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ブギーテイル ~異世界豚鬼英雄譚~  作者: 陽海
第三章 奮鬼冒険編
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【第12話】  実技試験 ③

【前回のあらすじ】


 エロスライム「頑張って上だけは剥きました」



「……はふぅ。ま、満足ですぅ」


 彼女の切り札であるらしい〈歌姫絶唱花オーバーカノン〉を放ち切ったあと、魔力を使い果たしたメイリーは、恍惚とした笑みを浮かべたまま身体を傾斜させていく。


「っ!? め、メイリーさん!」

「……問題ナイ。軽度ノ魔力欠乏症状」


 慌てて駆け寄ろうとする俺に、彼女を空中で抱き支えたマカが、首を横に振った。次いでその手にする白骨の大鎌が、カチャリと音を立てて崩れ落ちる。


「ソレヨリモ……〈騒骸ノ宴・蛇縛姫/――――・―――〉」


 カチカチと、骨が鳴る。


 魔力操作によって新たな形へと組み替えられたマカの魔道具が、主人の腕の一振りによって、飢えた大蛇の如く宙へと解き放たれた。白骨を結ぶ細糸によって伸長するそれは、例えるなら鎖鎌。蛇牙にも似た先端の尖骨が狙うのはアホ面の豚――の背後から忍び寄っていた、苔緑の粘体である。


 ビュゥウウウンッ!


 如何なる操作技術によるものか、鋭い風切り音とともに、白骨の大蛇は幾条にも伸びていた粘体突起をまたたく間に喰い散らかす。さらに貪欲なる牙骨が喰らいついたのは、地表に密集する粘体に隠れるようにして埋まっていた、翡翠色の結晶体である。


『――――――――ッ!』


 直系十センチほどの結晶体を尖骨が貫いた瞬間、体積の八割以上をメイリーの音撃魔法に吹き飛ばされたジャイアントスライムの、地上に残っていた残りの粘体が、ブルブルと一斉に激しく蠕動して声にならない悲鳴を上げた。


(……あ、あれが、ジャイアントスライムの魔晶核コアだったのか)


 魔獣たちのなかには、体内に魔晶核と呼ばれる結晶体を持つものが存在する。彼らの母体である魔生樹にも存在するそれは、大雑把に言えば魔力の制御装置であり、魔獣の生命活動を支える重要器官。そして魔獣のなかには、この魔晶核を破壊しない限り生命活動を維持する厄介な種族が存在しており、スライム種などはまさにその代表格。つまり――


「忠告。油断大敵」

「……はい」


 マカの痛すぎる指摘に、

 油断に過ぎる豚は返す言葉もなかった。


「それまでです!」


 それを魔獣討伐の区切りと判断したのか、訓練場に審査員であるギルド職員の声が響き渡る。すぐに鑑定士である職員が討伐した魔獣に近寄り、状態を確認した。


「……はい、ジャイアントスライムの魔晶核は完全に破壊されていますね。この状態では素材としての回収は不可能ですが、それはスライム種における完全な討伐を意味しています。ときとしてこれを見逃すことで余計な被害を招いてしまう冒険者がいることを加味すれば、欲目を張らずに討伐クエストを優先した的確な判断ともいえるでしょう」


 つまり『魔晶核の破壊による減点は無し』というのが、ギルド職員の見解であるようだ。そして言葉の一部はあきらかにマヌケ過ぎる受験生に向けられていたため、あわや『余計な被害』を招こうとしていた豚野郎は、恐縮して豚尾を丸めることしきりである。どうしよう。こんな失態、マリーに怒られてしまう。


「「「 う、うぉおおおおおお!!!! 」」」


 頭を抱えていると、歓声が爆発。


 気付けば俺たちは、安全地帯から飛び出してきた受験生たちに囲まれていた。


「スゲえスゲえ、アンタらスゲえよ!」「感動しました!」「まさかあんな大きな魔獣を、倒してしまうなんて!」「おいチビ、たしかメイリーとか言ったな!」「こんなちっこいのにスゲえ魔力じゃねぇか!」「惚れるぜ!」「……めぇぇ。うるさいですよぉ」


「アンタも凄い魔力操作技術だな」「その骨を使った魔道具は、いったいどこで手に入れたの?」「なんか言霊も、聴き慣れない言語だったようだけど……」「……回答ヲ拒絶」


「ひ、ヒビキくん、だっけ?」「キミ、すごい筋肉だね!」「ちょっと触らせてよ!」「あ、わたしも!」「うわっ! なにこの筋肉すごい!」「濡れる……」「あ、あの、待って、ください……っ!?」


 興奮しきった様子の受験生たちに、半分微睡んでいるメイリーはもみくちゃにされ、マカは質問に答える気がないのか無言を貫いている。俺はなんだか妙に積極的な女子たちへの対応に、どうしたものかと狼狽えていた。とにかく身体をベタベタと触るのは止めていただきたい。あとで嫁に叱られる。


「はいはい、皆さんご静粛に!」「お気持ちはわかりますが、ひとまずギルド本部に戻りましょう!」「別組の受験生たちが待っていますよ~」


 そんな受験生たちに苦笑しながら、ギルド職員が手を叩いて誘導を始めた。それによって、彼らも落ち着きを取り戻し始めたようだ。ぞろぞろと、移動を開始する。


「……まったく、皆さん浮かれ過ぎですね。ギルド本部に戻るまでが試験であることを、忘れていただいては困ります」

「ネルトさん、いつの間に……」


 気付けば、俺の右腕は黒鬼ダークオーガンの受付嬢にガッチリとホールドされていた。去り行く受験生たちを見つめてブツブツと小言を漏らしつつも、彼女の腕は絶え間なく身体をまさぐっている。少し息も荒い。ちょっと怖いです。


「ね、ネルトさん?」

「触診です」

「あの」

「触診ですから」

「……」


 有無を言わせぬ彼女の迫力に、無力な豚は抵抗を諦めた。仕方がない。最悪、ギルド本部に戻るまでになんとか引き剥がせれば――


「ちょっと待ってください!」


 などと考えていた背中に、声がかけられた。

 振り返れば、そこに片眼鏡モノクルを煌かせる冒険者の姿がある。


「えっと、貴方は――」

「モリィです。モリィ・イシュタル。此度の試験において補佐クエストを受けている、〈帝国の鬼火オーガンホープ〉所属の冒険者ですよ」


 キザったらしく前髪を払い、そのように答える賢鬼ホブオーガンの首元には、たしかにシルバー等級を示す階級章。だがそのように名乗りを上げなくても、俺はすでに彼のことを知っていた。何故なら彼こそが、こうして右腕に黒鬼の受付嬢をはべらせる原因となった、悪質なる要注意人物ストーカーだからである。


(とはいえいちおうは、今後の先輩に成り得るかもしれない人だからな。あまり失礼な態度はとらないほうが無難だろう)


 すでに手遅れである感は否めないが、姿勢を正す。


「……ふん。見境なく女性に手を出す性欲鬼のくせに、いちおう人の話を聞く程度の知性はあるようですね」


 額に手を当てて、ピクピクと頬を痙攣させるモリィ。物申したい気持ちはあるが、彼の視線が俺の右腕に注がれている現状、非常に言い返し辛い。


「ま、まあ、いいでしょう。それよりもキミ、喜びなさい。なんとこの僕が、直々に手合わせをしてあげます!」

「……はい?」


 どうしよう。ちょっと意味がわからないな。


「ふん」


 理解が追い付かない豚に、モリィは不快そうに鼻を鳴らす。


「いいですか、キミ。キミはこのような有様で、無事に試験に合格できるとでも? 少しはその色欲塗れの脳みそを回転させて考えてみなさい」

「……?」


 指摘されて、俺は今日の試験内容を思い返してみる。


【午前の筆記試験】


 → 集中力不足。出来栄えが心配。


【午後の実技試験】


 → 幼女メイリーの肩車したのちに、上半身を露出。

  あと最後にヘマをやらかして仲間の見せ場を作った。


(……あれ!? もしかして俺、けっこうヤバくね!?)


 難敵を倒してやりきった気分に浸っていたが、こうして冷静に考えてみると、合格できる気がまるでしない。減点要素が多すぎる。ジャイアントスライムの討伐がどれほどの加点なのか不明だが、最後に言い逃れのできない失態を犯してしてしまった以上、安全だとタカを括ることは危険だ。


「はっ。ようやく気付いたようですね」


 冷や汗を浮かべる俺を、モリィが嘲笑う。


「だからこそ心優しいこの僕が、キミに最後のチャンスを与えてあげようというのです。さぁ、わかったらさっさと舞台に戻りなさい!」

「ちょ、ちょっとモリィくん! 勝手な真似は、控えてください――」


 魔法杖を俺に向けて不敵な笑みを浮かべていたモリィに、禿頭の緑鬼トロルが慌てて駆け寄ってきた。話の腰を折られた俺は、いまだに腕に抱き着いたままの肉食系オーガン女子に視線を向ける。


「……ネルトさん。今の話、本当、ですか?」

「そんなわけないじゃないですか! ヒビキくんの合格は、間違いありませんよ!」


 力強く断言するネルトであるが、言い切りの良さには、逆に不安になってしまう。あと俺の呼び方がいつの間にか『さん』から『くん』に変わっていることにも不安を覚える。


「……本当、ですか?」

「……ま、まあたしかに、試験に不備があったと判断される場合には、現場に居合わせた関係者たちで臨時の試験項目を追加されることもあります。ですがそれを決定するのはあくまでギルド職員にあって、雇われの冒険者ではありませんので、あんな妄言は無視して問題ありませんよ。どうせヒビキくんに難癖をつけて、自分のウサを晴らしたいだけなんですから」


 黙って見つめてみると、視線を泳がせ気味のネルトがペラペラと語り出す。とはいえその内容にはたしかに納得のいく部分があるので、とりあえずこの場は彼の挑発を無視しても問題なさそうだ。


「――あのですね、モリィくん。貴方の主張はよく理解しました。しかし現場を取り仕切る人間として、私はそのような私闘を許容するわけにはいきません。どうか今回は杖を収めてください」

「クッ……!? なんで、今回に限って僕の言うことを――」

「モリィくん。たしかに貴方は優秀な冒険者で、私たちのギルドの財産です。ですが何事にも『限度』というものがあることを、どうかご理解していただきたい」

「……ッ! お、おい、お前!」


 気弱そうな態度を見せつつも、緑鬼に折れる気配は見られない。


 諦めきれないモリィが、ふたたび敵意を向けてきた。


「キミは、悔しくないのですか!? 恥ずかしくないのですか!? このようなかたちで試験を終わらせてしまって、本当にそれでいいのですか!?」

「……私は、ギルドの判断、従います」

「ちィっ! 腰抜けが!」


 なんと罵られようが、俺の判断は変わらない。

 なおも悪態を吐く賢鬼から、視線を背けようとして――


「この、プライドの欠片もない豚野郎が! お前のような腑抜けを産んだ『母親』の顔を、見てみたいものですよ!」


 ――プツン。


「あァンッ!? ンだとこのクソ眼鏡!」

「ひっ! ど、どうしたんですか、ヒビキくん!?」

「く、クソ眼鏡!?」


 豚の急変ぶりを目の当たりにしたネルトが驚いているが、今はそれどころではない。いま、コイツは、決して口にしてはならないことを口にした。


「て、訂正、しろ! 私の、母親、素晴らしい、女性です!」

「ふ、ふん。いやぁどうですかねぇ。口先だけならなんとでも言えますからねぇ」

「ちょ、モリィくん! 彼を煽らないでください!」

「ヒビキくんも落ち着いて!」


 額に汗を滲ませるローグや顔色を青くしたネルトが懸命に場を取り繕おうとするが、俺の怒りは収まらない。当然だ。自分の母親を……この世界でもっとも尊敬すべき女性を蔑まれて、黙っていられる道理などあるはずがない。神が許しても豚が許さない。


「上等、だ! かかってこい!」

「……ふん。いいでしょう。その生意気で不細工な豚鼻を、叩き潰してあげますよ! ローグさんも、彼がこのように言っているのですから、問題ありませんよね!?」

「問題あるに決まっているじゃないですか! ですよね、主任!?」

「……双方の合意が成り立っているなら、仕方ありませんね」


 呻くような緑鬼の答えにモリィは口端を吊り上げ、

 ネルトは信じられないと目を見開く。


「主任!」

「落ち着いて冷静に考えてください、ネルトくん。こうなってしまった以上、この場をいったん宥めたとしても、彼らの激情が燻ってしまうことは明白です。ならばそれがのちに取り返しのつかない場所で爆発してしまう前に、我々の目が届く範囲内で安全に処理してしまったほうが、賢明だとは思いませんか?」


 部下に言い含める男の言葉の何割かは、

 俺たちに向けられたものだ。


(……この場は大目に見てやるから、禍根を残すなってことか)


 俺としても無関係な彼がそこまで融通を利かせてくれるのなら、異論はない。


「……と、ローグさんは仰っていますが、問題はありますか?」

「ない」


 いいからとっととそのムカつく片眼鏡モノクルを叩き割らせろ。


「……っ、ではこれより、臨時の追加試験を執り行います。いいですか、ふたりとも。これはあくまで試験の延長なのですから、くれぐれも節度と限度を守ってくださいね!」


 そんな投げやり気味な緑鬼の宣言によって……


 この日最後の試験となる、豚の追試が決定した。


 無念にもスライムさん、退場。

 からの、真打登場。


 果たして追試の結果は如何に……!?


 それでは今回もお読みいただき、ありがとうございました。

 次回は二話連続更新なので、読み飛ばしにご注意ください。


 m(__)m


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