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ブギーテイル ~異世界豚鬼英雄譚~  作者: 陽海
第三章 奮鬼冒険編
64/83

【第14話】  結果発表

・今回の更新は二話連続なので、読み飛ばしにご注意ください。


 【前回のあらすじ】


 新商品・豚型氷砕器。




 黒壁都市において冒険者ギルド〈帝国の鬼火オーガンホープ〉の登録試験が執り行われた日の翌日。これを受験するために大森林からやってきた俺たち一行は、結果を確認するためギルドへと赴いていた。


「……うぅ。だ、大丈夫かな? ちゃんと、う、受かってるかな?」

「もぉー、タウロは心配し過ぎでありますよ。しっかりするであります」

「そうですピョン。男がウジウジ悩むなですピョン」


 道中では、昨日の試験後からしきりに弱音を吐きっぱなしの弟分を、隷妹たちが左右から罵っている。遠慮のない欠いた物言いだが、なんだかんだでしっかりと相手をしているあたり、彼女たちなりの優しさなのであろう。


 それよりも……


「……オビィ?」

「なんだ、婿殿?」


 呼びかけに応じる女蛮鬼アマゾネスは、褐色肌の凹凸に富んだ肉体をべったりと豚の右半身へと密着させていた。右腕に隙間なく全身を絡めて、まるで周囲に誇示するかのように、互いの距離を潰している。


「……チッ」「見せつけやがって」「エロ豚が」「やーねー、若いって」「微笑ましいわー」


 おかげで歩き辛いことこの上ない。

 物理的にも精神的にも。


(オビィはこの街の人たちの視線が、気にならないのか?)


 ここまではオビィの気まぐれかと思って我慢してきたが、そろそろ羞恥心が限界だ。それに間もなく、ギルドにも到着する。声をかけるには頃合いだろう。


「オビィ、そろそろ、離れてください」

「やだ」


 即答である。

 一瞬の迷いも見受けられない。

 困り顔を浮かべると、オビィはつんと唇を尖らせる。


「……オレが、甘かったのだ。なにせ婿殿は、アマゾネスの種婿に選ばれるほどの優れた雄。当然、女どもは群がってくる。それを牽制するのはオレの役目だ」

「それは、その、ネルトさんの、ことですか?」

「呼びましたか、ヒビキくん?」


 いつの間にか、俺の隣には件の黒鬼ダークオーガンが佇んでいた。


 たしかにここはすでにギルドの内部だが、まだ入り口の扉を潜ったばかり。対応が早すぎる。まさかここでずっと待ち伏せスタンバイしていたとでもいうのだろうか。


「やだなー、ヒビキくん。そんな、可愛い顔しないでくださいよー。なにせ今日は、試験の結果発表日ですからね。不慣れな受験生を掲示板に案内するために、手の空いている受付嬢はこうして入り口に回っているんですよ」

「なるほど。ならばもう要は済んだな。消えろ」

「いえいえ、これからがお仕事です」


 大森林の魔獣でもションベン漏らして逃げ出す女狩人の敵意を、受付嬢は笑顔で受け流す。その際にスルリと、彼女は滑らかな動きで俺の左腕をとり、半身に密着してきた。


「お、おい! 貴様っ!」

「はいはい、ヒビキくん、こっちですよー。オネーサンについてきてくださいねー」


 有無を言わさず掲示板へと連行するネルトに、オビィは般若の形相。隷妹たち怒りのあまり、手近な人型サンドバックをバシバシと叩いたり蹴ったりしている。ごめんよタウロくん。


「えっと、ヒビキくんの番号は確か……あ、あったあった。ほら、やっぱり合格じゃないですか流石ですねスゴイですねオネーサンは鼻高々ですよ。えっへん」


 掲示板に記されている俺の受験番号を確認するなり、自称オネーサンは本当に嬉しそうに笑う。俺もまた、連なる受験番号を確認して内心で安堵していた。


(良かった。みんな合格している)


 これでようやく、ひとつ肩の荷が下りた気分だ。


「ではでは、ヒビキくん。登録確認のため、受付に受験札を持参して来てくださいね」


 問題は、肩の荷がひとつではないということだ。


「オネーサンの席はあそこなので……そこ以外に、並んじゃダメですよ?」


 圧のある笑顔を浮かべるネルトに、臆病チキン豚野郎ポークはコクコクと頷くしかない。


「よかった! 約束ですよ! では、お待ちしておりますので!」

「え、あ、はい……」

「それと……オビィさんも、お待ちしておりますので。いろいろと、『確認』や『説明』をしておかなければならないこともございますし」

「ああ、望むところだ」

「では後ほど」


 俺のときより一オクターブほど低い声音で会話して、ネルトは本来の自分の持ち場である受付席へと向かう。鬼嫁はその背中を無表情で見つめていた。超怖い。誰かタスケテ。


「おーおー、朝っぱら盛ってるなーボケカスども」

「アハハ、ヒビキくんは相変わらずモテモテだよねー」

「ハオ。火遊びハ、男の甲斐性ネ」


 内心ガクブルな豚野郎のもとへ、ニタニタと笑いながら近寄ってきたのは登録試験でも世話になった三色三鬼の鬼人オーガンたちだ。


「いよぅボケカス、その様子だと、もう体の調子は大丈夫みたいだなぁ」

「……おかげさまで」

「かははっ、相変わらず頑丈な野郎だぜ」

「……」


 まだ午前中だというのに、酒精を帯びた吐息を漏らして上機嫌に笑う赤鬼ブルオーガン。対する豚の反応は鈍い。当然だ。何せ昨日の試験はラスト、この大槌士によって盛大に『吹き飛ばされた』のだから。


(……ったく、俺たちに内緒でひそかに補佐クエストを受けていたのはともかく、あそこまで手酷く暴れる必要はないよな)


 たしかに先日、少しばかり頭に血が上っていた豚は、いちおうは試験官でもあった精霊士との『追試』において、やや暴走気味であったことは否めない。とくに最後に放とうとした一撃などは、決まってしまえばお互いに、無事では済まない威力を秘めていたことは認めよう。


(でも、だからって、割り込むのに爆裂魔法を使うのは完全にやり過ぎだろ)


 吠える破拳士と迎え撃つ精霊士。両者の渾身の一撃が交わる寸前で、足元が突如として爆発した。予想外のタイミングからの奇襲。完全なる不意打ち。見事に前後不覚に陥ったマヌケ野郎の死角では、魔法槌を地面に振り下ろした赤鬼が、きっと今みたいに底意地の悪い笑みを浮かべていたのだろうと想像するだけで胃がムカムカする。


「マアマア、そう怖い顔、しないでほしいネ」

「アハハ、そうだよ~。ボクたちだってべつに、やりたくてやったんじゃなかったんだからさぁ~」


 渋面を浮かべるブサ豚をフォローしてくる緑鬼トロル青鬼チルオーガンだが、俺は騙されないぞ。昨日、混乱する破拳士と精霊士にそれぞれ追撃をしかけてきた拳闘士と魔法士は、ノリノリだった。確実にこちらを仕留めに来ていた。思い返すだけで、散々〈波撃インパクト〉を叩き込まれた身体がズキリと痛む。


(これで栄えある大手冒険者ギルドの花形ゴールド等級だっていうんだから、まったく、異世界は素晴らしいぜ)


 前世なら確実にブタ箱コースだぞ不良中年ども。


「お? お? お? なんだボケカス、その反抗的な目は。まだ稽古をつけて欲しいのかあぁ~ん?」

「アハハ、ほんと、リーダーはヒビキくんが大好きだよね~」

「ハオ、その通りネ。勝手に補佐クエストは受けるシ、そのあと朝まで飲んだくれるシ、付き合わされるこちらの身にもなってほしいネ」

「はぁ!? べ、べつに、こんなボケカスの成長なんて嬉しくもなんともねぇっつーの! だいたい補佐クエストだってなぁ、とっつあんから指示で仕方なく……」


 ……まあ、いつも悪ノリが過ぎるものの、この人たちに悪気がないことだけは、信じてもいいのだろう。昨日だって午前中は別のクエストを受けたあとに、わざわざ遅れて合流してきたという話だし。


「……っ! そこにいましたか、発情豚!」


 突然の罵倒は、すでに聴き慣れた声だった。


 声のした方向を見れば、魔法外套ローブをなびかせ、こちらに向かってズカズカと歩み寄ってくる賢鬼ホブオーガンの姿がある。今日も無駄にイケメン面が豚鼻につくクソ眼鏡の視線は、まっすぐ俺に固定されていた。


「先日は不覚をとって勝負が有耶無耶となりましたが、まだ僕はキミを認めてなど――」

「不覚ぅ?」

「ウヤムヤぁ~?」

「アハハ、ただの実力差でしょ~?」

「うぇ!? さ、三馬鹿!?」


 豚に向けた罵声に反応したのは、妙に陽気な笑顔を貼り付けた不良中年たち。そこでようやく賢鬼も俺以外の存在に気づいたらしく、ビクッと身体を震わせた。わかる。どうやらクソ眼鏡のほうも、昨日の一件はかるくトラウマ化しているらしい。


「おいおいモリィ、なんだその態度はぁ~? イジメちゃうぞ~?」

「ハオ。先輩に対する礼儀がなってないネ」

「アハハ。遊び足りないなら、いくらでも遊んであげちゃうよぉ~?」


 新たな獲物を見つけ、喜々として絡んでいく三匹の悪鬼。ネチネチとした典型的な後輩イビリに、クソ眼鏡は顔を青ざめていた。ははっ、いい気味だぜ。そんなふうにほくそ笑む豚面が、イケメンの勘に触ったようだ。


「クッ……卑怯ですよ、キミ! 実力で叶わないからといって、他人の威を借るだなんて、鬼として恥ずかしいと思わないのですか!?」

「それは、心外、です」

「はっ、どうですかねぇ!? だいたい、昨日の件だって――」

「婿殿への言いがかりはそこまでにしてもらおうか」

「――っ!?」


 モリィの言葉を遮るように、それまで沈黙を保っていたオビィが前に出てくる。突然の闖入者に目を見開いたクソ眼鏡は、女蛮鬼の瑞々しく起伏に富んだ肢体と、凛々しく美しい容姿を確認して、すぐにやわらかい笑みを浮かべた。


「……それは誤解ですよ、美しいお嬢さん」

「……なんだと?」

「彼は僕の、友人です。今のはちょっとした、言葉のあやというものですよ」


 なんだろう。

 豚耳が腐ったのかな。


「それよりも、ヒビキくん」


 態度を豹変させたクソ眼鏡が、じつにフレンドリーに肩を組んでくる。


「……いちおう確認しておきますが、彼女は大森林のアマゾネスで、キミはその、いわゆる一族の『種婿』というヤツですか」

「それが、何か?」

「キミのその権限で僕をアマゾネスの集落へ招待してくださいお願いします」


 賢鬼の瞳はじつに真剣で真摯なものだった。

 今すぐクソ眼鏡ごと潰してやりたい。


「……貴方、ネルトさん、アプローチ、していたのでは?」

「僕は、花の価値を知っています」

「……?」

「たしかに彼女は、僕が愛情を捧げるに足る美しい花だ。しかしこの世界には常に無数の花が咲いており、そしてそれらの開花は、決して永遠などではない。ならばその一瞬の輝きに惜しみのない愛を捧げることが、美の信奉者としての正しい有り方、むしろ果たすべき責務、神々が僕たちに与えた崇高なる使命と、言えるのではないでしょうか」


 口を挟む間もなく流暢にそのような持論を語り終えた賢鬼の表情は、例えるなら苦悩を乗り越えた哲学者のそれだ。彼方を見つめる瞳は憂いを帯びており、吐き出される想いは熱く、右手は救いを求めるように宙に掲げられている。


「僕の想い……理解して、いただけましたか?」

「は、はぁ……」


 あくまで真面目にそんな戯言を垂れ流す軟派眼鏡に、俺はもう、呆れを通り越して関心してしまっていた。


「……っ」

「うえぇ、でありますよぉ……」

「キモいですピョン。マジむりですピョン」

「うんうん、いきなりお互いを理解することは難しいですよね。ですのでまずはお友だちから始めましょうか、可愛らしいお嬢さんたち」


 鳥肌を立てたオビィや隷妹たちが嫌悪や侮蔑の視線を向けても、モリィは微塵も動揺しない。むしろ美少女たちに注目されて嬉しそうだ。無敵かコイツ。


「その前にモリィくんには、是非とも処理していただきたいクエストが溜まっているんのですがねぇ?」


 じつにイキイキとした顔をしていたエロ眼鏡に、背後から肩ポンをしたのは、このギルドの職員である禿頭の緑鬼だった。昨日は俺たちの試験を取り仕切っていた中年の管理職は、今日もニコニコと人付きの良い笑みを浮かべている。


「……なんだ、ローグさんですが。ですが僕はこれから、彼女たちと交友を深めるという大事な役目があるので、残念ですがクエストは次の機会に――」

「おっと、それは困りますねぇ」


 難色を示すクソ眼鏡に、ローグは何やら耳打ち。

 するとモリィの顔色が急変した。


「なっ……それは……っ!」

「どうやら、ご理解していただけたようですね。ではさっそくクエストの受注処理を行いますので、こちらへどうぞ」


 半ば緑鬼に引きずられるように、すっかりと意気消沈してしまった賢鬼がその場から立ち去っていく。入れ代わりに戻ってきた赤鬼たちは、それぞれ苦笑を浮かべていた。


「あーあー、すっかりモリィくん、ローグさんの術中だねぇ~」

「ハオ。ああなったらもう詰みネ。せいぜいこき使われるといいヨ」

「おうボケカス、お前も気をつけろよ。とっつあんはああ見えて、腹の中は真っ黒だからな。弱みでも握られた日には、もうこのギルドから逃れらんねーぞぉ」


 なるほど。伊達に大手ギルドの役職に就いてはいないということか。パッと見は気の弱そうな中年男性だが、外見に騙されてはいけない。彼から目を付けられるようなマネは慎むべきだろう。すでに手遅れかもしないが。


「……まったく、婿殿は少し目を離しただけで、次々と厄介な縁を紡いでいくな」

「それは、誤解、ですよ」

「めぇめぇ、ブタさん今日は団体さんですねぇ。あ、もしかして、モーレツ可愛いメイリーちゃんのファン希望者さんたちですかぁ?」


 ジト目のオビィに弁解した次の瞬間には、クイクイと今日もおめかしした羊毛人スリーパーのロリっ子が袖を引いてきた。


「……この人たち、俺の、仲間です。貴方の、クラン、希望者、ではない、です」

「めぇぇ~、そうですかぁ~。みなさん、モーレツに見る目ないですねぇ~」


 興味を無くした少女は、トテトテと不機嫌そうにその場を去っていく。


「……婿殿?」

「……いえ、あれは、たまたまですよ?」

「……目標を発見」


 妻からの冷ややかな視線に耐える豚に、

 神はさらなる試練を与える。


「報告。先日ノ協力ニ感謝」

「あ、はい。ご丁寧に、どうも」

「提案。今後モ関係ノ継続ヲ希望」

「え、ええ。こちらも、どうぞよろしくおねがいします」

「承認。友好関係ノ構築ヲ確定」


 相変わらず独特な空気をまとう黒衣の怪人は、包帯に覆われた右手で握手をしたあと、他のみんなにも小さく会釈をしてその場を去っていた。わざわざ挨拶をしに来てくれたことといい、意外と常識的な人物である。


「……」(じー)


 残念ながらその程度では、

 もはや妻からの疑いの視線は晴れやしないが。


「……婿殿。少し話がある」

「……はい」


 良識溢れる女蛮鬼の小言というか説教は、

 半刻ほども続いた。


        ◆


 そしてこの日、晴れて冒険者となった俺たちは、その場で冒険者クラン〈豚鬼の尻尾ブギーテイル〉を設立。マリーたちが待つ大森林に向けて、ようやく帰途につくことができたのであった。



・はい、というわけでようやく豚の就活が終わりました。

・なんだかんだで内容を盛り過ぎて、当初の予定の三倍近いボリュームになってしまいましたが、少しでも読者様に楽しんでいただけたのなら幸いです。

・それではまた亀更新になると思いますが、次回も気長にお待ちしていただけると嬉しいです。


 今回もお読みいただき、ありがとうございました。


 m(__)m


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