1はじまりへん
春は好きだ
なぜなら、どこもかしこも
かちかちに凍った、冬という季節を
雑草という雑草から
木という木が、それを押し上げ
破る
それを手伝うように
春の疾風が
冬の残骸を
還付無きまでに、どこかへと、ほおり投げてしまう
そんな季節の中
私は、新品の制服に身を包み
新しい学校へ
何回か、予備練習で、乗った電車に、乗り
いま、新たな生活へと
学び屋へと、進もうとしていた
そんな私の目に
歪な物が写った
電車を二つ乗り継ぎ
少々、都会っぽい駅に降りると、そのまま十五分ほどの徒歩
それは、そんなとき
たまたま、入った路地裏に
たたずむように
奇妙に、捨てられていた
そう思うしかないだろう
私は、足下に落ちている
それを拾い上げる
それは、外部を、透明な殻に身を包み
中の物を、まるまると見せつけている
「ガラケイだ」
私は、それを見てそうつぶやく
久しく姿を消しそうで消えない
そんな存在である
ガラケイが、落ちていた
透明である
実に珍しく感じるが
内部が見える時計があるくらいだ
敵から見えにくくするために、透明になった、生物が、居るくらいだ
こんな異物的な物もおしゃれ的な意味合い
もしかすると、機能的意味合いも可能性としてないわけではないのかも知れない
ただ、私がここで一人で論じるよりも
まずはやることがあると
私はそれを手にして
先日の下調べで知っていた交番に、その足を向けた
「本当に、どうしてかしら」
急ぎ足は、時として、どうしようもない
事を、起こすことが、多々ある
良くことわざとして使われる
「急がは、回れ」とは、良く言ったものだと
思っている暇も関心する暇もない
ただ、私はWCと言う
文字に、横文字に直すことで
どこか、レストランとも言えなくもなくもなく無いとも言えない
響きを、流す場所に向かうことになる
要は、朝は、実に危険な時間帯だと言うことだ
私は、携帯を、鞄に詰め込むと
先日下見した
緊急時用のWCに、向かう
ちなみに、この付近にあるWCは、三カ所あり
今一番近い場所は、ここから、百メートル程の場所にあったはずだ
そして、つまり、それは、自分が今日から通う学校
そこであった
「・・・・血」
私の頭に
クエスチョンマークが、大量に、浮かんでは、意味をなさず消える
もしかして、あの日が、非常に、重い人が倒れているのかも知れない
私は、挨拶もそこそこに、校門を、味わうこともなく
無意味なほど、機能的に、通り過ぎると、そのまま、試験時に、確認した
WCへ、最短距離で、入ったのだ
そこにあったのは
新しく美しいタイルを、現代アート並に、理不尽に、理解不能に、描く
赤い、何かであり
はじめこそ、それは模様か何かだとも思ったが
足に付き、つるりと滑った瞬間、それが、乾いていない
粘着質のある何かだと分かる
「・・・・血だよね」
結局、色々考えるも
そう結論を出した
そして何の災難か
ここは、玄関を降りて、すぐしたにある
構造上は、地面の上にあるのであるが
なにぶん、坂に、寄り添うように、建てられているため
一方、すなわち、一階部分だけ、光が届かない場所が存在する
そして、実質、玄関が、さかのうえ、つまりは、二階からはいることになるため、この場所は地下のように感じるが
実際は、標識に「F1」とは、書かれている
で、何が言いたいかと言えば、近いだけを、頼りに、この場所に、はいったがばっかりに、人通りがないらしく
あたりは、入学式だというのに
酷く、静かであった
いや、こう言うときだからこそ静かなのだろうか
どちらにしても、私は、止めとけばいいのに
警戒音が、鳴り響く中
どうしてか、その中で用を足すわけでも無かろうに
入学式というテンションのためか
春という、人を馬鹿にする季節のせいか
その、ノブを、バイクのエンジンの逆方向に、回すように
それを、回し、自分の方へと、その白く
そして美しい扉を、開けた
そこに見えたのは
紙だった
それは、紙吹雪では勿論無い
それは、WCであるからこそ、そこにあって当然の物であり
そこになければ、それこそ死活問題の物が
本来は、絶対ないであろう所に、巻かれていた
それはまるで、マフラーのように
便器に、頭をつっこんで
泳げない人が、洗面器に顔をつけるかのように
その人は、そうやって、そこにいた
「あなたが・・・えーーと」
それは、体育教師と言えばそう見えるような
酷く四角いからだ顔をして居る
たぶん刑事という職種の四角い人種だった
そして、それは、今、四角い顔を、歪め
けんめいに、悩んでいる
まるで、難問を前に悩む、小学生とも
安売りを強要される魚屋のおやじのような表情にも見える
「赤髪 猫裏です」
「そう、すいません、セキガミさん、それで、あなたが発見したとき
そこには、誰も居ませんでしたね」
私は、何度も聞かれたことを、(ああ、今頃、入学式が終わって
みんな、仲良くなったり、そのまま、お茶をしに言っているだろうなと思いながら)「はい」と、四角いとこに言う
「ああ、忘れていましたが、私は、こう言うものです」
たぶん刑事だと思った四角いおじさんが
懐から、銀色の箱型の携帯ガムみたいな物を、開くと、中から
白い堅そうな紙を一枚、私の前に差し出す
「「「熱海 雷霧」」」」
なんて読むのだろう、熱海は、分かるけど・・・
「・・・熱海・・・・らい・・・かみなり」
私が、それでもけんめいに読むようなことを言っていると
「熱海 雷霧です、いやー読みにくくて、すいませんね」
近頃、流行りの無理名前みたいである
「それで、なんですがね、もう暫く、お付き合いいただきたいんですが」
いやであるけど、いいえ、なんて言うわけにはいかないことぐらい
私にでも分かる
でも、否定しても別に良いことくらい
私は知っている
「それでは・・・・」
私は、そのとき、その名刺に、探偵と言う文字が書かれていることを
良く見ては、居なかった
そう、良く考えればおかしいのだ
おかしかったのだ
警察から出た直後
いきなり、まだ、質問が残っていた主旨を言われ
今年新しく買った腕時計を見て、お昼だ、と思った、私を引き留めた
そのまま、ここじゃあ、なんだから、と、喫茶店「ばななぼーど」に、入ることになったのが、事の真相の発端であり
気が付かなかった、私の過ちである
「それでは、現場で、セーラー服を着た人間が
首に、トイレットペーパーを、ぐるぐる巻きにして
さらには、トイレの便器に、頭部を入れて、死んでいたと」
「はい」
目の前お冷やが、人生史上、お冷やであってさえ
私の食欲を無くさせる
「何か、他に気が付いた事とか、ないかな」
「・・・あまり思い出したくありません」
「そうは言わずに」
男は、真剣に、私を、見た
「・・・・言わなきゃ駄目ですか」
「事件解決に、あなたの力だ必要だ」
「・・そう言えば」
「なんです」
「・・・・」
私の目に、隣の席で、「バズーカ」と、呼ばれる
ここら辺の商店街で、有名な
巨大パフェが、運ばれている(税込み3980)
「・・・ピストルでは・・」
私の目が光る
「・・・・分かりました」
熱海は、茶色い、粗末な財布から
目線を、反らすと
「すいませーん」と店員に、叫んだ
「それで、何があったんです」
「・・・血です」
「血・・・ですか」
「はい」
「それの何処が異常だと思ったんですか」
目の前に、みはしても、食べたことのない
そんな、巨大な筒状の物が、私の頭よりも高くそびえ立つ
「・・・トイレット・・ぺー・・・パーで・・・その・・・・首を」
「食べた後で結構ですよ」
「そうですか、失礼して」
「それにしても、よく食べれますねお嬢さん、事件現場を見た後だというのに」
「・・・・・・・・・う」
私は、デザートが、頭を支配していた、現実から
事件という現実に引き戻された
「どうしたんです」
「う」
「・・・う」
首をひねる熱海が、うざい
「どうしたんです、頬を膨らまして
私、悪いこと言いましたか」
「うぷ」
「え」
残り半分ほど食した物量が
そのままの体積を残して
熱海にかかるのはそう遠くない事実である