#3 心の傷
次の日も、同様に暁に声を掛けた。しかし、昨日までと違った暁の態度に気がついた。完璧に無視されたのである。
「どうしたの?私、門倉さんに何か悪いことした?」
それに対し、暁は無言で机の上の落書きを指し示した。油性マジックで書かれた悪戯書きのそれを目にし、茜はすぐに事を察知した。
「誰よ!こんな事したの!」
思わず声を張り上げずに入られなかった。周りのクラスメイトはクスクス笑っている。それを合図に、暁は、
『そう言う事だから、私に近づかないで』と言いたげな表情をし、静かに教科書を読み始める。
折角良い感じになってきた所なのに、とんだ邪魔が入ってしまった。茜はとにかく作戦を練り直そうと授業もそっちのけで一日中考えていた。しかし、何も良い手が思い浮かばず途方に暮れて自宅に足を運んだのである。
当の暁は、こう言った事件があったことをパトナに話して聞かせた。ここの所、暁の様子が明るくなってきたのに気が付いていたパトナにとって、その事件は歯がゆい物に感じられ、一時怒りもしたが、
「暁〜でも、投げやりになっちゃだめだよ?キララちゃんが言うには茜ちゃんは本当に友達になりたいとそう思っているんだから!」
だけど、暁のショックはかなりな物らしく、静かに怒っていた。最後には、
「本当にそう思ってるんだったら、あんな事する友人を持つ橘さんがどうにかすべきだわ!」
と、他人に罪を擦り付ける。でも、パトナは本当は暁が悪いとそう思っていた。今まで、誰ともコミュニケーションをとろうとしてこなかった本人がこんなことを言って良い訳が無いとそう思ったからである。だから、
「じゃあ、勝手に拗ねていれば良いんだ!暁なんか知らない!」
一言引導を渡して家を飛び出たのである。
一人で考える時間を与えるために家を出たパトナは、一生懸命小さな歩幅でテケテケと走ってキララの住んでいる茜の家に向かった。茜の家は小高い丘の麓にある一軒家である。
そこまで全速力で駆け抜けた。三時間もかけて着いた時には全身汗でびっしょりであった。
「どうしたの?パトナ君!」
その疲労した姿に、玄関口のキララは上がるようにと促した。茜もその様子に気が付き、
「ゆっくりして行って良いのよ?」
今日のこともあるので、何か門倉さんの家であったことは明白であった。
「水飴食べる?」
部屋に入るなり、パトナはキララに持ちかけた。水飴はパトナにとっての御酒のようなものである。
「うん!食べる!」
こうなったら、自棄酒だといわんばかりの勢いでパトナはキララに言い放つ。もう、愚痴をぶちまけたい気分であった。
「大体、暁はね〜ヒック、自分勝手なんだよ〜ヒック僕のことなんて考えてないんだもん!ヒック。後、四日しかないんだよ?分かってんのかよ〜くそ〜ヒック!」
いい加減に話疲れた時には、眠気が押し寄せてきた。そんなパトナをキララは暖かく見守っていた。そして、茜もそろそろ寝るよ?とパトナを寝かしつけようと思い、キララと一緒に見守った。
その夜から暫くの間パトナは茜宅で厄介になることになったのである。