#1 パトナのいる世界
子供の心を満たすのは大人なのであろうか?それとも環境なのであろうか?その答えは当の子供にしか出せないけれど、世の大人たちの心の支えは子供であろう。
しかし、世界は共働きをする家族で構成し始めた。そこで、神は一つの試みを開始した。
『パトナ計画』である。産まれて来る子供の産声からパトナを同時に産ませて、その子のおもり役を命じた。その期限は、子供が十五歳になる誕生日まで。そして月日は流れ、パトナは一般的に受け入れられるようになった。
いつもの朝がやってきた。けたたましく鳴り響く目覚まし時計にうんざりする。耳ははっきりその音を聞き分けていたが、何故か目の前は真っ暗闇だった。しかも目元が重い。
「パトナ……寝相悪いのは分かってるけど、もう少しどうにかならない?」
その相手は、とんがり帽子に短い金髪がちょこんとはみ出している。
「暁、おはよう〜……」
まだ夢から醒め切らないのか、暁の顔の上から腕をのけようとしない。ただムニャムニャと独り言を口走っている。
パトナは基本的に、女の子には女の子のパトナ。男の子には男の子のパトナが産まれてくるものだが、何故か、女の子の暁の元には男の子のパトナが産まれた。そのせいで、暁は異端児扱いを被る羽目にあった。そして、輪を掛けるように不運だったのは、日本人なのに銀色の髪。白人のように白い肌。瞳はライトグリーン。まるでハーフなのではなかろうかとさえ思われる容貌。もちろん、家系に外国人などいるはずが無い。だから、家庭不和な環境で、産まれてまもなく人里離れた山奥の祖母の家に引き取られ、隔離して育った。
その為に、人との間にかなりの隔たりが出来た。
そんな暁の心の支えはパトナだけであった。基本的に、無関心、無頓着。が服を着て歩いているような暁ではあるが、心を開けるのはパトナしかいなかった。それだけ暁には無くてはならない存在であった。
パトナは背丈30cmくらいしかない小型人間である。コンパクトな作りなので、鞄に押し込んで学校に行く。それが世の常だった。もちろん、パトナも学校に設置されているパトナ学校に通っている。そこでパトナの勉強会が開かれるのだ。
今日も、暁は授業を受けに行く。歩いて一時間弱のところに学校があるので、急いで支度した。
暁の背丈は170cm有り、一般の中学生にしてみれば、かなり大柄で目立つ。その上この容貌だと、この山奥の狭い界隈で知らない者はいないと言っても過言ではない。変な意味あい有名人であった。しかも、頭脳明晰、スポーツ万能とくれば誰もが意識しない訳にはいかない。
それだけの事なのに、と、本人は冷静に判断しているが他人は一目置く。それが嫌でたまらないから、未だ女だてら一匹狼として過ごし友人の一人も作った試しが無かった。しかし、こんなことがいつまでも続けられるはずも無い。だから、パトナは暁に再三友人を作れと指示を仰いできたのである。
あと一週間もすれば、暁の十五歳の誕生日が来る。そうなると、パトナはパトナの世界に戻らなければならない。今後誰が暁のことを思って相談に乗るだろうか?それが心配でたまらなかったのだ。
暁にとって学校は勉強するところ。そう割り切っている。休憩時間周りで騒いでいる学生を遠巻きに見ていると、不思議にイラつく本当は仲間に入りたいのかもしれないが、自分から入って行こうなんて出来はしない。どうせ面白がられるだけだ。ただそう判断する。
だから、次の時間の予習をすることにしている。
しかし、そんな暁を気にしていた人物がこの教室の中にいた。名前は橘茜。栗色のショートカットの髪に小麦色の肌。大きな丸い目をした活発な少女である。
実は、この茜。自らのパトナであるキララを通じて事の次第を知っていた。それだけに、放っておけないと自らのおせっかい焼きの性格が災いしているのである。もともと、目立ちたがりの性格をしてはいるが、筋は通して友人と付き合っていた。運動大好きで勉強嫌い。明るくて陽気な性格をしている。その為友人は多い。気兼ねなく付き合えるとみんなそう思っているらしい。だけど友情ってそんなものであろうか?茜は近頃全く性格の異なった暁に惹かれ始めていた。
こうだったら。みたいなお話です。
もし神様がいるのであったら、少しだけ変わった世界を構築してくれないかな・・・なんて思ったり。
子供が出来たら、是非こういうパトナがいたら、安らげるのかも?