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会わない、ってもう決めた

もう少し過去編をゆっくり書くつもりだったのですが、完結まで書く時間が無くなってしまい、足早に折りたたんだこと、申し訳ございません!

話の展開が早いです…多分。


そして、乱文なのも重ねて申しわけありません!

お待たせしました!!





 いつものようにライアと夜道を歩いて帰ってくると、マイケルの泣き声が聞こえてきた。全員、起きてるみたいで、あやしているディナの傍で心配そうに囲んでいた。



「みんな、どうしたの?」


 僕らが帰って来た事にも気づいていなかったのか、声をかけると驚いたものの、ほっとしたようにみんなは息を吐いた。



「マイケルがね、怖い夢を見たんだっさ」

「そうなの……大丈夫?」


 すかさずライアは、駆け寄って抱きかかえに動く。


「良いよ。歌って疲れてると思うから、ライアは休んでて」


 僕は酒場に着いて行っただけだし。マイケルを抱き上げると、泣きべそうをかいた目をしながら、小猿みたいに僕の肩に顔を埋めて、小さな手でしがみついた。

 ソファに腰をかけると、ライアはその横に来て、「ちょっと詰めて」とか言って2人がけの所に座ってくる。休んでてとは言ったけど、隣に来ると思わなくって、少し戸惑った。


 そして、ライアはマイケルの背中をぽん、ぽん、と叩きながら小さな声で歌い出す。子守唄のような優しい音色で。ライアの声が間近だから、僕に歌われてる気分になる。

 マイケルが落ち着くのは、本当にすぐで、ライアは手馴れたものだ。今までもそうして来たんだろ。



「そう。いい子ね」


 それからライアは、くしゃくしゃとマイケルの頭をそっと撫でると、もぞもぞとくすぐったそうにマイケルは笑った声を出す。


「あのね、おとうさんとおかあさんが、消えちゃう夢をみたの。いたのに、いなくなっちゃう夢。おそとには、みんないるのに、どうしてぼくにはいないの?」


 昼間、街で親子連れを見かけて、寂しい思いをしたのか夢に出てきたらしい。



「そうだね。それは怖かったね……」

「…….うん。ねぇ、ライアおねぇちゃんと、フロンおおにいちゃんは、もうケンカしない?」

「どうして?」

「この前、なんか二人ともへんだったから。どっか行っちゃう気がして」




 埋めれていた顔をあげると、僕とライアの顔を交互に見て、マイケルは嬉しそうに声をあげた。瞳がきらきらと光っている。


「だって! フロンおにいちゃんと、ライアおねえちゃんが、おとうさんとおかあさんみたいだから!」


 言われた瞬間、顔を見合わせたのは僕らの番だった。


「そうだ! なっちゃえばいいじゃん!」


 機嫌が直ったのか、にこにことするマイケルが、僕とライアの手を引っ張って握らせる。どういう意味で言ってるのか、分かった途端、血の気が一気に引いていく気がした。


「そういうのは、勘弁してくれ……」


 口にしてから、言うべきじゃなかったことに気づいても、もう遅かった。思わぬことをマイケルに言われたライアは、困ったように顔を赤くしていたけど、僕の否定した瞬間、固まったようになる。


「あっ……。そ、その、違うの! ちょっと冷やしてくるねっ」


 戸惑ったまま、手をぶんぶんと振ると、握らされていた手を振りほどき、そのまま玄関へと走って行った。



「うー、ぼく、わるいこと言ったかなぁ? 」


 泣きべそをかきかけるマイケルの言葉に、総出でみんなは僕を見た。


「だって、ほんとに、おとうさんととおかあさんみたいだったんだもん! 2人がなってくれるならうれしいのに」

「……っ」


 こんなに懇願されると、さすがに良心が痛くなる。僕はあまり親のことは好きになれないけど、幼い子にとっては、居て欲しいものだってことは身に覚えがあった。

 


「この家には、ライア姉とフロン兄しか親の代わりになれそうな奴は、いなんだから」



 ウィルフレッドも仕方なさそうしつつも、マイケルのためか付け足した。見回すと、他の妹や弟たちも頷く。


「前に言ったでしょ。ライアお姉ちゃんとフロンお兄ちゃんが、ケンカしてたら、家の中が不安になっちゃうって」


 ディナも、ウィルフレッドに続くように口添えをした。

 

「2人が連携して、家を守ってくれてる姿は見て安心するの。……今まで通りで良いからね? ただマイケルの前では、お母さんとお父さんになりたくないって、言わないであげて。……ね?」


真剣にお願いをされ、そのまま押し負けてしまった。

それでも、頷いたことにマイケルは目を輝かせ、飛び跳ねる。


「ほんと? ほんとにほんと?」




 その横でウィルフレッドは、こっそりと小さな声で言うのだった。「」








☆☆





 こうして、春が過ぎ夏から秋へ。秋が瞬く間に流れ去り、最初に来た頃の季節である冬になった。


 ウィルフレッドとはあの日を境に、割と膝を交えて話せるようになったし、取り合ってくれるようになった。

 年少のマイケルは、甘えん坊だったけど少しだけ泣かなくなり、大きくなったものの、やっぱりまだ夜中のトイレは誰かについて行って欲しいみたいで、ウィルフレッドがいつも面倒を見ている。

 ライアとは相変わらず、笑ったり、この家の話をしたり、さながら"夫婦ごっこ"を演じている。


 どうしてもライアとの接し方が、わからなくなる時が多々ある。それがいつしか、僕を困らせ、日に日に手に負えなくなってる気がした。息が詰まるような、居心地が悪いような、ライアが居ると胸騒ぎがする。このまま居たら多分、僕はまたライアにきつく言って距離を取ってしまう。

 それでも良いから此処に残るべきなのか、それとも出た方が迷っていた。ギリギリの生活の中で、いっぱい身体を張って歌っては稼ぐライアの足しに少しでも力になりたい気持ちもある。僕が此処で働いては居ても、ライアの足元にも及ばないのは、男としても恥ずかしい。


 そう思い心に決めると、酒場で手伝いをしているとお客のツテで、どこかの小さい屋敷で使用人を募集していることを教えてくれた。まだ、使用人としての経験はないが、ちょうど男性も置いておきたかったらしく、雇ってくれる話になった。

思わず、僕は離れられることに安堵した。離れることを、ライアはなんて思



 数日前に、出かけることを告げてから、当日の今日。

 一年前に来た時のように、持ってきた荷物をまとめ、見送りにライアとウィルフレッドが立った。


 ライアが僕の手を握ろうとしたのが、分かった。だけど、伸ばされた手にまだ怖くて捕まらないように1歩下がった。触れられなかったライアは、腕を下げてスカートをぎゅっと掴んでいる。


「僕は行くよ」


 目の前の女の子の瞳から涙が滲んでるのが見える。その涙はずっと流れずに瞼に留まっている。


「ここに居てできないことなの?」

「僕が此処に居るより、外に出た方が出来ることがいっぱいある。きっと今よりライアの事も守れると思うよ」


 この街は比較的首都よりの東だけど、やっぱり賃金は安めだ。そう思うと、西に出た方が安定した職につける。この1年でやってもらう事が当たり前だった立場から、料理や洗濯、雑用、雇われ方を人通りこなす事ができるようになった今、使用人としても働かせてもらえるはずだ。


「ライアが中から守るなら、僕は、外から孤児院を守るよ」


 ライアが此処を離れたくない理由も良く知っている。だからと言って僕が、ライアを連れていかない理由じゃない。


 親元を離れる子供は東には多く、16歳にもなれば、大人のように好きな女の子を見つけて2人で暮らし始める。何かを売ったり時には盗んだり、それを女の子にも強制させたり。そうやって食いつないで生活するのは珍しくはなかった。もちろん、どっちかが警察に捕まって離れ離れになることだってある。

 彼らは自分と同じくらいの歳だけど、考え方が違って、遠い場所で行われてる感覚だ。


 また会おうとか、いつか迎えに来るとか、口になんかできそうになかった。多分、男なら言うべき場面なんだろうと思うけど、僕には無理だ。人を好きになり一緒に暮らす、そんな何処にでもある風景も、朧げにしか想像できず、その人を幸せにする自信も持てない。

いつまで経っても、人を好きになることを拒んでいる自分がいる。


 



「最後に約束して欲しい」

「…………やくそく?」


 瞬きしたライアの瞳から、ぽたぽたと涙が流れた。


「何があっても、身体を売らないでくれ。絶対に。それが皆んなのためだったとしても。ライアには、そんな事して欲しいないから」

「……わかった。約束する」

「祈ってるから」



「フロン兄、どうしても行くのか……。なんでだよ! ライア姉はどうするんだよ?」

「ウィルだって、ずっと孤児院(ここ)にいるわけには行かないだろ。それを止めて残ったりしたら新しい子を迎えられ無くなる。残れるのはライアだけだよ。僕はライアの保護下に居なくても、生きていけるし」


「……ライア姉こそ、これで良いのかよ?! 何で止めないんだよ?」

「フロンが決めたことでしょ。それに、ウィルに迷惑かけるわけじゃないじゃないの。むしろ、暮らしを助けてくれるんだから……」

「違う! ライア姉自身のことだよ」

「……もちろん、寂しいけど仕方ないでしょ」


 宥めるようにライアはウィルの頭を撫でた。撫でられてる側は、嫌がってるみたいだ。


「いつか、出ていく時の気持ちが分かる」

「分かるもんか!やっぱり、フロン兄なんか嫌いだっ!」

「ウィルフレッド、此処に居る間だけで良いから、ライアの事よろしくな」

「……っ!!」


 もう口を利いてくれないのか、黙ったままそっぽを向いてしまった。そして僕はライアに向き直る。


「此処に始めてきた時、ライアの笑顔に救われた。この先も、他の子が来ても、そうしてあげて。安心できる家がずっと変わらずに此処にあるって思うと、僕も安心できる。ライアが此処に居て無事に過ごしてるなら……それで良い」


 なにかまだ言い足りない気がした。そのくせに言いたいことが、上手く言葉にできない。こんなのは上部だけの台詞止まりだ。でも、これ以上を言葉にするのは、本心が拒否している。


「……うん。こっちのことは任せて。大丈夫だから。ちゃんとこの家を守るからね」



 



 

 次に会う約束も、いつか迎えに行くとか、また此処で一緒に暮らす可能性も、全部、僕には言えない。




「元気でな」


 

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