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迷宮の猫達  作者: catcore
猫のナーニャ
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ムルムルの迷宮2

 十分に休むとスタンリーの一行は、先に進む、三十階をこえるとそれまでとは様相ようそうがかわる。洞窟には違いないが、んだ水の小川が流れ、小さな魚が泳いでいる、水辺には薬草が生えていて湿気が多く光る茸や、毒々しい色の茸がいたるところから生えている。涼しいのが唯一の救いだった。


 治癒士のエミリは、薬草を集めながら歩いている、調合することで傷を早くなおしたり、一時的に体を強くしたり、解毒したりとさまざまな薬を作ることが出来る。街ではなかなか高価な薬草も、迷宮では簡単に手に入れることができる。また成長速度が早く、採り尽くされることもない。


 ナーニャは以前連れてこられた時に、ゆっくり見ることもしなかったので、小川の魚に手を出したり、茸に登ってみたりして遊んだ。ムルムルの囁きもまだまだ遠くに感じる。


 ランタンの光を頼りに、マルセルは目をこらしていた、奥の方は見えにくいが、運良く先の方にわずかな光の揺らぎを二つみつけた。


「スタン、向こうの尖った岩に、なにかがいるぞ」

「マルセル、よくみつけたな、ルドウィンこっちに」


 地面から生えているとがった岩にまきつき、岩のようにしか見えない大蛇の目に反射した光をマルセルは見つけていた、それを小声でスタンリーに伝えた。スタンリーはルドウィンと相談し、遠くから焼き払うことに決め、ルドウィンは、〔マルコシアスの魔導書〕を取り出した。


 魔法使いはその名の通り、魔法を使う人間を指すが、魔法を使うためには魔道書が必要だ。それは街で買うか、迷宮で手に入れるしか無い、おまけにそれなりの大きさなので沢山もっていけない。多くの魔法使いは多くても四、五冊しかもっていけないだろう。


 魔法使いのなかには、荷物持ちを用意し沢山持っていくものも居るが、お金もその分かかる。ルドウィンはまだ二冊しか持っていないので、荷物持ちは必要がなかった。


 ルドウィンは魔導書を広げ、ぶつぶつと小声で呪文をつむぐと、大きな力の渦が炎となって大蛇に襲いかかった。ずいぶん先の方だというのに、炎の勢いはスタンリー達にも熱さを与えた。


 ナーニャは暖かくて陽に当たったような感じがした、ずっと暗いじめじめした場所が続いていたため、少しほっとする。大蛇はのたうちまわり、そのうち動かなくなった。


 一行が近寄ってみると、顔だけで子供なら一口で飲めるくらいの大蛇だった。マルセルも気付かずに近寄っていたら、大変なことになっていたであろうことを、想像し青ざめた。まさかこんな大きな蛇が居るとは思わなかったと、スタンリー達は気を引き締めてさらに奥へと進む。


 ついに四十階に到達し、休憩の準備をする。ナーニャはビスケットと干し肉をもらった。

ビスケットが固くて食べにくく、四苦八苦しくはっくしていたらエミリがくだいてくれた。味はあまり良くはなかったがナーニャはお腹いっぱいになった。


 ここから先はナーニャも嫌な記憶がある、スタンリー達は見張りを一人立てて、交代で眠りだした。エミリは不安そうなかおで、ナーニャを抱き上げると、壁にもたれかかって眠った。


 スタンリー達にとってもここから先は、未知の迷宮になる。冒険者は五十階をこえて一人前ともいわれていて、スタンリーはなんとかそこまでたどり着きたいと思っていた。部隊を組んで半年、なかなかたどりつけない事に焦りを感じていた。


 さらに下層へとおりた一行は、いくつかの宝物を手に入れながら順調に進んでいた。四十五階の終わり近くになるとナーニャは、なにか背中にまとわりつくような視線を感じた。だが匂いはなかった、耳を立て一点を見つめると、音を聞くことに集中した。


 しばらくして、かすかな砂のすれる音が耳に届く。それはすぐちかく、後ろの方からだった。


 ナーニャは後ろを向き、警戒の唸り声を上げた、ポーラが驚いて後ろを見た時、黒い大きな影がポーラに食らいつく。エミリは驚いて後退り尻もちをついた、スタンリーは急いで駆けつけて見ると、大きな黒い豹がポーラの首に噛み付いている。ナーニャも威嚇しては見るが、見向きもされなかった。


「後ろだ! ルドウィン! マルセル援護してくれ!」

 スタンリーは盾を構え、じりじりとポーラを咥えた黒い豹に近づく、黒い豹はじっとスタンリーを見つめたまま動かない。いそいで助けなければと焦るものの、剣では難しいだろう。


「スタン動くなよ!」

 マルセルが、急いで弓を引き絞り矢を放つ、放った矢は風を切りながら豹の顔の上の方めがけて飛んだ。黒い豹はポーラを放すと、左にするりと移動してかわした、スタンリーは大声を上げ威嚇いかくしながら黒い豹に向かっていく。スタンリーが盾で叩こうとするも、黒い豹は軽く後ろに跳んで避け、スタンリーとにらみ合う。


 エミリはポーラにかけ寄り、薬をひたした布を傷口に当てた。ナーニャもエミリの近くで黒い豹に向かって唸った。傷が結構深く、生き延びたとしても、戦うのは難しいかもしれない。


「ちょい後ろに風の刃いくぞ!」

「おう! まかせろ!」


 スタンリーが答え、ルドウィンは取り出していた〔ストラスの魔道書〕を開き、呪文を紡ぐと風の刃が黒い豹に向かっていく。スタンリーは黒い豹の顔を狙って、剣を横になぐと、黒い豹はまた後ろにひょいとかわし、そこに丁度、風の刃が左右からせまり黒い豹を切り刻んだ。


「ルドウィンやったぞ! よくもやってくれたな!」

 スタンリーは黒い豹にとどめをさすと、ポーラとエミリのとこへ急いだ。


「ポーラはどうだ?」

「生きてるけど、でも、傷が深いよ」


 傷は消えたが、内部のほうは完治するまで時間がかかりそうだ。ポーラをおぶり、階段近くの休憩場所までなんとかたどり着いた一行は、ようやく一息つくことが出来き、しばらくしてポーラは気がついた。


「ポーラ、よかった、大丈夫?」

「エミリ、すまないな、助かったよ」

 ポーラはエミリにお礼を言った。

「ポーラ、どうだ、いけそうか?」

「すまないね、スタンリー、ちょっと無理のようだ」

「気にすんな、生きてるだけでも、運が良い」


 スタンリーは悩んでいたのだ、この部隊の人数では、四十階から紙一重の戦いが多くなったからだ。

 今の黒い豹の様な敵が二匹でていれば、全滅していただろう、ここは街に戻ってもっと仲間を増やして挑戦しようと考えた。

 その間にポーラも回復するだろう、エミリ達とも意見をかわし、今回はこれで戻ることにした。


 帰りの他の部隊がくれば、ついていかせてもらおうと、しばらく休憩することになった。ナーニャも緊張から解き放たれ、丸くなって眠った。



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