【幕間】 八輝聖
【前回のあらすじ】
ロリママ「また新キャラの追加ですか」
ロリ族長「まったく、節操がないのぅ……」
男装ロリ「まあまあ、そう固いことは言わずに」
羊毛ロリ「めぇぇ……あなたたち全員、BBA枠ですぅ……」
「それではそろそろ、勇者会議を始めるとしましょうか」
荘厳な雰囲気に包まれた聖拝堂。巨大ではあるが、細部に至るまで神や天使といった意匠が凝らされた、神聖教会の所有施設。日焼けした外壁は刻まれてきた年季を感じさせ、丁寧に磨かれた床は信徒たちの熱意を感じさせる。その最奥に設けられた、極秘裏に用いられる貴人専用の会議室にて、なんら特徴のない青年の声が放たれた。
大陸から海を隔てた真人たちが統べる国『ヒューマニア』においては、ごく一般的な容姿である金髪碧眼。背丈も中肉中背で、顔つきも極めて優れているわけでもなく、非常に劣っているわけでもない。どこまでも『平均』を突き詰めたような、平凡な青年。そんな人物がこの空間の議長席に座していることに、しかし異論を唱える者はいない。
「いやいや、アマタ様。まだ僕と貴方、ふたりしかいませんよ?」
というか、人数自体が少ない。
会議室に設けられた円卓は八人用なのに対して、埋まっているのはたったの二席。じつに四分の三が欠席している会議に果たして価値があるのかと、疑問を呈するのは幼い容姿の少年であった。
外見年齢は十を少し超えた程度。金髪と白肌はヒューマニア人としては一般的だが、その瞳は感情に色彩を変える、極彩色だった。特注であろう最上位の司祭服に身を包んだ少年は、不満を訴える紫色の瞳で議長席のアマタに視線を送る。
「立場上、持ち場を離れられない〈絶界〉や、行方不明の〈光翼〉や〈聖鎧〉様はともかくとして、他の勇者様や聖人はいったいどうしたというのですか?」
「残念ながら〈教授〉は、いつものように研究所にこもっていましてね。呼びかけに応じてはくれなかったのです。おそらく〈軍団〉の彼は、〈教授〉に捕まっているのでしょう」
「まったく、〈万姿〉のアマタ様の要請を断れるのは、同じ勇者様ぐらいのものですね。……ああ、そういえばアークマインの『聖宝具』も、ようやく完成の見込みが立ったんでしたっけ。道理でジロー様が、張り切っているわけですか」
「その通りです。相変わらずジュドくんの耳は早いですね」
「ま、僕って天才ですから?」
そのように嘯く極彩瞳の少年の背後には、彼の聖宝具である、大小五つの球体が浮遊していた。聖宝具とは、ヒューマニアにおける魔道具の最上位互換を指す。そしてそのような超希少魔道具を五つも所有する少年は、この国において片手の数しか確認されていない聖人――〈天災〉のジュドに相違なかった。
そもそもこの勇者会議に参加できるのは、ヒューマニアの国教を司る神聖教会から認められた、八人の勇者と聖人のみ。通称『八輝聖』と讃えられる彼らは四名の勇者――〈万姿〉〈魔眼〉〈教授〉〈聖鎧〉と、四名の聖人――〈天災〉〈絶界〉〈軍団〉〈光翼〉から構成されており、この場にいない消去法で残ったひとりはというと……
「んっ、ん~~~っ、ボク様遅れて登場ちゃん! って、あれ? 早かった?」
「いや、普通に遅刻ですよカナデ様?」
「というか貴方が最後です」
盛大に扉を開け放って現れた人物の発言に、聖人と勇者が同時に小言を入れる。
「そうかい? ま、昔から言うじゃないか、『勇者は遅れて現れる』って」
「……?」
「こらカナデくん。『あちらの世界』の格言を勝手に変換しないでください。ジュドくんが珍しく困惑しているじゃないですか」
「べ、べつに、それくらいはなんとなくわかりましたよ! なにせ僕は、天才ですから!」
慌てて取り繕うジュドに、アマタが微笑む。一方の遅刻者である燕尾服の中年男性――ゆるくウェーブのかかった黒髪を背中でひとまとめにした〈魔眼〉のカエデは、とくに悪びれる風もなく口笛を吹きながら、円卓に着席。そんなカナデにジュドが視線を送ると、壮年の伊達男は黒瞳はパチリとウィンクする。
黒髪黒目。
それはこの国では勇者の血統を示す、高貴な色だった。
教会が『あちら』と呼ぶ異界から訪れたという彼ら――勇者は例外なく凄まじい魔力と固有魔法を備えており、その子孫であり勇聖因子を覚醒させたものを、聖人と呼ぶ。この場においてはアマタやカナデは前者で、ジュドは後者であるため、同じ円卓につく者とはいえ立場上、不満を覚えたとしても後者が前者に物言いするわけにはいかない。円卓とはあくまで、形式でしかないのだから。
「それでカナデくん。遅刻の理由は?」
そのため問いかけたのは、同じ階級である勇者である。
「いやぁ~、それが、エンジェルちゃんたちが今日もボク様を離してくれなくてねぇ~。とくについ最近、ちょっとヤンチャな亜人の子ちゃんを見つけてね。調教……じゃなくて教育をするのに、少々熱が入ってしまったのさ」
「はぁ……貴方はまた、家畜小屋を漁っていたのですか。ほどほどにしてくださいよ」
アマタが疲れたように嘆息するのに、ジュドも内心で同意する。なにせ家畜小屋とは、ヒューマニアにおける奴隷階級……亜人たちを管理している施設のことを指しており、この国で生まれ育ったものならば、彼らとは会話をすることさえ嫌悪感を抱くのが普通だ。
だというのにこの奇特な勇者は、その権限で頻繁に家畜小屋に出入りして、お眼鏡に叶った『年端もいかない少年少女』を屋敷に招いては『教育』ののち、一定の年齢に達するまで傍に侍らせているのだという。わざわざ雑草を摘み取って花壇に並べるようなその行いは、ジュドにとっては理解しがたい感性だった。
「ん、それで、ボク様が最後ちゃんだったということは、もう会議は始まっているのかな? 議題は?」
「良い知らせと悪い知らせがあります。どちらから報告しましょうか?」
「ん、じゃあ良い知らせちゃんのほうから。ボク様、好物は先に食べるタイプだからね」
あとから現れて自分本位で会議を進めるカナデに、ジュドは口先を尖らせるが、アマタが受け入れているため物申すことはしない。ただしその瞳は、先ほどよりも濃い紫色に染まっていた。
「わかりました。では良い報告は、前回の『勇者召喚』で召喚した勇者たちが、順調に能力を伸ばしているという話です。聖騎士たちの報告によると、すでに男性の勇者……エンドくんは、固有魔法を発現しているとか」
「へえ、それは優秀ちゃんだね」
「でもたしか前回の勇者召喚は〈教授〉の実験的な試みで、史上初の『二名同時召喚』に成功したんですよね? では、もうひとりの勇者様は?」
「女性のほうは、男性に比べて少しばかり難儀しているらしいですね。しかし才能は凄まじいそうなので、あとは精神的な問題だというのが、教育係からの見解です。まあそれは、時間が解決してくれるでしょう」
ジュドの質問に答えるアマタは、そこで一度、言葉を切った。そしてとくに興味もなさそうに整えられた口髭を弄ぶ、カナデに視線を向ける。
「そして……悪い知らせは、その二名の勇者が、この八輝聖に新たに名を連ねることが決まりました」
「……なっ!?」
「……ええと、それはつまり、教会は行方不明者の捜索を断念したということですか?」
現状、八輝聖にはふたつの空席がある。
ひとつは五年前、ヒューマニアに侵入してきた謎の人物を捕らえるため、出陣したまま行方不明となった聖人――〈光翼〉のマリアン。そしてその三年後に、潜伏していた同上と予想される人物との交戦の結果、行方不明となった勇者――〈聖鎧〉のセイギだ。
「ふ、ふざけるな! あの正義馬鹿はともかく、マリアンの捜索は打ち切らせないぞ! 彼女は絶対に生きている! あの子は、この僕の花嫁だぞ!」
普段の余裕をかなぐり捨てて、唾を飛ばすカナデ。そういえば〈同時召喚〉と並行して行っていた〈懐胎召喚〉の実験において、〈魔眼〉と〈光翼〉はともに協力者であったことを、ジュドは思い出していた。だからこそ勇者の強い要請を受けていた教会は、辛抱強く捜索を続けていたはずなのだが……
「さすがにもう、時間切れですよカナデくん。教会の唱える『聖戦』までもう時間はない。後任も順調に育っている。ならば失われた人材よりも、私たちは新たな可能性の育成に力を注ぐべきだ」
「それは教会の勝手な都合だろうが! 断固として僕は認めないぞ!」
教会側からすればそうしたカナデの言い分こそが公私混同であり、それでも勇者という存在を崇める教会の立場上、これまで捜索を続けてきたのだが、そうした誠意は〈魔眼〉には伝わっていない様子だ。
「クソッ、こうなったら『教皇』に直訴してやる!」
この世界に召喚されてからというもの全てを思うがままに手にしてきた勇者は、手から零れ落ちた玩具が諦めきれない。語気を荒げながら円卓を立つと、そのまま会議室から出て行ってしまう。
「……はぁ。どうやら今回の会議は、ここまでのようですね」
「……まったく、一番最後に現れて最初に退出とか、とことん勇者様は常識に捉われない存在ですね」
零された聖人の皮肉に、
残された勇者は苦笑を浮かべた。
◆
そのような勇者会議が行われてた聖拝堂から、
場所を移した教会関連施設にて。
「さすがですわ、エンド様」「教会の聖騎士たちも、兄様の成長ぶりには感服しております」「ご主人様なら当然です」「エンド様、すごいですぅ~っ!」
「はは、大したことないよ。僕はいつだって、僕にできることをしているまでさ」
この国の王族、教会のシスター、胸元を露出したメイド服の侍女、首輪をつけた亜人の幼女奴隷といった、いずれも年若く見眼麗しい美少女たちに囲まれる、少年の姿があった。
そうした彼女たちに比べて、少年の顔つきは整ってはいるものの平坦であり、率直に評価として見劣りすることは否めない。しかし彼の有する黒髪黒目と、勇者という称号から、十代中ごろの少年――エンドの待遇に疑問を持つ者はいない。
このヒューマニアにおいて勇者とは崇められ敬われるもの。教会や王族といった各勢力が進んで身内を差し出し、厚遇して取り入ろうというのは、ごく当たり前の発想だ。
「エンド様がいれば、ヒューマニアは安泰ですわ」「教会も、エンド様のご威光には期待しております」「私もメイドとして、ご主人様に仕えられる幸福を日々噛みしめております」「あ、わたちもわたちも! エンド様に拾われて、すっごく幸せですぅ~っ!」
「もう、みんな大げさだな~。でもありがとう、すっごく嬉しいよ。まだ国がどうとか言われてもピンとこないけど、キミたちのことは、僕が絶対に守るから!」
おそらく『あちらの世界』では目にすることすら叶わなかった美少女たちに言い寄られて、謙遜しつつも、エンドの顔は緩みきっていた。本人は隠しているつもりであろう視線は常に、少女たちの大きかったり巨大だったり慎ましかったり貴貧であったりする胸部に向けられている。
(……すっかり飼い慣らされていますね)
そんな同郷である少年のマヌケ面を、冷ややかに見つめる少女がいた。場所は彼らのいる中庭を見下ろすことができる、二階の渡り廊下。その窓際である。
(こうしてこの国に召喚された勇者たちは、少しずつ毒されていくのでしょうね)
ともすれば私も気付かないうちに……などと自戒する少女の胸中を、その顔色から伺うことは難しい。なにせ少女の表情はその半分以上を、優美な装飾の施された仮面によって隠されているのだから。廊下を撫でる微風が、サラリと少女の黒髪を揺らした。
「ハルカ様、こちらにお出ででしたか」「大事な御身ですので、せめてひとりくらい、出歩く際には声をかけてください」「主のためなら私、命を賭すことに一片の躊躇いもありません」「ぼ、ぼくも、ハルカしゃまをお守りしましゅ!」
じきにそうした仮面の少女――ハルカに声をかけてきたのは、わざわざ彼女を追いかけてきたのだろう、貴人服、全身鎧、従者服、奴隷衣装とそれぞれ異なる衣服をまとい、年齢も年上から年下までバラバラな、しかし誰もが目移りするような美男子美少年たちであった。
(こちらは王族に、騎士に、執事に、奴隷ですか。……まるで異世界転生の、テンプレセットですね)
前世ではそういった創作物にも触れたことがあったため、ハルカは常に自分に付き従おうとする男性陣には、表情にこそ出さないものの辟易とした感情を抱いていた。むしろここまで予定調和な面子を集められてしまうと馬鹿にされているのか、などと勘ぐってしまいそうになるが、事実同じような知識を持ち合わせていてもエンドなどは簡単に篭絡されているため、この方法は極めて効果的であると認知されているのだろう。
事実、こうした異性を用いた人心掌握は、かつての転生者たちに対して絶大な効果を示していることは歴史が証明している。よってハルカがそれを意に介すことがないのは、自前の予備知識というよりも、彼女自身の性格によるところが大きい。
(まあ私にとっておにいちゃん以外のオトコなんで、ぜんぶまとめてゴミですけどね)
ハルカはブラコンであった。それも意中の相手以外はまったく目に入らない、超ド級の重篤者である。しかしそんな性癖ゆえに、この稀有な勇者はいまだに教会の毒に侵されていないのだから、毒も薬の一種、ということなのだろうか。
(あぁ……おにいちゃん。おにいちゃんはいったい、どこにいるのですか……?)
前回の〈勇者召喚〉において、この世界に人造生命体として転生したのは自分とエンドのふたりだけだと、儀式を執り行った教会からは聞かされている。
しかしハルカはこの世界においても、自分の兄の存在を信じて疑わない。
何故なら前世で命を落とした際に、兄も自分と同じ場所にいた。そして前世ではいつだって兄は、自分を守ってくれていた。兄だけが自分を守ってくれた。兄が世界の全てだった。そんな兄が『死別した程度』で自分から離れていくわけがない。兄はきっとこの世界のどこかで、今世でも自分を想い守ってくれているのだというのは、ハルカのなかでは確信を超えた常識に等しい。
信頼というより狂信。
信仰というより妄信。
そんな常人が触れてしまえば焼け爛れてしまうこと必死な激情を、少女は胸の内に秘めていた。そんな妹の内心を前世ではついぞ気付くことができなかったのは、彼女の兄にとって幸福だったのか不幸だったのか、それは本人たちにもわからない。
(……いいえ、それではダメですね。『あちら』のときと違って、いまの私には『力』があります。であればおにいちゃんから迎えにきてくれるのをただ待つのではなく、むしろこちらから探して、見つけ出さないと)
ハルカにとっての理想とは、兄とふたりだけの世界だ。
ほかのものは不純物。
兄以外はいらない。
(もう二度と、誰にも傷つけられないように、奪われないように、引き離されないように、守って、囲って、閉じ込めて、今度こそ着実に真実の愛を育まないと)
そのためならば全てを利用する。
ハルカは内心の不快感を押し殺して、
仮面に覆われていない口もとに笑みを浮かべた。
「……すいません、少々、ひとりで風に当たりたかったもので」
柔らかい少女の声音に、男性陣が一斉に反応する。
「そうですか。たしかに勇者様は多忙であらせられますものね。では近々、王家が所有する避暑地にでも羽を伸ばしてみますか?」「でしたら我ら聖騎士も、喜んで護衛させていただきます」「ああ、ではご主人様の水着なども用意せねばなりませんね」「は、ハルカしゃまとのりょこう、たのしみでしゅ!」
「皆さんのご厚意に、感謝いたします」
本音を閉ざし、心にもない謝辞を口にして。
今日も少女は異世界でひとり、自分だけの孤独な戦いに身を投じるのであった。
・久方ぶりとなるヒューマ勢力、勇者たちによる一幕でした。
・二つ名や名詞が多かったためわかり辛かったと思いますが、以前の八輝聖は以下のようになっていました。
勇者……第一席〈万姿〉アマタ、次席〈教授〉ジロー、三席〈魔眼〉カナデ、四席〈聖鎧〉セイギ
聖人……第五席〈天災〉ジュド、六席〈絶界〉シュリ、七席〈光翼〉マリアン、末席〈軍団〉アークマイン
・基本的に聖人よりも勇者としては扱いが上なので、席順にもそれが反映されていますね。
・また勇者である〈万姿〉アマタは、その固有魔法によって常に本当の姿を隠しているという裏設定。
・そして新たな召喚勇者、テンプレ少年とブラコン少女。とくにブラコン少女の兄は、いったいどこにいるのだー?(棒読み)
それではお読みいただき、ありがとうございました。
m(__)m




