【1】神様に転生させてもらって、美少女ハーレムつくります
泉コウタ、17歳。
異世界に転生しました。
いやー海に行って溺れて死んだ時は、最悪だと思ったんだけど神様は俺を見放さなかった!
「いやーボク、コウタのファンなんだよね。昔からずっと見てたんだけど、やっぱり無難な人生送ってる奴より、コータみたいに馬鹿ででたらめな奴の方が見てて楽しいわけよ!」
褒められてるのか、けなされてるのかよくわからないことを、その神様――エイプリルは口にして俺の背中をバシバシと叩いた。
「女の子の水着見たさに海に行って、溺れてる女の子助けようとしたらダッチワ○フで、普通に掴まってたら浮くのに動揺しすぎて沈んで死ぬなんて最高にクールだよ! 本当は全く死ぬ予定なかったのに、無駄死にだよね!」
はははと楽しそうにエイプリルは俺の人生を笑ってくれる。
エイプリルは金に桜色を一滴落としたような髪に、モデルのような顔だちのイケメン。
それでいてチャラい。ホストかと思った。
神様ってもっとこう、堅苦しくて敬虔なイメージがあったのだけれど、こんなんでいいんだろうか。
笑いすぎじゃね?とさすがに一言言おうと思ったら、面白いもの見せてくれたお礼に望む世界に、望むように転生させてくれるという。
「えっじゃあ、美女にもてまくりたいとか、ハーレムの王になりたいとかも叶っちゃうってこと? 超強くなりたいとかもあり?」
「うんうん全部まとめて叶えちゃうよ! 君みたいな面白い人間をそのまま死なせたまんまなんてもったいないし。君だったら間違いなく面白おかしい人生を送ってくれそうだしねー」
二つ返事でエイプリルはオッケーしてくれた。
俺の事を玩具扱いしているが、自分の望み通りに生きられるならそんな些細なことはどうでもいい。
神様からしたら、人間なんてそんなものだろうし、それで俺なんかにチャンスをくれるならそれはありがたく受け取っておくべきだ。
そんなことを思ったら、「君のそういう柔軟なとこも結構好きだな」とエイプリルに言われた。
神様ってやつは心の中まで読めるらしい。
「君の願いに会う世界を見つけたよ! 男が少なく女が多い世界。そもそも男の需要が高いのに、君はこの世界でモテる顔をしてる。その上最強に近い力を最初から扱えるようにしておいたし、この国は異世界からの勇者に優しいよ。ただハーレムは、王族にしか許されないんだ。けど王族を一人娶ればあとはハーレム作り放題だから」
そんなこんなで、俺は望んだ異世界に転生させてもらった。
現在は舗装されてない道路の上に俺は立っていた。
道を外れたところには草木がひろがり、遥か向こうに家が見える。
のどかな田舎町の外れと言ったところだろうか。
「外見を確認したいんだけど」
「了解!」
俺の頭の上に乗っているコウモリにそう言えば、目の前に魔術で全身が映る氷の鏡を出してくれた。
本当にファンタジーの世界にきたんだなと、こんなところで感心する。
ちなみにこのコウモリはエイプリルから遣わされた、俺のサポート役のリックくんだ。
声は中性的で少女にも聞こえるが、どちらかと言えば少年より。
自分のことを僕と言うので、とりあえず「リックくん」と呼んでいる。
俺の見た目は……そんなに変わってないような?
好きな子に告白する前に好意が知られ、「えっやだあいつから好かれるなんてキモイ」と即効で恋が終わったこのルックス。
自分ではそんなに悪くないんじゃないのと思っているけれど……女の子から好かれたことは一度もない。
イケメンになってるかと思ってたのに残念だ。
「本当にこれでモテるのか?」
「もちろんだよ! 皆が皆ご主人の美貌にメロメロ。今王族の姫、人間の中で一番美しいと言われるフローラ姫が敵に襲われてるから、ご主人が助け出して恋のきっかけを作るチャンスだよ。そうすれば彼女はご主人に夢中、王族を妻に迎えれば後はハーレム作り放題。ちなみにフローラ姫は第五王女で、王位継承の可能性も薄く面倒な仕事もないお買い得物件となってるよ!」
不安になる俺に、リックくんが請け負う。
「助けるのはいいんだけど、そもそも俺強くなってんの?」
全く運動してなかったため、お腹も心なしかぶにぶにだ。
力こぶをつくっても柔らかすぎて、筋肉というより脂肪のような気がしてくる。
「もちろん! 試しに魔法使ってみる?」
「魔法も使えるのか!?」
わくわくとした俺に、目の前でぱたぱたと羽を羽ばたかせ空中に留まっていたリックくんが誇らしげに当然でしょと口にする。
「とりあえずは初めてだし、僕が補助するよ。ちょっと変な感じがすると思うけど、我慢してね!」
リックくんがそう言って俺の首筋に噛み付く。
「んっ……」
別に痛くはなかったけれど、ぞわぞわとした妙な感覚が体を巡って行った。
それが全身にいきわたったところで、リックくんの姿が透けて消えてしまう。
「リックくん!?」
『慌てなくても大丈夫、ご主人の体の中にいるから。まずは僕がご主人の体で魔法使って見せるよ。そしたら感覚がわかるだろうから、次はご主人自身が使ってみて』
リックくんの声が頭の中で響き、俺の体が勝手に動く。
遠くにそびえたつ山にむかって、俺の体を使ったリックくんが手を翳す。
手のひらの前に光の文字が生まれ。まるでその一つ一つが糸を編むかのように一つの形を作り上げていく。
そこにあるのが魔法陣で、俺の頭の中にあったものだとわかった。
目の前で書きあがった『火球』の魔法陣に力を少し込めてやれば。
そこから放たれた魔法は、目の前の山を爆音と共に消し去ってくれた。
「……これは凄いな」
『でしょ? 慣れるまでは僕がご主人の命令で体を動かしてあげるから、心配もいらないよ』
なんというバックアップ体制。心強い限りだ。
ありがたいなと思う俺に、そろそろ行こうとリックくんが促してきたので、姫が襲われているという現場に急ぐ。
百メートル走らないうちに息が切れていたかつての俺とは違い、今の体は羽のように軽く、全く負担を感じなかった。
『あれがフローラ姫とその一行だよ』
リックくんが言うその先には、豪華な馬車。
ビキニと鎧を組み合わせた露出度の高い服装のお姉さんたちが、筋骨隆々とした男たちに捕まっていた。
離せとわめきながら、ビキニアーマーのお姉さんたちが暴れる。けれどたくましい男達はびくともしていない。
普通に考えると、フローラ姫の馬車をあの男達が襲ったんだろう。
男達は全部で五人。身長は高く肩幅がでかい。誰もが威圧感のあるオーラを漂わせていて、その体つきはまるでアメフトの選手のようだ。
ただ山賊とかそういうのとは違う気がする。
服装はどちらかというと、西洋の騎士をモチーフにしたような服を着てるし、佇まいは凜としている。
男の癖に短いスカートっぽいのを着ているけれど、あれは腰巻でこちらの世界の流行なんだろうか。
真ん中に立つ黒髪で太い眉の凛々しい、野性味溢れた男がボスなんだろう。一人だけ服装が違っていて、五人の中でも一際強そうなオーラを放っていた。
鋭い眼光はまるで殺し屋で、身長は二メートル近くありまるで壁のようだ。むしろ人間よりもゴリラに近い。服を着たゴリラだ。なので勝手に心のなかでゴリラ呼びすることにする。
ところでフローラ姫は誰なんだろう。
捕まっている女の子たちを見れば、どれも眩いばかりの美女ぞろい。フローラという可憐な響きの名前に負けない顔立ちの子たちがそこにいた。
多分フローラ姫は、ゴリラに捕まっている子だろう。
艶やかな金髪に、端正な顔立ち。
気の強そうな目元と、官能的な桃色の唇が素敵だ。
まっしろなマシュマロのごとき胸の谷間が眩しく。出るトコでて引き締まったわがままボディは何故かビキニアーマを装着している。
姫様にしては品のない服装な気がするけれど、その美貌は姫と呼ぶにふさわしい。
「さっきの火球の小さいやつを、あのごっつい真ん中のゴリラに当てられるか?」
『了解』
俺の言葉に、表情は見えないのに頭の中のリックくんが笑った気がした。
すっと手を翳し俺の手の前で火球が生成されていく。小さいけれど密度は濃い。むしろさっきのやつより殺傷力があるのがわかる。
……これ、フローラ姫に当たったら危険なんじゃ?
『大丈夫。問題はないよ』
俺の心の声に答えて、リックくんが火球を放つ。
ゴリラはすぐにその気配に気づいたようで、フローラ姫を仲間に押し付け、火球を受け止める体制をつくる。手に青い光を纏っていて、そこに何らかの魔法を展開したようだ。
「ふんぬぅぅう!」
物凄い掛け声をだして、ゴリラは素手で火球を受け止める。避けなかったのは後ろに仲間がいるからだろう。
じりじりと火球におされ、道路にゴリラが踏ん張った足の跡が付いていく。
五十メートルくらい押されてもなお、ゴリラは耐えていた。
あの山を崩した火球より、威力のある魔法なのに……だ。
「どっせいっ!」
謎の気合と共にゴリラが火球を押し上げる。
火球は空へと方向を変え飛んでいく。
そこにゴリラは、魔法で衝撃破を放ち火球を空中で爆発させた。
なんてゴリラだ。あれを止められる人外に勝てる気がしない。
しかしさすがのゴリラも今のは堪えたらしい。息を荒く疲れたようすで膝をついたゴリラを、フローラ姫と思われる美女が後ろから羽交い絞めにし、その首筋に剣をあてた。
とりあえずフローラ姫を助けることができて、暴漢をやっつける事に成功したようだ。
ほっと胸を撫で下ろす。
「お前ら全員抵抗はすんなよ? フローラ姫を殺されたくなければな」
しかし、そう言って悪い笑みを浮かべたのは、俺がフローラ姫だと思っていた金髪ビキニアーマーの美女だった。
彼女が人質にとっているのはあのゴリラだ。
……えっ? フローラ姫って、まさかゴリラの方なの?
『その通りだよ。僕の言ったとおり、あの程度の火球フローラ姫なら大丈夫だったでしょ?』
「いやいやいや! あれのどこが美人なんだよ! 男でしょ! そもそも人ですらないよ、ゴリラだよ!」
心の声に答えたリックくんに、思わず大きな声でツッコミを入れてしまう。
そのせいで、全員が木に隠れていた俺の存在に気づいてしまった。
大きく目を見開いて、まるでありえないものでも見たかのように全員が俺を見ていた。
「こんな……美しい男が世の中にいるのか」
「まるで神が作った芸術作品のようだ」
しばらくの静寂のあと、金縛りからとけたようにうっとり溜息を吐いて口々に呟きだす。
『ご主人に皆がメロメロなのを見て分かるように、この国ではご主人のいた国と美の基準が大きく違うんだ。元の世界で不細工だったご主人は、ここでは最高の美男子。男が少ないこの世界では、フローラ姫のような逞しい女性や、醜悪で誰も寄せ付けない顔立ちの女性が美女とされてるんだ!』
くくっと脳内で楽しそうにリックくんが笑う。
この状況が楽しくてしかたないというように。
――えっ? えっ?
美女って、これ?
どう見たって純然たるゴリラだよ? 俺もしかして騙された?
『騙してないよ。ただ美女がこの世界基準だっただけ。あっフローラ姫はご主人と同じ十七歳だから、美少女かな?』
「いやあれ三十歳は行ってるだろ! 貫禄ありすぎるよ! 今まで何人殺してきたんだって顔してるもの!」
リックくんの声は俺にしか聞こえてないので、独り言状態だったが、つっこまずにはいられなかった。
「何をごちゃごちゃ言ってるんだあの男は。まぁいい部下共、あの色男を捕まえろ。私の婿にする」
金髪ビキニアーマの美女が、部下の美女に指図する。
むしろそっちに捕まったほうが俺、幸せだ。
そう気づいたところで、俺の体が勝手に動き出した。
『駄目だよご主人。ハーレムにはどうしても王族を娶る必要があるからね。僕はご主人の野望をサポートする義務があるから』
楽しそうに脳内でリックくんがそう言って、次々と襲ってくるビキニアーマーの美女達をやっつけていく。あっさりと親玉の金髪美女からフローラ姫(笑)を助け出してしまった。
「大丈夫ですか、フローラ姫」
俺の口で、リックくんがフローラ姫に囁く。
「はい……その身なりからして、異世界の勇者とお見受けします。助けてくれてありがとうございました」
膝をついてこちらを見上げているフローラ姫の目は、熱っぽくてぞくぞくとした。
もちろん、悪寒的な意味で。
こうして俺は、お礼がしたいからというフローラ姫によって、王城に持ち帰られてしまった。
美少女(ただしこの世界基準)。嘘は言ってない……エイプリルフールなので、色々酷くても笑って許してください。
★4/1矛盾があったので修正しました。
★8/3 微修正しました。内容の変更はありません。