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ブギーテイル ~異世界豚鬼英雄譚~  作者: 陽海
第四章 乱痴鬼祭編
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【第09話】 襲撃②

【前回のあらすじ】


少女鬼士「わたくし、いつまで粗相を引っ張られるのでしょうか……」





「ラックどん!」

「に、兄さんを、頼みます!」

「応、任せたぞハラキリ! デクノボウ! だが無茶はすんな、とにかくあの緑の粉塵は避けろ、んでもってボケカスみたいにキノコが生えたら、すぐに後退だァ!」

「ら、ラックさん! 俺はまだ、戦えます!」

「いいからテメエは黙ってろ! 大人しくついて来い!」


 それぞれカタナを構えるサムライ――クロガネと、棍棒を掲げる大鬼オーガ――タウロを前線に残したまま、抵抗する豚野郎の首根っこを掴み、赤鬼ブルオーガン――ラックが後退していく。


「ラックさん!」

「いいから落ち着け、ボケカス! とにかく魔力を抑えろ! これ以上、魔菌に栄養を与えるんじゃねえ! コイツらは宿主の魔力を吸い取って成長しやがるんだ、下手な治癒魔法なんかは逆効果だからな!」


 無能な豚とは異なり、この不気味な魔法に見識があるらしい赤鬼からの助言。それに逆らう理由もなく、指示されたとおりに肉体を流れる魔力の一部を制限すると、それまでポコポコと成長と増殖を繰り返していたキノコ――『魔菌』が、ようやく活動を停止した。


「いいか、ボケカス。いまテメエのきったねぇ身体に生えているきったねぇキノコどもは、あくまでテメエのきったねぇ身体の一部だ。生えているように見えるが、正確には魔法で変質しているだけで、まだ神経や血管なんかは繋がっている。それを無理矢理引っこ抜くとどうなるか……わかるよな?」


 想像してみる。大地に張った植物の根のように、肉体の神経や血管に繋がったキノコ。それを力づくでブチブチと引き抜けば――


「――うっ」

「よぉーしわかったか、だったら大人しくしてろ。あくまでそれは魔力干渉による、一時的な変質。宿主からの栄養さえ絶っていれば、じきに解除される。だから今は、大人しくしとけ」


 言い換えるならこのキノコどもは、宿主からの栄養がある限り、際限なく成長する。


 宿主という養分が尽きる、そのときまで……


(かといって戦闘中に『魔力』を使わないなんて、それこそ自殺行為だぞ)


 魔力を外部に放出する魔法士だって、魔力を体内に循環させる拳闘士だって、この世界における魔力とは呼吸なんかと同じで、運動には必要不可欠なもの。それを無慈悲に制限するこの状態異常デバフ魔法がいかに悪質か、語るまでもない。


「……最悪、ですね」

「ああ、その通り、コイツはとびきり災悪サイアクなクソッたれ魔法――菌死魔法だよ。実際にコイツの使い手――〈菌樹〉の野郎は、このクソッたれ魔法でいくつもの村や町を滅ぼしていやがる。おかげで呪禁魔法なんかに並ぶ、立派な禁忌魔法のひとつだ」


 禁忌魔法とはアルニア大陸における魔法関連機関の大御所、魔導協会が定めた『使用方法によっては甚大な被害を引き起こすため、習得や使用を著しく制限すべき』特殊な魔法を指している。


 各種族の古代種などが代表を担い、古くから各国の垣根を越えて活動してきたこの魔導協会には、仮に一国家といえ表立って反発することは難しい。無論、そんな彼らが定める禁忌魔法であるからして、禁忌指定には相応の理由が存在している。事実、その一端が実際にこうして顕現すると、彼らの抱いた危惧はよく理解できた。


「もしかしてラックさんがむかし、潰した魔人教って……」

「……ああ。断罪司教である〈菌樹〉のクソ野郎は取り逃がしたが、そいつの息がかかっていた連中だ。あのときはオレ様も勝手がわからず、余計な被害を出しちまったが――」


 そこで喋り過ぎたとでも思ったのか、ガラ悪く「チッ」と舌打ちする金等級冒険者。しかしその言葉の続きぐらい、無能な豚でも察することはできた。


(――そのときの経験があるから、こうして俺は助けられている)


 直接それを確かめたところで、赤鬼は認めたりはしないだろう。だからこの想いは、俺の胸に留めておくものだ。いつか借りを返す、その日まで。


「……まあ、だがテメエはまだツイている」


 豚野郎の視線を疎むように、ラックが話題を強引に変える。


「通常ならこの魔菌どもは、宿主自身の回復魔法すらエサにしちまう悪食だ。本人の体内魔力ですらその有様なんだから、他人サマにかけてもらう治癒魔法なんて論外。それこそ緻密で精密な、トビキリの魔力操作技術が必要だぜ」


 対象の負傷を癒す魔法は、大きく分けて二種類。自らの魔力を用いて治癒能力を活性化させ回復魔法と、他者の魔力を用いて治癒能力を活性化させる治癒魔法。


 それぞれに一長一短あるのだが、とくに後者のそれは、対象である他人に術者の魔力を注入するため、前者よりも微細な魔力操作技術が必要となるのが一般的だ。


(とくに今の話を聞く限りだと、この魔菌っていう魔力物質は、怪我というよりも病気、もっと言ってしまえば『呪い』という表現が、本質に近いだろう)


 となると必要とされるのは、治癒や回復系統の魔法よりも、より高度とされる解呪魔法。その術者には本人の魔力適正といった資質と同等かそれ以上に、人体と魔力についての深い造詣と知識が必要とされる。


(まあ普通に考えてそんな稀有レアな人材なんて、滅多にいないよな)


 少なくともそれほどの卓越した技能があるのであれば、身の危険が付きまとう冒険者などに身をやつさずとも、貴族などの有力者に囲まれて、安穏な生活を送ることができる。


 そう――本来であれば。


「おいビビリ虫! こっちだ! 来い!」

「は、ハオ! パオは矮小で卑屈なビビリ虫です!」


 赤鬼のあんまりな呼称にも、否定するどころかさらにナチュラルに自らを貶めて駆け寄ってくる少女は、何を隠そう、俺の奥さんの隷妹だった。


「テメエの出番だ、ビビリ虫。さっさときったねぇボケカス野郎を洗浄しやがれ」

「ぶ、ブーハオ! そんな! 畏れ多い! 生ゴミにも劣るゴミムシのパオがご主人様をこれ以上汚すなど、できるはずもありません! そのまえに自ら焼却処分します!」

「い、今はそういうのいいから、さっさと診てくれ……」


 魔力干渉によって強引に細胞を変化させられている為なのか、キノコに変化した部分が酷く疼く。まるで神経を外部に剥き出しにされているかのようだ。


 かゆみさえ覚える疼痛とうつうに、思わず掻きむしりたい衝動に駆られる。だがそれをしてしまうと激痛とともに肉体の一部が破損して、最悪、治癒魔法が正常に発動できなくなる可能性すら存在する。


(ホント、最悪の魔法だよ)


 何より、たとえそこに如何なる理由があろうとも、こんな非道な魔法を他人に行使する術者の神経は、よりおぞましいものに違いない。今さらながらに魔人教が邪教認定されている理由を、強く実感した。


「で、ではご主人様、失礼いたします」


 だが魔人教ヤツらの誤算は、何の因果か、この悪辣なる魔法に対処できる類まれなる人材が、偶然にもこの場に居合わせたことだ。


「――〈細胞変異セルフィルム蝶羽化バタフライ〉」


 何度かの深呼吸で息を整えたパオヘイが、一部の獣人や蟲人などが用いる変質魔法〈細胞変異(セルフィルム〉を発動。


 代表的な〈鋼化スティール)〉や〈爪刃ダガー〉のように、肉体の強度や規格を変化させる変異魔法とは異なり、術者の肉体を細胞単位で変質させるそれは、数秒のうちに、少女の背中に四枚二対の色彩豊かな蝶翅はねを形成した。


「……」

「……っ、ブーハオ! 申し訳ありません申し訳ありませんご主人様、このような、パオの醜い姿を晒してしまって! お目汚しですよね!? 醜いですよね!? お気に障るようでしたらこの翅、燃やすなり千切るなり如何様にもしてくださいませ!」

「い、いや、そうじゃない。そうじゃないんだよ、パオヘイ。ただいつ見ても、キレイな翅だよなーって……」

「~~~っ!」

「おいボケカス。そういうところだぞ。嬢ちゃんが気にしているのは」

「……?」


 何故かラックが呆れた顔をしているが、美しいものを美しいと認めて何が悪い。顔を真っ赤にして俯いている蟲人の隷妹は、もっと自分の長所を誇るべきだ。


(それにマリーも、この子はもっと自分に自信を持つべきだって言ってたんだ)


 今回のクエストこそ無理を言って貸し出してもらっているが、普段は介護者と要介護者として、長い時間をこの才能溢れる少女と共にしている、俺の母親――マリアン。


 彼女の言うことに間違いはない。だから聖母の信奉者である豚野郎は、今後もこの自己評価が低い少女のことを、積極的に褒めて伸ばしていく所存である。


「そ、それでは! しょしょしょ、少々、我慢してくださいませ!」

「ああ、頼む」

「ハオ!」


 よほど褒められることに慣れていないのか、こんな豚野郎の感想に、頬を真っ赤に染めてモジモジと身を擦り合わせていたパオヘイ。だがいざ治療に際すれば、前髪に大半が隠されている表情から浮つきが消えて、深い知性が浮かび上がる。


「まず〈揚羽蝶エメラルドパウダー〉を散布。患部を解析します」


 目隠れ少女の呟きとともに、背中の蝶翅から溢れ出るのは、燐光をまといし翡翠の鱗粉。新緑の息吹のごときそれらはまるで自我を持つかのように、統率された動きで豚野郎の身体に生えたキノコに殺到。患部を覆い尽くすと、仄かな明滅を繰り返す。


「……解析完了。続いて、〈紋白蝶ホワイトパウダー〉で治療します」


 一分と待たず、瞑目してピクピクと頭部から伸びる触髪を揺らしていた目隠れ少女は、患部の状態を把握。宣言通り、次いで蝶翅から溢れだしたのは、翡翠から純白へと色彩を変化させた、鮮やかなる鱗粉であった。それらが患部を覆い尽くすと、すぐに疼きが引いて、代わりにジワジワと内側から癒されるような温かさを覚える。


(相変わらず、見事な魔力制御だな)


 パオヘイの用いる鱗粉魔法は、感覚の拡張と魔力の変質という、極めて扱いの難しい複合魔法に分類される魔法体系だ。


 詳細は俺自身も理解しきれていないのだが、前世の知識で強引に埋め合わせるなら、彼女の魔力で生成された鱗粉は、術者と感覚の一部を共有リンクした超小型端末ナノマシンとでもいうべきか。


 散布された鱗粉は、彼女の目であり耳であり手であり舌。それらを駆使して術者は対象の状態を、本人以上に正確に把握したうえで、緻密かつ繊細な魔力干渉を行うのだ。


「ハッ、相変わらずキモいほど正確な魔力干渉だな。さすがうちの魔法馬鹿ヒューリーが『変態的な魔力制御だ』って興奮するだけのことはあるぜ」

「ハオ! お褒めにあずかり恐縮であります!」

「いや、それ褒めているのか……?」


 ともあれメイドイン豚産のキノコは、パオヘイの治癒魔法によって鎮静化した。見慣れた豚皮を取り戻した両腕。魔力を流してみても、問題はない。


「助かった、パオヘイ。これで戦える」


 俺が前線から離れているあいだも、戦闘は続いている。立ち上がる豚野郎の背中に、金等級冒険者から声がかかった。


「もう油断すんじゃねぇぞ、ボケカス。いいか、魔菌の感染には、一定状の汚染魔力を浴びることが前提だ。だから第一は、あの粉末には極力触れるな。どうしようもないときは〈戦鬼闘氣オーガオーラ〉を纏って魔素を弾け。それでも感染したときは無理をせずにすぐに下がること。他の連中にも徹底させろよ」

「ウス」

「ビビリ虫はとにかく後方で魔力を温存して、汚染されたボケカスどもの治療に専念だ。いいかビビリ虫、テメエがオレ様たちの命綱なんだから、無理して途中でヘバったりすんなよな」

「は、ハオ! 死ぬ気で頑張らせていただきます!」

「だから死んじゃダメだって。ほどほどに頑張ってくれ」


 若干やる気が空回りしている隷妹の頭を、ワシワシと撫でる。基本的に蟲人の触髪はデリケートな感覚器官なので、気軽に触れることは躊躇われるのだが、マリアンから「この子は大丈夫です。人見知りを解消するためにもどんどん触ってあげてください」と仰せつかっている彼女には、遠慮しない。


「あぅあぅ~」


 それでも敏感な感覚器官であることに変わりはないらしく、腰砕けになってその場に崩れ落ちる目隠れ少女。とはいえ今まで本人から拒絶の意を受けたことはないので、やはり聖母の導きは常に正しいのだ。彼女の言うことに間違いはない。ただ若干、なぜか残念そうなものを見る表情の赤鬼が気になるが。


「……ま、人様の事情に口を出す義理もねえわな」

「……?」

「いいから行くぞ、ボケカス。テメエの仲間パーティーは、テメエで守りやがれ」

「はい!」


 そう言って相棒である大槌を肩に担ぎ、怒号が飛び交う戦場に向かって駆け出す金等級冒険者。その背中に遅れまいと、俺もまた両足に力を込め、にわかに熱を帯び始めた森のなかを駆け抜けるのだった。


        ●


「ぬぅうううんッ!」

「オラオラかかってこい、腐れ魔羅どもがァ!」


 喧噪に塗れた森の中に、ひときわ裂帛の気合が込められた、サムライと猿鬼オーガンエイプの雄叫びが響き渡る。


「きィえェェいッ!」


 猿叫えんきょうと呼ばれる咆哮とともに、白髪の混りの初老武士が、愛刀〈白梟丸〉を一閃。加齢による衰えなど微塵も見受けられない鋭い斬閃を以て、猪型魔獣を両断。


「ホキョアァ!」


 その傍らでは伸縮自在の棒型魔道具〈如意棒〉を回転させる猿闘士が、振り向きざまに頭上から飛び降りてきた猿型魔獣の頭部を粉砕。空中で絶命した魔獣が地面に落下する……よりも早くに、ブクブク。皮膚に浮かび上がる、いくつもの腫瘍。


「チィ、ワビスケぇ!」

「承知!」


知恵捨団チェストマン〉と〈災遊鬼サイユウキ〉。それぞれがクランの長を務める金等級冒険者たちは、即座にその場を離脱。一拍遅れて猿型魔獣の骸を糧とした菌死魔法が、禍々しい緑粉の徒花を森に咲かせた。


「ったく、往生際が悪いねぇ! ネチネチしつこいオトコは、ベッドのなかだけで充分だっつーの!」

「その御意見には賛同しかねるが、敵が悪辣非道であることには同意。ゴクウ殿は、まだいけますかな?」

「応ともよ! この程度で萎れるほど、オレっちのキノコはやわじゃねぇぜ!」


 いかに緑粉爆発の直撃を避けているとはいえ、空気中に飛散したそれらを、全て回避することは不可能。時間の経過とともに悪化する魔力汚染を防いでいるのは、各々の肉体を覆う只人ヒューマ鬼人オーガンの強化魔法、〈仙氣被膜〉と〈戦鬼闘氣〉の副次効果である魔力抵抗によるものだ。


 そして魔法が魔力の消費によって実現している奇跡である以上、時間は有限。とはいえ戦闘が始まってから半刻ほど経っても、金等級冒険者たちの顔には焦燥など浮かんでなどいなかった。


「なんならあと半日だってイケるぜぇ!? オレっちのタフさ、試してみるかい?」

「それは心の底から御免被りますな。……それに時間稼ぎも、間に合った様子」

「ぷー! ゴクウさん、汚染されたみんなの治療、なんとかなりそうですよー!」

「ドワーフたちの回収モ、完了しましタ」


 戦闘の合間。軽口を叩き合う金等級冒険者たちのもとへ、作務衣姿の豚人プーマン――ハッカイと、僧兵姿の鱗鬼スケイルオーガン――ゴジョウが合流する。


 前線を団長たちに任せ、後方で菌死魔法に被毒した仲間たちの治療に当たっていた部下たちの報告に、ゴクウは野太い笑みを浮かべた。


「そりゃ重畳。お前さんたちも、身体に異変はないかい?」

「ぷー。この程度で根を上げるようじゃー、ゴクウさんの夜の相手はできませんよー」

「拙僧よりモ、サンゾウのほうガ、大変ダ」

「ですですー。サンゾウさん、『ワタシを過労死させる気ですか!』って、プンプンでしたよー?」

「ウホッ、そりゃおっかねぇ。だったらあとで、オレっち特製の元気のモトを、たぁーっぷり注入してやらねぇとなぁ」

「サンゾウというと、あのエルフの僧侶殿で御座いますかな。かの御仁には、苦労をかけまする」


 諸事情によって現在の〈知恵捨団〉には、治療係ヒーラーを担っていた巫女少女が欠けている。無論、残ったサムライたちとて治療の心得はあるものの、やはり菌死魔法のような禁忌魔法を相手どるとなると、専門家の支援サポートは欲しいところ。


 そのような状況の〈知恵捨団〉が、森の中で魔獣と交戦していた〈災遊鬼〉と合流したのが半刻ほど前。それから魔菌に感染した仲間たちの治療と引き換えに、ワビスケたちは彼らの前線に加わっていたのであった。


「いやいやー、ボクたちが治療に専念できたのも、あなたたちのおかげですからねー。おあいこってヤツですよー」

「まさしク。ヒノクニのサムライたちハ、いずれも噂に違わヌ、烈士ですナ」

「過分なお言葉、恐悦至極」

「いやでもよぉ、どんな事情であれ戦場でヒーラーを手放のすってぇのは、ちぃーっとマズいんでないかぃ? 状況が状況なんだから、今からでも返してもらいなよぉ」

「それはできませぬ。我が身可愛さに義に背くなど、武士の矜持に背くゆえ」


 それに、と初老武士は目を細める。


「ヒノクニのサムライたるもの、カタナを握ったときからすでに、戦場で果てる覚悟はできております。仮に我が身が毒されれば、腕なら腕を、足なら足を、斬り捨てて進むだけのこと。それでも足手まといだと判ずれば、どうぞこの老体、遠慮なく捨てて行ってくださいませ」

「……ぷー。どうしましょうゴクウさん、このオジサン、本気で言ってますよぉー」

「ウホホッ。相変わらずサムライってぇやつは、ぶっ飛んでんなぁ!」

「武士道とハ、修羅の道、カ……」


 サムライの過激な発言に、豚人は頬を引き攣らせ、猿鬼は豪快に笑い、鱗鬼は何かを悟ったのか瞳を閉じて合掌。三者三様の反応をみせる〈災遊鬼〉たちの会話に、ふと、第三者の声が紛れ込んだ


「……ご、ゴホッ。そ、それは、困ります、ね」


 喘息とともに漏れたそれは、陰気な男の声だった。


「……ッ、何奴!?」


 誰何すいかと同時に臨戦態勢に入った冒険者たちの前に、森の中から現れたのは、ゴホゴホと咳を溢す顔色の悪い男。頭部以外の全身をすっぽりと外套ローブで覆った黒鬼ブラックオーガンの背後には、頭部三角頭巾で隠した同じ外套姿の人影が、ゾロゾロと続く。


「その姿。確認するまえでもねぇ、魔人教だな?」

「お察しの通りです。僕たちは……ごっ、ごほっ、ゴホッ。魔人教の、懲罰使徒。いちおう僕は、そのなかでも〈不死身〉のノーラスなどという通り名をいただいておりますので、どうぞ、お見知りおきを」

「ぷー。名前付きネームドの使徒さんですかー。厄介ですねー」

「しかし〈不死身〉とハ、これマタ、大仰な名ヲ」

「油断なされるな皆様方。この者たちの気配、尋常ではありませぬ」


 言葉通り、油断なく〈白梟丸〉を構え、森から溢れた魔人教の使徒たちを睨みつける初老武士。その尋常ならざる様子に触発されるまでもなく、猿鬼もまた〈如意棒〉を手元で回転させ、豚人は九本の歯を持つ釘鈀ていは型魔道具を肩から外し、鱗鬼は数珠を片手に念仏を唱えて魔力を研ぎ澄ましている。


 そうした冒険者たちの姿を前にして、黒鬼は嗤った。


「……羨ましい、ですね」


 何らかの病気でも患っているのか、目の下が窪み、頬が痩せこけ、ゴホゴホと繰り返す咳には血が混じっている懲罰使徒。そうした幽鬼さながらの有様も相まって、冒険者たちに向けらえるギラギラとした視線は、まるで生者を呪う亡者のようだ。


「ああ……憎い。妬ましい。嘆かわしい。あなたたちの、その健康な肉体が。当然のように明日を望める、その傲慢さが。そんな幸福を実感することもできない、無知蒙昧さが。……すべて、どうしようもなく、不愉快です」

「はっ。だったら、どうしたっていうんだぃ?」

「だから僕が、導いてあげますよ」


 猿鬼の問いかけに、黒鬼は即答する。


 ただ、当たり前のように。

 それが世界の真理ルールであるかのごとく。


「消費してあげます。磨り潰してあげます。骨の髄まで利用し尽くしてあげます。そうして身命を魔人様に捧げることで、あなたがたの無価値な人生に、意味を与えてさしあげましょう」

「拒否すル、と言えバ?」

「大丈夫ですよ、無知蒙昧な愚民ども。い、いかに貴方がたが救いようのないゴミクズでも、僕たちは決して……ゴホゴホッ。見捨てたりは、しませんからね?」

「あー、ダメですねー。これ、完全にイっちゃってますー。アウトですー」


 やれやれと頭を振る豚人にも、黒鬼は動じない。その顔に浮かんだ微笑みは、赤子のように無垢であり、奈落のように救いがなかった。


「それは――懲罰すくいを、開始します」




・禁忌魔法がひとつ、菌死魔法の簡単な説明。

・新顔パオヘイの、能力お披露目。

・魔人教の先兵、〈不死身〉の登場。

・戦いが、ヒートアップしていきます。


 それではお読みいただき、ありがとうございました。

 次回の更新は八月五日の予定です。


 m(__)m


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