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【2】フローラ姫は人間一の美姫のようです

「わが国の宝フローラ姫を救ってくれたこと、感謝いたします。さぁ勇者様、好きなだけ宴を楽しんでいってください!」

「はぁ……」

 高いテンションで王冠をつけた猿っぽい人がそんな事をいう。

 目の前では、どうみたっておっさんだろという筋肉ダルマたちが誰得な際どい衣装で舞いを披露していた。

 俺の気分的には、女装ボディビルの会場に一人放りこまれた気分です。そんなものがあるのかは知らないけど。


「勇者、コウタ。あの技の数々、久々に私の胸が滾った」

 ゴリ……もといフローラ姫が渋い声で俺に語りかけてくる。歴戦の古兵のような風格が漂っていて、なかなかにダンディな話し方だ。

 絶対にコレ姫じゃない。女じゃない。ただの渋いおっさんだ。


「どんどん飲め。今日はこの私が直々に相手をしてやる」

 俺にしなだれかかってきて、器にドリンクを注いでくる。

 胸筋を強調するような衣装が目に痛い。

 押し付けられた逞しい胸板が、俺の恐怖を煽る。


「いやいやいや、全然気にしなくていいから。それよりももう俺、旅の途中だから。ゆっくりしてる暇はないんだ!」

 行くあてはないが、ここを早く去りたい気持ちでいっぱいだった。

「そんなこと言わずに泊まっていくがいい。今日はもう遅いし、夜は……これからだからな?」

 肉食獣を思わせる笑みを浮かべ、フローラ姫が舌なめずりをする。

 やばい、俺食われる。

 性的な意味で。


 ちょっとトイレに行ってきますと席をはずし、ずっと頭の上にいたコウモリ姿のリックくんを手のひらにのっける。

「おい、リックくん! これどうしてくれんの!」

「やったね、姫の心をゲットだぜ!」

 俺の嘆きを知ってるくせに、リックくんは楽しそうだ。


「ふっざけんなよ! 美少女ただしこの世界基準とか詐欺にもほどがあるだろうが! すぐに別の世界に連れてけ!」

「嘘はついてないよ? 美女ただしこの世界基準にもてまくってたでしょ? 人間一の美少女に迫られるなんて、なかなかないことだよ!」

 憤る俺に対して、リックくんはすましている。


「あれただのボディビルダーだよ! 女の子の柔らかさゼロだもの!」

 あれを女の区分にいれるなら、俺の世界にいたマッチョな消防士だって女に見える。

「そんなにフローラ姫が気に入らないんだ?」

「あたりまえだ!」

 リックくんはやれやれというように、頭を振った。


「でも、ハーレム作るなら王族の妻は必須なんだけどなぁ……まぁいいや。じゃあ、他の姫にしようか。この国は美姫ぞろいで有名なんだよ!」

「つまりは不細工だらけってことじゃないか!」

 俺の言葉に、リックくんが嘆かわしいというようなポーズを取る。

「人は見た目じゃないよ、心だよ?」

「いや俺にも好みがあるから。熊を素手で倒せそうな女たちと結婚する気はない!」

 もうわがままだなぁとリックくんは言って、ポンと音を立てて人間の姿になった。


「……リックくん?」

 真っ黒な髪は艶やかなおかっぱ。歳は十二歳くらいだろうか。

 長い睫毛に縁取られた瞳は、悪戯っ子の猫のよう。真っ黒なゴスロリ服が良く似合っている。

 桃色の唇は艶やかで、見た目の幼さとは相反して、大変色っぽかった。


「女の子だったんだ?」

 思わず見とれてしまった俺に、リックくんがふっと笑って、手をとってくる。

 おもむろにその手を下半身に……。

「リリ、リックくんっ!」

 赤くなって叫ぶ俺に構わず、リックくんはそのまま俺の手をスカートの下に導いて。


 むにゅ。

 うん、リックくん付いてました。


「紛らわしいよ……なんでそんな服着てるの」

 手に残った感触を忘れたい。

 そう切実に願う俺の前で、リックくんがくるりとまわってポーズを取る。

「この世界って男が少ないから、ご主人みたいな美形じゃなくて超不細工な僕ですら需要があるんだ。だからこの格好だよ!」

 さりげに貶された気がする。いや確かにリックくんは美少年ですけども!


「ご主人、この格好の僕は……嫌い?」

 不安そうな上目遣い。

 あざとい、可愛い。

「いやそんなことないよ!」

 男だとわかってるのに、美少女すぎて胸がときめいてしまうのが悔しかった。

「そうよかった!」

 喜ぶリックくんは、花が咲いたような笑顔を俺に向けてくる。


 まずい、さっきのフローラ姫ショックと、王宮の粋を集めたボディビルダー集団のせいで、リックくんが清涼剤のように思えてくる。

 なんかもう、可愛ければ男でもいいかなと気の迷いが起こらないうちに、どうにかこの城を抜け出さないといけない。


「じゃ、とりあえずフローラ姫は置いといて、ハーレム候補の女の子たちから落としていこうか」

「どうせまた美少女(笑)なんだろ」

「そうむくれないの。確かに王宮には美人ばっかりだけど、外に行けばご主人の世界基準の美女がゴロゴロしてるんだよ?」

 ふてくされた俺に、リックくんがそんな事を言ってくる。


「ご主人の好みのタイプはどんな子?」

「ちょっとエロい巨乳なお姉さんもいいけど、純真無垢な妹系も捨てがたいよね。清楚可憐なお嬢様もいいし……迷うな」

 俺の言葉を聞きながら、つまりは節操無しとリックくんがまとめて、メモに書き込んでいく。


「これでよしと。夜なったらご主人の好みをエイプリル様に伝えてくるね!」

 そう言って、リックくんは笑う。

 トイレが長すぎるとお迎えが来てしまったので、俺はフローラ姫の元へと戻った。



●●●●●●●●●●●●●●●●●●


 俺の待遇は至れり付くせりだった。

 風呂に入れば、美女(もちろんこの世界基準)が体を洗ってくれた。タオルでガシガシと俺の背中は削られ、真っ赤になっていた。


 エイプリルは俺に力をくれたらしいが、肉体は元と同レベルに脆いらしかった。

 俺は魔力が大きく、リックくんが立ち回ったときはその魔力を使って身体能力を強化していたらしい。


「ご主人は素早さやパワーはいくらでも魔法強化可能だけど、防御力だけはあがらない設定になってるよ。そのかわり再生能力が半端ないから、いくら踏みにじられても心配無用。安心して踏みにじられちゃってね! 痛がるコウタの姿はなかなかそそるって、エイプリル様褒めてたよ!」

 コウモリ姿で一緒に風呂につかりながら、そんな説明をリックくんはしてくれた。


 俺が踏みにじられるのを待ってますというように聞こえたのは……被害妄想なんだろうか。エイプリルとリックくんからは、Sのオーラをそこはかとなく感じる。。

 とりあえず……攻撃特化ということで納得しておくことにしよう。


 夜だから一旦エイプリルのところに帰るねと、リックくんが飛び去ってしまい、俺は王宮に一人残される。

 そこはかとなく不安だ。

 やっぱりいかないでとリックくんを引き止めればよかった。


 ……何が不安って、風呂から上がった俺の着替えが、ピンクのティバックってところだろうか。

 上からこれを羽織ってくださいと渡された上着は、薄いピンクの衣で透けてる。

 これって、ネグリジェ……いや、この世界ではこれが普段着とかそういうアレなんだろう。そう思いたい。いやでも、それはそれで嫌だ。


 いっそ、このお召し物しかないとか言う召使たちの服をひんむいてやろうかと考えたけれど、そもそもサイズが合わなさそうだった。

 皆二メートル級だしね。


 ――というか、俺このままだとやばいよね。

 どう考えても襲われる。

 今まで大切に守り抜いてきた貞操の危機だ。

 元の世界での最大の無念を、この異世界で可愛い女の子と果たせると思ったのに、最初がゴリラなんて笑えない。


 装備品はピンクのティバック。

 視覚的には破壊力抜群だが、防御力はゼロ。

 そして俺の周りには屈強な女戦士たちが四人。

 逃げるが勝ちだと勝機を窺っていたのだけど、強引に部屋に押し込まれた。

 甘ったるい香りのする、桃色の部屋。


「待ちわびたぞ、、コウタ」

 そこには俺と同じようなお召し物を見につけたフローラ姫が、おしげもなくその肉体美をさらしていた。

 コマンドは逃げる一択。

 しかし、ドアは閉ざされてしまっていた。


「助けてくれた礼も込めて……存分に可愛がってやる」

 扉を背に、俺の顔の横にフローラ姫が手をついてくる。

 これはやってる壁ドンってやつか。

 女子がこのシチュエーションに憧れるとか言ってたが、脅されてる恐怖しか感じない。


「ひぃっ!」

 とっさに、火球を放つ。

 威力は小さかったが、フローラ姫は軽くそれを避けた。

「その火球、やはりコウタが私に向かって打っていたのだな。つまりは勇者と見せかけた、敵の間者か? 私に恩を売って何を考えている?」

 ぎらりとフローラ姫の瞳が光る。

「いや、違うんだ。これは!」

 やばい。直前にフローラ姫を攻撃したのが俺だってばれた。

 

「ふん、まぁいい。体に聞くだけだ」

 太く節ばった指が俺の体に伸びてくる。

 このままじゃ犯される!

 とっさに体を動かせば、一瞬でフローラ姫の腕の中から俺は逃げ出していた。


「……ふっ、素晴らしいスピードだ。そうでなくてはな」

 俺の行動は、フローラ姫の闘争心に火をつけたようだった。

 繰り出される攻撃を避けながら、俺は必死の死闘を繰り広げる。


 力の使い方なんてわからなかったが、人間危機に迫られると何でもできるものだ。俺は本能でそれを使いこなしていた。

 本来俺はフェミニストだ。

 こんなんでも、女に手を上げるべきじゃないと考えていたけれど。

 そんな甘いこと言ってたら――ヤラれます。


 命がけの攻防を繰り返していたら、いつの間にか朝になっていて。

 召使の人が、昨日はお楽しみだったようですねとどこぞのRPGの宿屋みたいな台詞を、俺にかけてくれた。

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「さぁ、俺というナスを召し上がれ!」
という短編コメディもどうぞ。この話が好きならいけるはず。健全にナスを食べる話です。
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