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迷宮の猫達  作者: catcore
猫のナーニャ
7/24

昔の仲間達


 バルダーたちが帰ってきたのは、クロエが協会から帰って少ししてからのことだった。

 冒険者協会で言伝ことづてをきいたバルダーとゲンブは、次の日は休んで、その翌日の午後に〈魔法屋クロエ〉へと足を運んだ。


 クロエは迷宮にはいるための準備をしていた、できるだけ身軽にしていかないとポル爺を運ぶ籠が持てない、それに自分と二匹の猫の食料と飲水も必要だ、困ったと思っていたら店の扉が開きメランダが入ってきた。


「クロエいる?」

「メランダかい? 奥にいるよ」


 メランダはポルポルの入る籠を持ってきていた。

 メランダはあれやこれやと、籠の説明をクロエにした。


「クロエ、自信作だよ、背負いも横がけもいけるんだから」

「こりゃべんりだね、すまないね後で取りに行こうかと思ってたんだ」

「いいの、いいの、はやく見せたくて持ってきちゃっただけだから」


 籠は格子の三分の一ほどが革で作られていて、背負っても横にかけても体にうまいことなじんだ。魔道書をいれるとこも二つ横についている、上には小物が入るようになっていて、区切りがしっかりとされており、物同士がぶつかって音が出ないようになっていた。底の下には飲水の革袋をいれるとこがあって、落としても衝撃をやわらげる事ができる。


「メランダ、良い仕事するじゃないか」

「まぁね、だてに道具屋なんてやってないさ」


 メランダはちょっと得意気に答えた。クロエはメランダに代金と、店の合鍵が入った袋を渡した。一瞬悲しそうな顔をして、メランダは袋を受け取った。籠を確認していると店の扉が開かれ、今度はバルダーとゲンブが入ってきた。


「じゃまするぞ、クロエいるのか?」

 バルダーは盾役もこなす体格の良い男だ、ひげをはやし、夜道であうと盗賊か何かかと、間違えそうな見た目をしている。中身の方は慎重しんちょうで、勇敢ゆうかんな人間ではあるのだが。


「これは……以前よりごちゃごちゃしてますな」

 ゲンブは細身の筋肉質の男性で、力よりも素早さに重きをおいて戦う。実力はかなりのものだが中身のほうは、すこし慎重さが足りてない自惚れ屋だ。


「バルダーかい? こっちだよ」


 二人が歩いておくに行くと、クロエとメランダが籠で何かしているのが見えた。

「なにしてるんだ? 変わった籠だが」

「ですが使いやすそうな籠ですな」


「なんだい、久しぶりにあってそれかい」

「そうだよ、ほんと気の利かない男たちだね!」

 ゲンブはあらかさまに目をそらし、バルダーはやれやれといった顔をして答えた。


「お世辞なんて、柄じゃねぇよ」

「まぁいいじゃないかメランダ、お茶を入れるから座ってまってておくれ」

「お、ポルポル元気そうだな、黒いのは見たこと無い猫だな」

「久しぶりですな、ポルポル、それになかなか良い面構えの黒猫ですな」

『にゃう』


 ポルポルと寝ているナーニャを見て微笑ましく思い、二人はポルポルが元気そうで嬉しかった。猫とはいえ二人にとって戦友のようなものだ。


「黒いのはナーニャだ、ポルポルの弟子でしみたいなもんさ」

「ポルポルの弟子か、そりゃ期待できるな」

「そうですね、シロッコとポルポルは、とても優秀な迷宮猫でしたからな」

「シロッコはとても優秀だったよ、ゲンブよくわかってるじゃない、それで迷宮猫って?」

 メランダが聞き慣れない言葉に聞き返した。


「ほらいろんな部隊が猫つれていいってるだろ? 最近は誰が言い出したか、迷宮にもぐる猫を迷宮猫って区別するようになったんだ。」

「へぇー、じゃあポルポルもナーニャも迷宮猫だね」

「そうですな、シロッコとポルポルなんかは優秀な迷宮猫でしたな」

 クロエは奥でお茶えお入れながら、初めて聞いたと思った。

(迷宮猫か、そのまんまだね……)


 バルダーとゲンブの二人は、箱座りしているポルポルと寝ているナーニャの頭をなでた。お茶が入り四人は久しぶりの再開に話がはずんだ。それぞれ近況をはなし、クロエは本題に入る、猫達の話をし自分の思っていることも話す。


「まぁ、そういうわけでね、今度もぐるときに同行させてもらいたいのさ」

「そうか、まぁクロエの腕なら問題はないが、七十九階までは俺達でもめったにいけないぞ」

「そうですな、最近は七十五階くらいまでしか、もぐれていませんからな」

「みんな囁きに、精神けずられちゃうもんね……」


 バルダー達にむりはさせられない、七十五階以降をどうにかするひつようがあった。


「クロエ、もぐるのは五日後だ、七十五階まではなんとしてでも連れて行ってやる、だがそれ以降は保証できない」

「ああ、十分だ、迷惑かけてすまないね」

「なに、何度もクロエには助けられた、お互い様だ」

「そうですな、またクロエと、もぐれるとは思っても見ませんでした」

「みんな、無理して死なないでよね」


 三人が帰るとクロエは、持っている魔道書を一つひとつ確認していった。

 なにか役に立つ魔法があるかもしれないからだ。


 クロエの愛用の魔道書の一つ[フルフルの魔道書]は暴風と雷を扱える。魔物に対しての攻撃手段にこの一冊は欠かせない。


 [バルバトスの魔道書]は猫達の声を聞くために必要。猫の話の内容がわかるのと、分からないのとではm大きな差があることをクロエは知っている。もっていけるのはあと一冊だ。


 売り物にしていたものも、お蔵入りになっていた魔導書もみていくと、ようやく使えそうな魔道書をみつけることができた。


 [バラムの魔道書]は、ほとんどの魔法が、生け贄を要求するものだった。売り物にも出来なくてお蔵入りした魔道書だったが、一つだけ生け贄が必要でない魔法が、使用者を見えにくくする不可視ふかしの魔法だった。過去と未来を見るなんてすごい魔法もしめされていたが、それも生け贄が必要だった。


 大抵の魔道書の強力な魔法は、生け贄を要求しているものが多い[フルフルの魔道書]では異性の心を支配して、好きにできる魔法が生け贄を要求している。


(この不可視の魔法なら、うまくいけば一人でもいけるかもしれないね……しかし物騒な魔導書だね、使い方によっては危険だよ)


 クロエが魔導書を選び終わった時には、すでに夕暮れだった。ポルポルに餌をやるの忘れていたと、いそいで食事の準備を始めた。



 ナーニャが起きて背筋を伸ばすと、短く鳴いた。

『おきたかい、ナーニャ』

『よくねたよポル爺、昨日鼠が宿にいて、あまりねむれなかったんだ』

『そうかそうか、よくやったの』

『そういえば人がたくさん来てたね』

『うむ、あるじの昔の仲間じゃよ、出発は五日後にきまったようじゃ』

『そうなんだ、楽しみだなぁ』


 ナーニャは楽しみにしているが、ポルポルポルはナーニャを生きて帰してやれるかが不安だった。おいぼれの自分に比べ、ナーニャはまだ三歳になるかならない若い猫だ、犠牲には出来ないとポルポルは思った。あの八十階をみたからこその不安だった、ナーニャだけつれていったなら戻れるだろうが、あるじも一緒だとどうなるかわからない。


 それでもあるじの願いをかなえるためには、老いた自分には難しい、ナーニャに助けてもらう他にないと、ポルポルは考えていた。


『ポル爺、ご飯時だし帰るよ!』

『ああ、気をつけて帰るんじゃよ、また明日の』

『うん、じゃあまた明日』


 椅子から降りると、ナーニャは軽い足取りで〈魔法屋クロエ〉から帰っていった。



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