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プロローグ

いつものように月に一度、稼いだお金を昔過ごした孤児院に、仕送りをして帰る途中だった。あの(ライア)に何処と無く似た女の子が前を通り過ぎたのが見えて、あの頃に歌っていた歌をふわっと聴こえてきた気がした。


気づかないうちに僕は、つい口ずさんでいたのかもしれない。急ぐように誰かに肩を掴まれて、僕は意識を戻された。

振り向くと、馬車の窓から微かに覗かせる男と馬車から降りて横に立つ男が僕を見ている。呼び止めたのは出で立ちから察するに従者だろう。上流貴族が労働階級の僕になんの用なのか。顔には出さないものの困惑し居ると、旦那様らしき人が直々に話しかける。



「待て。お前は、歌の上手い娘に心当たりはないか? 身分は問わん。この際、誰でも構わない」

「……っ!」


 その瞬間、僕の心の奥底までも見透かされてる気がした。嘘をつくものなら逃さないと言った鋭い眼を向けられる。思わず唾を飲み込みそうになった。心当たりが無いなんて言ったら嘘だ。僕の知る中ではライア以外思いつかなった。顔に出すのをぐっと堪えて当たり障りのない顔を作り返した。


「……いいえ」

「そうか。なら、行っていい」


男は情報を落とさない者に興味はないのか、素っ気なく返す。余計な事を口走る前に、この場から僕も離れよう。そう思ったけど、それ以上に嫌な予感がした。この人がどうして、探してるのか分からない。何が目的なのか。もう少し聞きたいけど、聞くと怪しく思われたくもない。


「…….っ」

「どうした? もう行っていいと言っているんだ」

「あ、あの……」


この旦那様は、探してる女性の名前も、写真や肖像画も僕には伝えなかった。歌える娘なら僕みたいな庶民クラスの女性でも、気に入れば連れて帰るつもりなのか。

旦那様の耳に、国の中で有名でもないライアの話が入ることは薄いはずだ。第一、孤児院のある地域は此処からだいぶ離れている。だけど、もしこの男の耳に入ったらなったら……? このまま聞かなかった事にして帰ってしまって良いのか……?


「なんだ、やっぱり心当たりでもあるのか」

「ありません。ですが……、僕を使用人として雇って頂けませんか」



別の人が選ばれるなら、それでいい。でも誰が来るのか、僕はこの目で確かめなくては心配だった。








**







一通り執筆であるトーマスさんと、前の仕事の話や業務内容を話す。

向こうから「旦那様は君にも、歌の上手い女性について聞いたそうだな」と言ってきた。


「変わった人だろ。だが君もあの会話をした後で、雇って欲しいなどと言い出すとは。よっぽど変わってる奴だ」


と感心したのかしてないのか、判断つかない笑い方をされた。


「聞いてもいいですか。旦那様はどんな人を探してるんですか」

「ちょうどフロン、君くらいの歳だ」

「20歳前後くらいでしょうか?」

「だいたいそのくらいの年齢なら、旦那様のお目に適うだろう」


 トーマスさんは目を細め頷いた。


「上手いだけの条件なら、劇場に行きオペラ歌手でもすぐに連れてくることはできる。しかし、旦那様の探している女性は、そうじゃない。特別な歌唱力はいらん。普通の歌い方で良い。楽しく歌う、その姿を旦那様は重視しておられるのだ」

「……楽しく、歌うですか。他に?」

「ほぅ、気になるか」


 できるだけ、聞き出そうとしたけど、聞けば聞くほど、ライアに思い当たる事ばかりで嫌な予感がした。


「はて。顔色が悪いな。移動で疲れたからか? ……お前がなぜ、この屋敷に働きたいと思ったのか。今より稼げる仕事を探していからと言ったが、本当の理由を聞ける日は来るのかな?」

「……っ」



侮ってはいけないのは、旦那様ではなく執事のトーマスさんかもしれない。前当主から仕えてるであろう長年の経験を得、貫禄を感じさせるこの人は僕の隠していることを見透かしている。


「なに。冗談だ」


肩を叩き軽く笑う。



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