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迷宮の猫達  作者: catcore
猫のナーニャ
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囁く迷宮2



 バルダー達とともにクロエは五十一階へと足を踏み入れた。

 ここからはこれまでとちがい、たて穴で所どころに横穴が開いている、上の方からは光が差し込み、この横穴よこあなの主が出入りできる入り口であろうことが推測すいそくできる。そういったたて穴がいくつか隣り合っていて、それを繋ぐ通路があり、網目状に広がっている。


 横穴の主は、獅子ししの身体に翼があり胸から先はたかのような姿をしている、するど鉤爪かぎづめは薄い金属の鎧などは引き裂いてしまうし、見つかれば捕まえられて横穴に連れ込まれ餌になるだろう、冒険者達は鷹獅子たかじしと呼び恐れている。気をつけないといけないのは彼らの起きている時間だ、冒険者を見つけると侵入者しんにゅうしゃだと思うのだろう、高い声で鳴き仲間を呼び集める。


 そうなれば冒険者達は逃げるしか無い、空を飛びおそいかかってくる鷹獅子に対抗できるものは弓か魔法しか無い、だが数が多すぎて留まることを許さない。

 数もそうだがその体格は馬を超えており、人間は狩られる側の存在だった。


 だが鷹獅子が寝ている時間は、あるていど自由に探索することが出来る。


 五十一階にはいった一行は、皆一様に顔をしかめる、ムルムルの囁きが大きくなるからだ。それでもまだ十歩か十五歩ほど離れたところから、聞こえる感じなので慣れている人間ならばさほど負担にはならないだろう。


 一行は注意深く上を観察かんさつし、いまは寝ている時間だとバルダーは判断したようだ。

「いまのうちだ、できるだけ先に進む、カレラ、ジョナス、先行しろ。セレナとユキノは護衛だ、でかい音を立てるなよ、いくぞ」

 ジョナスは斥候のもう一人で細身で背が高い、甘栗色のくせっ毛で少年らしさを残した顔をしている、まだ一九歳かそこらだろう。長い弓を背負っていて他の者より遠くのものが射抜けそうだ。クロエははじめ顔合わせした時、一行の中で若すぎるジョナスに不安を覚えたが、冷静で慎重な立ち振舞ふるまいに感心した。


 軽戦士のユキノは十七歳位だろうか、長い黒髪を後ろでい、凛とした雰囲気をただよわせているが、ふわふわした頼りなさ気な性格をしている。短槍たんそうの柄の先に、刃の半分から先が湾曲した片刃の矛先をつけた一風いっぷう変わった得物えものを持っている。本人が言うには[ニャギナータ]という一族に伝わる、独自の長柄武器ながえぶきらしい。バルダーのとこで十三歳から荷物持ちをしながら、見習いを始めたらしく、若さの割に迷宮に慣れているようだった。クロエは顔合わせの時にジョナスより若いユキノを見て、さらに驚いたものだ。


 四人が先行し小走りにたて穴の底を横切る、鷹獅子の声が聞こえなければ残りの全員がいどうする、ナーニャもおくれないようにクロエの後ろを早足でついていった。


 しばらく進んで五十七階のたて穴に入る前、カレラが手を上げ魔物が居ることを後ろに示した。後続のバルダー達はできるだけ音を立てないようにゆっくりとカレラ達のところまで進んだ。

 たて穴の底に鷹獅子のひなが、巣穴から落ちて瀕死ひんしらしく、親らしき鷹獅子が寄り添っていた。見つかれば騒ぎが収まるまでは動けなくなる、長い時は二日くらい警戒けいかいが続き、食べ物に限りのある冒険者にとっては痛手だ。


 バルダーはそれをみて顔をしかめた。

「くそっ、運が悪いな、ジョナスどうだ?」

 ジョナスは困ったような顔をして首を横に振った、親の体格からしてジョナスの長弓でも一撃で仕留めるのは困難に違いない。


「まったくだね、バルダーどうするんだい?」

「魔法でなんとかならないか? ちょっと三人で考えてみてくれ」

「なかなか難しい問題だよ、ちょっとまてっておくれ」


 攻撃魔法は派手で音も大きいため、見つかれば使うが状況をかんがえると最悪の手段だ。クロエの持つ音の少なめな風系の魔法を使うとしても、[フルフルの魔道書]の風は暴風で大規模な風魔法になってしまう、うまく操りながら使っても暴風は暴風なのだ、クロエは他の魔法使いにどんな魔法があるか聞いてみた。


 濃い緑のローブを着た、四十歳くらいの長髪で金髪、太めのフリックは魔法使いになってまだ二年ほどらしい、使える魔法は火系攻撃魔法と移動系付与魔法だった。火系は[マルコシアスの魔道書]で派手なのに加え熱さでばれてしまうだろう、移動系付与魔法は[セーレの魔道書]でゲンブに走る力を与えれば、可能性はあるかもしれない。


 黒いローブを着た、白髪で初老のライオネルは熟練の魔法使いだ、落ち着いた感じで頼りになりそうだ、魔法は[アムドゥスキアスの魔道書]の音を操る魔法でこれは使用者の足音を消したりと優れた所もあるが、攻撃は大きな音で相手に衝撃しょうげきを与える魔法になる。もう一つは[アロケルの魔道書]でこれは幻術とでもいうのだろうか、一時的に盲目にしたり、幻覚を見せることが出来る。


 どれも魔法単体だと決定打にかける、この場はばれないようにすることが大事だ。クロエは水の魔法があればよかったと、もってこなかったことに後悔した。水で包んでしまえば警戒の鳴き声もあげられないし、うまく操れば音もそんなにしない。三人で話し合って、やはりフリックの付与魔法にかけるしか無いと、クロエはバルダーにまとまった考えを伝えた。


「なるほど、ゲンブはフリックに付与魔法かけてもらったことはあったか?」

「いや、無いですな。ですが私ならその力使いこなせるでしょう」

 自惚れ屋だがゲンブは腕の立つ剣使いだ、そう言えるだけの実力はあるだろう。

「さぁ、フリックさん、魔法をかけなさい」

「ゲンブさん、止まるの難しいですから、気を付けてください」

「ふふ、心配ご無用」

 クロエはゲンブを知っていたためすこし不安になった。バルダーはセレナに上空を警戒させジョナスにゲンブの援護を頼んだ。


 フリックは魔導書を開き呪文を小声で紡いだ、ゲンブの走る速さは格段にあがったはずだ。ゲンプは軽く二回跳ぶと風を切って走りだした。その速さは馬の全力疾走を超えていた。


 ゲンブはいっきに鷹獅子に近づくと、鋭い一太刀で首を落とした、鷹獅子は声も上げること無く絶命した。ゲンブは止まれずに、十歩ほど勢い良く通りすぎてしまった。


 全員がほっとした瞬間、鷹獅子の雛が大声を上げた。それは親を失った悲痛な叫びなのか、本能に従った仲間への警告なのか、クロエにはわからなかったが、これから大変なことになることは、三匹の猫も部隊の全員も理解していた。


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