【第11話】 襲撃④
【前回のあらすじ】
一角鬼「イエス、イエス、ロリータ! ノータッチ!」
「――さっさと、死んでくれよ」
両手に握る歪な形状の短刀をクルクルと弄びながら、語りかけてくる髑髏仮面の少女。
「痴れ者っ!」
あからさまな挑発に手を出したのは、黄金鎧の少女鬼士――リノリアだ。黄金稲穂のツインテールを靡かせて、片手剣による疾風怒涛の突きを繰り出す新米鬼士。
「おっと」
はたして両腕を脱力させた暗殺者は、刃と肌のあいだに指一本ぶんの隙間を残しつつ、上半身の体捌きのみでいとも容易くそれらを回避してみせた。
「はは、遅い遅いっ!」
「くっ!」
幾度目かの突きを回避したのちに、髑髏仮面の少女が攻勢へと転じる。だらりと脱力していた腕が毒蛇のごとく波打って、突き技のために伸び切っていた少女鬼士の腕へと牙を剥く。
キィィンと、森に鳴り響く金属の悲鳴。
音の発生源は毒蛇たちの軌道上に割り込んだ長槍の穂先であり、その反対側を、リノリアとともにこの場に並んでいた長身鬼士――ドゥンが握り締めていた。
「お嬢、はしゃぎすぎっスよ!」
「でかしたぞぃ!」
機を逃さず前に出たのは、彼女たち〈金剛鬼士団〉を率いる鬼士団長――ゴードン。身の丈二メートルを超える巨漢が、肩に担いでいた相棒である金砕棒型の魔道具を、鋭い風切り音とともに一閃する。
「うぉっと、あっぶねぇなジジイ!」
「ぬぅああああああっ!」
少女鬼士の追撃に水を差された暗殺者が毒づくが、意に介せず鬼士団長は連撃を開始。巨大な金砕棒を、まるで小枝のように振り回す。黄金棘棒が剛腕で振るわれるたび、暴風が巻き上がり、紫電が弾けた。
直撃すれば鎧ごと肉を叩き潰す、金属塊の豪風。
だが獲物である暗殺者は、倍近い両者の身長差を活かして、四足獣の姿勢を選択。地を這うようにして、金属と雷撃の暴風地帯を駆けまわる。
「――シッ!」
とうとう白刃を備えた獣は、暴風域を潜り抜けて、その本体に一撃を見舞うに至った。
「お爺様!」
「寄るな、リノリア!」
一撃離脱を果たしたのち、四足獣の姿勢で獲物を牽制する髑髏仮面の少女。黄金鎧の隙間を狙った一撃によって、ゴードンの身体が赤く染まっていくが、近寄ろうとする孫娘を鬼士団長は拒絶する。すぐにその傷口がゴボゴボと粟立って、小さなキノコを形成した。
「……ぬぅ、毒か」
「ご名答。見ての通り、このあたりに散布しているうっすいヤツじゃなくて、ギンッギンの特濃魔力だ。かすっただけで、キノコ塗れになっちまうぜ~?」
危険性を煽るように、暗殺者は歪な形状の短刀を見せつける。たしかに二振りの刃はどちらも濃緑の魔力に包まれ、禍々しい気配を放っていた。
「ふむ」
次の瞬間『バヂチチチッ』と、雷蛇が唸る。汚染魔力によって金剛鬼の身体に形成されていたキノコたちは炭化して、ボロボロと崩れ落ちていった。
「で、そのような見え透いた駆け引きで、ワシの筋肉たちが委縮するとでも?」
「……チッ。かわいくねージジイだな」
傷口を火で炙って止血するに等しい蛮行は、想像を絶する激痛を伴うものだ。しかし数多の死線を潜り抜けてきた戦鬼はすでにその段階にあらず、肉体の苦痛など、彼を縛る足枷には成り得ない。
「でもいったい、いつまでそのやせ我慢が続くかな?」
とはいえ、限界は確実に存在する。一度で駄目なら二度、三度と、相手の心が折れるまで何度でも繰り返せばいいだけのこと。そうした暗殺者の目論見に、ふたたび金砕棒を構えた戦鬼はニィと口端を引き上げた。
「……リノリア、ドゥンとともに下がっておれ。こやつはワシがやる」
「団長、しかしっ!」
「お嬢、いいからとっとと下がるっスよ。足手まといにはなりたくないでしょ?」
得体のしれない敵を前にして、食い下がろうとする少女鬼士を、長身鬼士が肩を引いて後退していく。その姿を確認して、金剛鬼は一族に伝わる血統魔法を発動させた。
「――〈雷轟闘氣〉!」
バヂヂヂヂッ……と、強い雷属性を帯びた魔力が、金剛鬼の全身を包み込む。〈戦鬼闘氣〉の上位互換といえるその強化魔法は、身体能力の向上はもちろんのこと、使用者の神経伝達速度を極限まで鋭敏化した。
「ゆくぞ!」
結果として身の丈二メートルを超える巨漢は、疾風迅雷のごとき速度を獲得する。大地を蹴った次の瞬間には、対象の眼前に移動。雷を従えし彼の金剛鬼が振るった金砕棒は残像のみを残し、その本体を捉えることは決して叶わぬことは、鬼帝国の戦場において有名な逸話である。
「お、わ、マジかよジジイ、タンマタンマ!」
にもかかわらず髑髏仮面の少女は、回避不可能なはずの金砕棒を躱す。避ける。回避する。さすがに先ほどまでの余裕はないものの、常人であれば数手と避けられるはずの雷鬼士の猛攻を、小さな暗殺者は何度となく捌き続ける。その常軌を逸した体術に、金剛鬼の警戒心はさらに引き上げられた。
「ぬぅううううんっ!」
ゆえにとった行動は、バチバチと唸る金砕棒を、天に掲げること。
「――げっ!」
「散れぃ、小童ッ!」
直後に大地が弾け、紫電が爆ぜる。
「っ!?」
予想通り、大振りとなった金砕棒そのものは回避した髑髏仮面の少女。だがその余波である石礫と雷撃までをも避けきることは、物理的に不可能だった。
咄嗟に身に纏う外套を翻して電撃こそ防いだものの、石礫を全身に浴びて、不格好な姿勢でゴロゴロと地面を転がっていく。すかさず両手を地面について四足獣の姿勢をとった少女の頬を、髑髏仮面の下側を伝う流血が彩った。
「……いってぇな。ンだよ、クソジジイ! こんなか弱い美少女にガチの雷撃魔法とか、テメエ、アタマ湧いてんのか!?」
「戦場では老若男女の差別をしないのが、我が鬼士団の流儀でのぅ」
軽口に応えつつも、紫電をまとう雷鬼士が警戒を解くことはない。数多の難敵を打ち破ってきた雷撃魔法〈雷震豪打〉を受けて、なお五体満足を残す敵を、どうして軽視できようものか。
「それよりも、ヌシのその眼……いったい、何が『視えて』おる?」
そして歴戦を誇る鬼士の観察眼は、暗殺者の特異性が毒刃でもなく、体術でもなく、その髑髏仮面の奥に潜んでいることを看破していた。
「自分で言うのもなんじゃがなあ、〈雷轟闘氣〉をまとったワシの攻撃を体術のみで捌ける者など、そうはおらんのじゃよ。それどころかヌシはときおり、ワシの動作よりも『早く』動いておるじゃろう? つまりヌシの眼は、一瞬先に起こるであろう魔力の流れ……疑似的な『未来』を視ておる。違うか?」
「……うぜぇよジジイ。モウロクしてんなら、さっさとくたばりやがれ!」
「かっか。図星か!」
「……っ!」
今や暗殺者から浮つきは完全に消え去り、触れれば切れるような殺気が漏れ出している。魔力が秀でた者の年齢を容姿で断じることは危険だが、長年の経験から、ゴードンは彼女の年齢が外見とそう変わらないだろうと当たりをつけていた。
(その歳でそこまでの修羅を身に宿すか……不憫な子よのぅ)
とはいえ、あくまで敵性として眼前に立ち塞がるのなら、それに全力を以て応えるのがゴードンの鬼士道だ。バチバチと唸り声を漏らす金砕棒を正面に構え、雷鬼士は堂々たる名乗りを上げる。
「〈金剛鬼士団〉鬼士団長、ゴードン・マニ・ゴールド、参る!」
「……悪いんだけど、アタイらにはそんなふうに名乗るほど、たいそうな名前は与えられていねぇんだ。だからまあ、締まらねぇけど……不肖九号、行くぜ!」
「是非もなし!」
そして三度、暗殺者の毒刃と、金剛鬼の雷撃が交わった。
●
暴風が吹き荒れ、紫電が弾ける。
大地が悲鳴をあげ、石礫がそれに応える。
鉄と雷に彩られた暴風圏を、人型の四足獣がときに駆け、ときに舞い、ときに流れに身を任せながら、あたかも両者があらかじめ示し合わせているかのような、奇怪な舞踊を演じている。
「いったい……何者ですの、あの子」
憧れの祖父として、信頼に足る鬼士団長として、金砕棒を振るう金剛鬼の実力を、誰よりも間近で見続けてきた自負がある。それゆえにリノリアは彼の猛攻を前にして、歪ながらも凌ぎ続けている少女の存在を、にわかに受け入れることができなかった。
「まあ、世の中広いってことっスね。あんなバケモノの相手、オイラたちだけだとマジでヤバかったっス」
「……っ!」
「でもまあ、バケモノも相手が悪かったっスよね。うちの団長は、もっとバケモノっス。ほら、徐々に攻撃が掠るようになってきたっスよ。あのチビっ子、見た目通りにそれほどスタミナはないんでしょうね。だったら技量が同じでも、筋肉馬鹿の団長が負けるハズないっス」
「あ、当たり前ですわ! 栄えある〈金剛鬼士団〉の団長ともあろうものが、このような戦場で、後れをとることなどありえません!」
「だったらオイラたち団員も、それなりにカッコつけないとっスよね!」
同期である少女鬼士と言葉を交わしつつも、周囲への警戒を怠っていなかった長身鬼士が長槍を握り締め、突き出す。その穂先は樹木の陰に隠れて接近していた懲罰使徒の胸元を穿ち、骨を砕いて心臓を潰した。
「――ちィ!」
「ッ、そこですわ!」
これ以上の接近は不可能と判断したのか、反対側の木陰から新たな懲罰使徒が飛び出してくる。迎え撃つのは、小麦肌の少女鬼士が握る片手剣。襲撃者の振るう短刀が届くよりも先に、リノリアの切っ先がその喉元を斬り裂いて、鮮血が宙を舞った。
「お見事。さすが団長のお孫さんっスね」
「世辞はよろしいですわ。それより、少しでも団長の手助けを――」
「――お二人とも、まだですよ!」
鬼士たちの会話を遮るように、駆け込んできたのは金等級クラン〈蕾の守護者〉の団長、白銀甲冑を纏う一角鬼の青年――ホーリーだった。
「せいッ!」
白銀甲冑の金等級冒険者は、鬼士たちの返答を待つことなく、手にする白銀の長剣を一閃。甲高い金属音とともに、今まさにリノリアの身に迫ろうとした毒刃を、間一髪のところで弾き飛ばす。
「……えっ!?」
「離れろ嬢ちゃん! ――〈石礫弾/ストーンショット〉!」
続いて無数の石礫が、なおも少女鬼士の身に迫ろうとしていた襲撃者に飛来。肉体にいくつもの尖岩を生やして吹き飛ぶ人影と入れ替わるように、ドタドタと小刻みな足音を響かせて、〈大地の大槌〉の一員である土精人が駆け寄ってくる。
「ふぅ……危機一髪じゃったのう、嬢ちゃん。例は酒樽ひとつだけで構わんぞい?」
「なっ……そんな……っ!?」
土精人の軽口に応じる余裕もなく、驚きに目を見開く少女鬼士。その黄金の視線は、土砂魔法の直撃を受けたにも関わらず、なおも立ち上がろうとする人影に固定されていた。
「ぐっ……くぞっ、よけいな、ま、まねを……」
襲撃者が漏らすのは、途切れ途切れの濁音。
しかしそれも無理はないこと。
何故なら彼はつい先ほど『喉を斬り裂かれた』ばかりの、懲罰使徒であるのだから。
(そんなっ!? 確実に、致命傷だったはず!)
手応えはあった。そして一度意識を刈り取ってしまえば、回復魔法の類を用いることのできない人間が、生き永らえられる道理はない。ゆえに意識からその存在を除外してしまった少女鬼士であったが、その判断が、間違いであったことを思い知らされる。
「リノリア殿。彼らはおそらく、不死兵団と呼ばれる者たちです」
「残念じゃがこの程度の傷じゃあ、くたばってはくれんとよぉ!」
ホーリーたちの言葉を証明するかのように、喉元や身体から大量の血液を垂れ零したまま、幽鬼のように立ち上がる懲罰使徒。その傷口がゴボゴボと泡立ち、数秒と待たずに塞がっていく。長身鬼士が斃したはずの懲罰使徒もまた起き上がって、たちどころにその胸元を修復していった。
「如何にも、私たちは不死兵団」
「断罪司教〈菌樹〉様に選ばれ、その片腕である〈不死者〉様に鍛えられた、魔人様の先兵なり」
「汝らに、意義ある死を与える者なり」
さらにゆらり、ゆらりと、木陰から四名の懲罰使徒が姿を現す。そして彼らが一斉に、その身を覆っていた外套を投げ捨てるなり、晒された肉体を目の当たりにしたリノリアは息を呑んだ。
「……正気の沙汰では、ありませんわね」
何故なら彼らの体表は、カビともコケとも判断がつかない濃緑の菌糸に、びっしりと覆われていた。ところどころに見覚えのあるキノコが隆起していることから察するに、おそらく正体は魔菌。つまりこの不死兵団を名乗る懲罰使徒たちは、忌々しい禁忌魔法を、自らの肉体を苗床として繁茂させているのだ。
「とくと見よ、我らの信仰の証を!」
「魔人様の加護を!」
「この不死の肉体があるかぎり、私たちの信仰もまた不滅!」
「さあ、原罪の仔らよ、観念してこの贖罪の機会に身を委ねるがいい!」
声たかだかに宣言して、鬼士たちを包囲する禁忌の狂信者たち。その身体はゴボゴボと隆起して、見る間に一回以上も膨れ上がった。
「ん、どうやらあちらさん、やっぱりあの魔菌が不死身のタネみたいっスねぇ」
「だろうね! 宿主の再生に肉体の強化なんて、なかなか器用なキノコじゃないか!」
「おそらく、あやつらの身に宿す魔菌が特別製なんじゃ。おおよそ他の魔菌たちが宿主から吸い上げて体外に放出した魔力を、逆に吸収して宿主に還元しとる、ちゅーところじゃないかのう」
「……ええ、きっとその推測で、間違いありません」
祖父ほどの精度ではないものの、同じ血統の金剛鬼として、他種族よりも秀でた感知能力を有するリノリア。彼女が発動した探知魔法〈波長探知〉は、不死兵団に吸引されていく不自然な魔力の流れを捉えていた。
「ふぅん。で、だとしたら対応は?」
「簡単ですわ。周囲の魔力が枯渇するまで対象を殺し続けるか、対象が再生できなくなる量まで、その身の魔菌を滅し尽くすだけのこと」
「つまり死ぬまで殺せってことっスか。わぉ、さすが団長の血筋、見事な脳筋っスね!」
「ここでは誉め言葉として受け取っておきますわ、ドゥン」
言葉ほどに容易くはない課題に、それでも戦意を失わない新米鬼士たち。その背中を守るように、白銀甲冑の青年が長剣を構える。
「僕としてもこんな教育上よろしくないものを、蕾たちに近づけさせることは避けたい。必要ないとは思うが、助太刀させてもらうよ!」
「いまこの一角のボウズんとこのクランメンバーが、森に散っとる仲間を集めておる。そいつらが合流してくるまで、もうひと踏ん張りじゃ」
いつのまにか姿を消していた〈蕾の守護者〉のメンバーたちは、どうやらいちはやく異常を察知して、次の手を打っているらしい。そして無論、クランメンバーにそうした判断と指示を出したのは、団長であるこの一角鬼であるはずだ。
(やはり腐っても金等級冒険者、ということなのでしょうね)
少女鬼士は少しだけ、常に少年少女たちにまとわりついている印象しかなかった一角鬼の評価を改める。
「それにしても卑猥なキノコと、蕾たちか……。うん、状況によってはアリだね!」
「貴方すでに、魔菌が頭に回っているのではありませんの?」
はたしてその評価は、すぐに下限を突破することになるのだが。
●
(ぬぅ……なにか、おかしい)
両者の戦闘が開始してはや数分。長身鬼士が予見したとおり、彼我の体力差を活かして焦ることなく攻撃を継続することで、徐々に戦況を優位に運んでいる鬼士団長。このままいけばあと一分と待つことなく、勝敗は決することだろう。
ゆえに歴戦の鬼士は、違和感を覚える。
(自らの敗北を悟っておいて、なぜ戦い続ける? それがわからぬ、ヌシはなかろうに)
そもそも暗殺者の本懐は、敵に気付かれることなく対象を始末することだ。その存在が露見した時点で、目的の達成を諦めて一時撤退することも戦略のひとつだろう。
だというのに髑髏仮面の少女は、退く気配をみせない。
その暗殺者らしからぬ姿勢に、戦鬼の直観が警鐘を鳴らす。
(――まさかっ!)
咄嗟の判断で攻撃の手を緩め、発動したのは探知魔法〈波長探知〉。孫娘のそれよりも精密に広範囲を索敵できるその魔法は、その知覚に、いつのまにかこの戦場に紛れ込んでいた『新たなる人影』を告げた。
「いかんっ!」
「もう遅ぇ!」
金剛鬼の反応に、伏兵の存在を気取られたことを察した暗殺者。がら空きとなった背中に振るわれる毒刃を、ゴードンは無視。〈雷轟闘氣〉による強化のほとんどを脚部に集中させることにより、一筋の雷光となって、戦場の森を駆け抜ける。
直後に、閃光が瞬いた。
●
少女はずっと、その背中を見ていた。
憧れていた。
追いかけていた。
大きくて逞しい、祖父の背中を。
強くて誇らしい、団長の勇姿を。
幼い自分に職務に殉じた両親を喪ったリノリアにとって、ゴードンは祖父であり、目標であり、指針であり、理想だ。
幾度となく、その拳が悪を誅する様を見てきた。
何度となく、その掌が無辜の民を救う光景を見てきた。
祖父は帝国の剣だ。
祖父は帝国の盾だ。
その祖父が、戦場で誰かに後れをとることなど有り得ない。これまでも。そしてこれからも。そんなことは有り得ないと自分自身で一笑に伏しつつも、しかし心のどこかでは、それをいまだに信じている幼い自分がいる。
リノリアにとって祖父は、英雄だった。
絶対無敵の、ヒーローだった。
その、祖父が……
「……あ、あぁ……」
突如として目の前に現れた祖父が……
自らを盾とするように、両手を広げた英雄が……
胸元を閃光に貫かれ、吐血とともに崩れ落ちたとき……
「ああ、あ、あぁ……」
リノリアの喉から、絶望が迸った。
「あああぁああああああああああああっ!」




