#2 友達の定義
「名無しのパトナ〜おはよー」
パトナにも名前がある。大体無い方がおかしい。産まれた時に付けてもらうのが一般的であったが、茜のパトナはそういう訳には行かなかった。男の子だと分かった時点で異端児扱いを被ったからである。だからそのまま付けてもらえず、パトナなのである。でも、パトナは気にしてなかった。暁という同士がいるし、キララがいるからである。
「おはよう、パトナ君!」
隣の席に座るためにキララははやし立てる他のパトナ達押しのけて割り込んできた。
「後、一週間後だね……暁ちゃんやはり聞き入れてくれない?」
全てのパトナの悩みをキララは知っているので毎日問いかけた。
「うん。どうしようもない頑固者だから割り切ることが出来ないみたいだよ……あと一週間しかないのにこの調子で丈夫かなぁ」
「実はね、茜にそのことで相談したら動いてみるって行ってくれたんだよ。本当は気にしているみたい……小学生の時、一度声を掛けたことがあるらしいんだけど、拒絶されたらしいんだ。だからまた拒絶されるんじゃないかって自信ないみたいだけど……」
「それ、本当?」
「うん。本当!だからもう少し頑張ってみたら?」
「ありがとう!キララちゃん!恩に着るよ!」
そんな話をしていると、一時間目のチャイムは鳴った。
「茜〜何してるの?次体育だよ!」
クラスの友人が隣の教室に移動しようと声を掛けてくる。しかし、茜はまだ席についていた。
「先行ってて!後から行くから!」
暁を除いた他のクラスメイトはいなくなった。取り敢えず、二人きりになれた。これからこっぱずかしい一言を言わないといけないといけないのかと思うと赤面しそうになった。
でも、言わなきゃ!そう決心すると、勢いに任せてスタスタと暁の座っている席へと急いだ。
「?」
突然、目の前に立ちはだかる小柄な茜に気づき、暁は面を上げた。
「えと、……私と友達になってください!」
胸がドキドキしている。友達になろうと宣言してなれるものじゃ無いかも知れないが、簡潔で分かりやすい言葉ではあった。
「……」
暁自身、何を言われたのか上手く把握できなかった。友達って言葉は胸に響いたが、それにどう反応すれば良いのか困っていた。沈黙は続く……
「あ、ごめん!いきなりこんな事言われても困るよね?……」
柄に無く茜は照れていた。でもその返事は返っては来なかった。考えているのかどうなのか判らないけど。
そんな中やっと理解した暁は戸惑っていた。でもそれを押し隠そうと、
「次、体育だっけ?」
とだけ言って、荷物を抱えて体育館に行く準備をし始める。その様子を見ていた茜は、以前のように無視されなくて良かったとホッと肩をなでおろし、
「一緒に行こうよ!」
自らの荷物を抱えて、暁の後を追い掛けたのである。
「で、収穫はあったの?」
キララは家に着いて、ワクワクしながら鞄から顔を出し、茜に問いかけた。
「まともな話はしなかったけど、前みたいに無視はされなかったよ。少し穏やかになった感じ」
「そっか〜良かったね!」
「でも、自分から話しかけてくることは無いんだよね。頑なに拒絶しているのかもしれない……私ってやっぱりウザいかな?」
イマイチ反応が希薄だから心配になるのも当然であった。
「そんなこと無いよ!茜はちょっとおせっかいなところ有るけどそれが取得じゃん!パトナ君とキララはちゃんと応援しているよ!」
茜のことはよく分かっているとなだめる。
「そうだよね?私らしく接してみるよ!」
突然元気になる茜を素直にキララは喜んだ。
「気長にやってみるよ。うん!」
一週間なんて直ぐに過ぎてしまう。でも出来る限りのことはやっておきたいと思う茜は、諦めが悪い性質だった。
給食のときも、休憩時間も離れずまとわりつく。そうすることで自分をアピールするのは十分だ。クラスメイトはそんな茜を不思議と遠巻きに見ていた。
「最近門倉さんに夢中だね?」
帰り際に一人のクラスメイトが茜にぼやいた。話をすることがほとんど無くても、一緒にいるだけなら事情が違うとそう察した。
「何なら、一緒に門倉さんと給食食べる?」
余りにも楽しそうに話す茜に、呆れた風に、
「楽しそうじゃ無いから遠慮しとく。またなんでそんなに気にしてるのか知らないけど、あの人、迷惑してるんじゃないの?表情さえ変えずにさ!」
少し、嫉妬されてるのかとも思ったが、
「楽しいよ?特別扱いしなければその内、心開いてくれるような気がするもん!」
その言葉にイラついたのか?
「勝手にやっててよ!」
気分を害したクラスメイトは、そのまま放課後の教室を立ち去った。