いな」

そう言いながら、トーマスさんは物置へと連れて行った。流石に



「ーーところで。誰も追求はしなかったが、ライア様が物置に居るのをなぜ知った? お前が知る由もないことのはずだが」

「……っ!」

「フッ……、言わんでも分かる。サラも絡んでるんだろ」


 追求されるのも、僕の答えを聞くよりも早く、確信を込めてトーマスさんはまるで、見ていたかのように言い当てた。そこまで言われたら、返す言葉も出ない。

 ライアが物置に閉じ込められていたことは、僕同様に他の使用人は知らされていない。多分極小人数しか知らない秘密情報のはずだ。トーマスさんは僅かに知るその中の一人で、執事の立場として把握していたのか……。


「……よくご存知で」

「サラは侍女を務めていたからな。他にお前とライア様を取り計らう者が居るとは思えん。まさか此処まで手助けするとは思わなかったが。まぁフロンの様子を見とけと命じた儂の責任でもある、か」

「サラの性格からして、そうでしょうね。僕も、そんなサラに甘えました。……トーマスさんも本当は、サラが侍女になったから、そんな命令をしたんじゃないんですか?」


もし、別の人がライアの侍女になっていたら、トーマスさんは同じように僕を見張っておけと言ったのか?



サラのことは、旦那様にもアルバート様にも報告しないで下さいませんか」


 サラには、なにかと助けられている。僕らのために咎められるを見たくはなくて、頭を下げると、その頭を軽く叩かれた。僕の頭にトーマスさんの手がのかったまま、トーマスさんは答える代わりにため息を吐く。


「あまり巻き込んでやるなよ」

「……はい」



「気付かれついでに、サラに伝えてくれますか」

「なんだ?」

「見つかったのは僕の責任だから、サラのせいじゃない、と。多分、この状況を知れば」

「……分かった。伝えておこう」


「さて。アルバート様の命令通り、お前には物置に入ってもらうぞ。手荒なことはしたくないから、抵抗してくれるな」

「……逃げようにも、身体が痛くて走れませんから、此処は素直に従いますよ」


 肩をすくめると、トーマスさんは苦笑する。


「味方になってやれんで、悪いな」

「……いいえ」



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