#4 変化の兆し
そんな頃、ふて寝していた暁は一向に返ってこないパトナに気が付き狭いはずの一室に一人残されて考えていた。狭いはずの部屋が、なんだか広く感じられた。自分は一人なんだなと改めて実感した。
もう直ぐパトナはいなくなる。それがこの状態なんだと知らしめられると、今までの自分の他人に対する姿勢が情けなく感じられた。
「何処行ったんだろう……」
不安が押し寄せてくる。もう、帰って来ないまま、パトナはパトナの世界に帰ってしまうんだろうか?自分勝手なことばかりで、無関心な暁でもそれが気になり始めていた。
「パトナ……」
暁はいつまでも眠らずにパトナの帰りを待っていたのである。
それからの三日間は最悪であった。徹夜明けの暁の瞳は真っ赤なウサギの目になっていた。でも、眠い目を擦りながらも、今日こそ学校に行けばパトナに会えるのではないだろうか?と期待をしていた。
しかし、パトナ学校の教室を覗いてみても通って来ている様子は無い。パトナの姿が見受けられなかった。一段と気分が落ち込んでしまう。でも、確かキララと言うパトナの友人がもしかしたら事情を知っているかもしれないと思い、呼んでもらうことにした。が、その時授業が始まるチャイムが鳴り響いたので、仕方なく暁は自らの教室に足を運んだのである。
「あの……」
暁から声を掛けるのは初めての事であった。暁は、キララが茜のパトナだと知っていたため自らの教室で茜に問いかけようと一大決心をしたのである。こんな風に暁から話しかけられるとは思ってなかった茜は、大きな目を瞬かせて机の前に立つ暁を仰ぎ見た。
「何々?何でも言ってくれて良いよ!」
茜は、こう言ったチャンスが巡ってくるとは思ってなかった為弾んだ声で問いかける。
「あのね。私のパトナ……橘さんのところに言ってないかと思って……」
少しそわそわしていたので直ぐ返答した。
「うん。うちに来てるよ。え?もしかして、門倉さんに何も言わずに出て来てたの!?」
パトナからは何も訊いてなくて、まさか、こんな状況になっているとは知らなかった。てっきり了解済みだと思っていたのである。確かにパトナは荒れていた。愚痴はこぼすし、酔っ払いまくるし……態度は凄かったけど、行き先くらい告げるのはパトナ界の常識である。
「そうなんだ……あの、明日、私の誕生日なんだ……パトナに会いたくて
……」
素直にそう言ってくれると、茜は接しやすかった。
「良いよ。授業終わったら私の家においでよ!パトナ君に会いにおいでよ!」
「迷惑じゃ無い?」
「迷惑だなんて、そんなこと無いよ!ちゃんと私の家にいるし、パトナ君も会いたいとそう思っているはずだから!」
「……」
「大丈夫!保障する!」
「……」
静かに頭を縦に振ると、暁は何事も無かったように自らの席に着いたのである。
放課後、茜は暁を連れ添って学校を後にした。勿論、キララも茜の鞄の中に同乗している。そうして、三人は茜の家に急いだ。
しかし、道程半分くらい差し掛かった時、茜は机の中に明日提出しなければならない大事な宿題のプリントを忘れて来てしまったことに気が付いた。そこで、キララを道案内役に当てがい、自らは学校に戻ることを言い残して先に向かうように言い残した。また同じ道を辿るのは申し訳ないと思ったからである。
「キララ、門倉さんをよろしく頼むね!」
今にも雨が降り出しそうな空を見上げてから茜は言い含めた。それに快く応じるキララ。
茜の言う事は今まで何でも聞いてきた素直なキララだから任せられるとそう思っていた。
しかし、この行為が後々大変なことになったのである。