乙女ゲームの主人公の弟に転生したんだけど主人公が腐女子で振り回されてる
俺は転生者だ。そして乙女ゲームの世界に転生した。
乙女ゲームの世界だと気づいたのは最近だ。
それまではただの転生だとおもっていたんだ。
とりあえず俺の生い立ちを聞いてくれ。
***
生まれたときから理性があり、記憶もあり、考える力もあり、しかし体は動かない不自由な日々。
不安にまぎれ、赤ちゃんであることをいいことに泣きまくった。
泣きまくって、いつもは母親がよしよししてくれていたのだが、そこに初めて見る幼い女の子。
「かわいいねー」
遠慮なく俺の手をにぎにぎしてくる。正直痛かった。
「凛くん痛がってるよ。鈴ちゃん、お姉さんになったんだから、優しくしなくちゃ駄目だよ。」
「おねえちゃん?れいちゃんおねえちゃん?」
「そうだよ。おねえちゃんになったんだよ。」
母親に諭され、鈴と呼ばれた女の子はやっと力を緩めてくれた。小さな手が俺の頭を優しくなぜる感触が伝わってくる。
「りんくん。よろしくね。」
にっこっと鈴は笑った。
笑顔は天使のように可愛く、あれ、この子同世代の幼児の中では飛びぬけて可愛いんじゃないのかと気づく。
***
それから、泣いていたらすぐに鈴がすぐ飛んでくる日々が始まった。
「りんくん、よしよし」
そうやって撫でられると、前世の自分がこんな女の子に慰められたやるせなさが、涙をピタッと止めてくれた。
前世の俺の歳は四捨五入したら三十路になる歳だった。可愛い幼女に迷惑はかけられないだろう。
そして、母親も鈴に任せておけば俺が泣き止むと気づいたのか、鈴に俺の面倒を見させる事が多くなった。
俺が自然とお姉ちゃんっこになったのは言うまでもない。だって鈴可愛いからな。
そして鈴もだいぶブラコンだと思う。それも変な方向に。
「凛くんこれも着てみてー。」
鈴姉が差し出してきたのは猫耳がついたパーカー。特に服にこだわりがない俺は母親や鈴姉が買ってきた服を抵抗なく着る。そのせいか、もう来年は小学生になるという歳なのに、同い年の男の子が着ているような服を着たことがない。母と姉の着せ替え人形状態だ。
だが俺もただ着せられるだけではない、こういったときは、
「おねえちゃんも一緒の着る?」
そう、大抵の服はおそろいで買ってある。なので姉も巻き込むのだ。天使の姉にもこの猫耳パーカーを着てもらわなければ!
「もちろん着るよー」
俺が言うと大抵着てくれる。そして着替えた姉はやはり天使だった。姉は今年小学校3年に上がったとこだが、世の中の小3のなかで一番かわいいだろう。いやこれ弟目で見てるだけではなくて、前世の俺もそう言っている。だから確かだ。
「猫耳のりんくん可愛いよぅ」
鈴姉がぎゅっと抱きしめてくる。心なしかハアハアしてるのは大丈夫であろうか。
そう、姉はどうやら可愛い男の子が好きなようだ。まあ、俺も可愛い鈴姉に似て、同世代の中だと飛びぬけて可愛い自信がある。
ナルシストじゃないぞ。なんせ前世の俺もそういっている。うん、だから確かだ。
可愛いといわれることに嫌悪感はない。だってかっこよくなるのはこれからどんだけでもなれるからな。いまの時期の可愛いを大切にしないと。
ただ、困ったことに、姉は俺以外の男の子にも抱き付きにいってしまう。
天使が男の子に抱き付きに行くの、今はいいかもしれないがそろそろ止めさせなければ。天使が襲われてしまう。
***
俺が小学校6年に上がる4月、鈴姉は高校に進学する。そしてその進学先が衝撃だった。
「え、鈴姉『神能円学園』に行くの?」
「あれ、凛くん神能円学園知ってるの?」
「知ってるっていうか…。」
『神能円学園』薄々は気づいていた。姉の机の上にこの学校のパンフレットを見つけた日、頭の中に衝撃が走った。聞き覚えがあるぞと。
こんな変な名前の高校があるのなんて偶然なんてありえない。
そして姉の名前。『奥雷 鈴』この名前も引っかかってはいたんだ。しかし、姉が入学を言い出した段階で、もしかしては確実に変わった。
そうだここは乙女ゲームの世界なんだ。そして姉はゲームの主人公だ。高校3年間かけて攻略対象を攻略していくための。
「いやだ。お姉ちゃん行っちゃやだ。」
「凛くん…。可愛いっ」
鈴姉がぎゅっと抱き付いてくる。神能円学園は行かせてはいけない。
ただの乙女ゲームならまだしも、神能円の名の通り、この学園内では神から授かった能力が使える。そして、僕らの家系は、苗字の通り雷が扱える。そう、姉も学園に行くと雷の能力が使えるようになるのだ。そして、ルートによっては命の危険が伴う。
「お姉ちゃん、どうしても行くの?」
涙をためて、鈴姉を見る。これで折れないか。姉は手を口にして耐えているようだ。そうだ、そのまま折れてくれれば…。
「ごめんね、凛くん。私は行くよ。」
「おねえちゃん…」
「だって、BLが私を呼んでいる!」
「…」
俺はもう泣くしかない。
そうだ、ただの可愛いもの好きだった姉は女子中学へ進学し、完全な腐女子となっていた。
腐女子とは男と男との恋愛を妄想して楽しむ女の子達だ。姉は中学でいい仲間に巡り合えたらしい。
「だってね、凛くん。この学校、共学なのに男女比が9:1なんだよ。しかもイケメン率高くって、もうこれは理事長が裏で好みの男の子を集めてるとしか思えないじゃん。こんな妄想出来る学園ないよ!」
理事長の操作は確かに入っている。
この学園は学ぶことと共に、能力者を育てることにも重点があてられている。そして、能力は男女ともに分け隔てなくあるが、この学園で強制的に能力制御を覚えないといけないほど強大で凶悪な能力は男のほうが多い。そうして可能性が高い潜在能力者には強制的な入学手続きが進む。
つまりは姉のように自分から自主的に進学して能力が使えるパターンは少ないし、強制入学でないということは、学園的にほっといても大丈夫な家系か、弱い能力者なのだ。
俺の家系は学園的にほおっておいても大丈夫な家系なのだ。苗字に『雷』が入っているように、ちゃんと能力者の自覚がある。
ほおっておいてもそのうち母親か父親か、俺の予想だと、たぶんあのたまに意味もなく様子を見にくる叔父だろう。能力の使い方を教えてくれたのだろう。
こうなった、鈴姉を止めることは不可能だろう。姉はブラコンであるけど、自分のやりたいことはとことんやる人間なのだ。
「だからごめんね。私は神能円学園行くよ。」
姉が行くと言ったら行くだろう。しかし、俺はこのまま天使を狼の中にただでほおりだすわけにはいかない。仕方ない最終手段だ。これはパンフレットを見つけた時から決めていた。
「僕もついてく。」
鈴姉がえっと驚く。
「あのね、私は高校に行くんだよ。凛くんまだ小学生でしょ。」
「大丈夫。初等部に行くから。姉弟は一緒の寮に住めるんだよ。」
「あれ、そうなの?凛くん詳しいね。」
ギクッとしたが、俺はごまかすように笑顔を浮かべた。そして、鈴姉にぎゅっと抱き付く。
「僕が、お姉ちゃんを守ってあげるから。」
「凛くん。可愛い。」
***
こうして僕は、乙女ゲームの姉のナイトをすることになった。
天使なお姉ちゃんを、守るために。