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ブギーテイル ~異世界豚鬼英雄譚~  作者: 陽海
第三章 奮鬼冒険編
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【第10話】  実技試験 ①

【前回のあらすじ】


 豚さんと愉快な仲間たち。



「ンなろォおおおおお!」

「馬鹿出過ぎだって! 下がれ下がれ下がれ!」

「いや今だ! 行け! そのままやっちまぇ!」


 訓練場の盆状広場に、若者たちの雄叫びが響き渡る。


『ブギュゥウウウウウウウッ!』


 抗うように咆哮するのは、彼らと相対する猪型魔獣。だが若者たちとの戦闘によってすでに片方の大牙は折れ、全身を斑に染めている。そしてたった今、まさしく致命の一撃が側面から手負いの魔獣の心臓を貫いて、最期に慟哭した草原猪グラスボアは、ゆっくりと大地に倒れ伏した。


「八番チーム、そこまで! 受験生の方たちは、安全地帯セーフティーゾーンまでお下がりください」


 対象の討伐を確認して、鑑定士のギルド職員が猪型魔獣のもとへと向かう。入れ替わりに試験を終えた八番チームが俺たちのいる安全地帯に戻ってきた。


 この安全地帯はその名の通り、外壁にも使用されている防壁結界を小規模に展開した区域であり、傍目からは半透明な硝子ガラス壁に仕切られているように見える。ここには目前で行われる戦闘の余波は届かず、仮に魔獣そのものが突っ込んできても問題なく弾き返せるというのは、この仕組みを説明してくれたギルド職員の言である。


 そのような安全地帯で、俺たち待機組が見物していると……


「鑑定、完了しました」


 響いた鑑定士の声に、八番チームの面々が喉を鳴らす。


「魔獣そのものは問題なく討伐できています。ですが損傷が激しく、大牙も片方折れているのは減点ですね。これでは武具の素材や毛皮の採取を目的としたクエストに対応できるとは言い難いでしょう。今後は注意してください」


「「「 チクショ~ッ! 」」」


 告げられた結果に、八番チームの面々は揃って頭を抱えていた。


 なにせこの実技試験は、ただ魔獣を倒せば合格という単純なものではない。いや、もちろん魔獣を討伐することに大きな比重が置かれているものの、その過程や結果にも、審査員たちが目を光らせているというのは有名な話だ。


 実技試験で魔獣を討伐しても登録試験には合格できなかったという話はわりとよく耳にするし、逆に事例こそ少ないものの、魔獣こそ討伐できなかったものの過程や判断力を評価されて、途中で実技試験を棄権リアイアしたにも関わらずに合格した受験生も存在するとか。


「だから攻撃は慎重にって言ったんだよ!」

「馬鹿言うな! お前らのフォローが遅すぎるから、俺が前でやらなきゃいけなかったんだろうが!」

「いやそもそも、前衛と後衛の役割分担からして……」


 そういった点で言えば、八番チームの彼らは改善の余地があるとはいえ、こうしてすぐに互いの問題を指摘し合っている様子を見る限り、もっと成長していけるだろう。今後に期待だ。


(……って俺も、上から目線で語っている場合じゃないよな)


 なにせ次は、俺たち九番チームの出番だ。順番的に今回の実技試験の最後トリであるため時間が空いてしまったが、そろそろ準備をしないと。


「ちょっと、メイリーさん、起きて、ください」

「……めぇぇ。そんにゃ、メイリーは、寝てなんていないですよぉ……ZZZ」


 と言いつつ、見事な鼻提灯である。

 むしろよく立ったまま、そこまで熟睡できると感心するよ。


「ほら、よだれ、拭いて、ください。女の子、ですから」

「めえぇぇ……。ブタさんはまるで、ママさんのようですねぇ」


 せっかくの可愛らしい容姿を台無しにする羊毛人スリーパーの顔を、布で拭う。されるがままの彼女はそうされることに慣れきっているのか抵抗しないため、まるでお人形さんのようだ。警戒心が無さすぎる。


「……これでよし、と。マカさんも、準備、大丈夫、ですか」

「肯定。問題ナイ」


 もう一人のチームメイトである全身黒外套ローブ姿の怪人も、支度はできているようだ。彼(あるいは彼女?)の纏うローブの下から、カチャカチャと硬質な音が鳴る。


「では、行きましょう」

「了解」

「あ、待って待ってください。リーダーはメイリーですよぉ!」


 そう言って前に出ようとする自称リーダーのメイリーだが、残念ながら、歩幅が違う。すると彼女はするすると豚の背中をよじ登って、肩車に落ち着いた。


「めえぇぇ~、いい眺めですねぇ。これならステキなライブができそうですぅっ♪」


 ……まあ本人が満足しているのなら別にいいや。

 審査員の方々も、微妙な顔はしているものの止めはしないし。


「……くっ。あの子、肩車なんて通ですねっ!」

「……あの豚野郎、ネルト嬢だけは飽き足らずっ! 見境なしの豚野郎がッ!」


 若干二名ほど、それぞれ嫉妬と憤怒の視線を向けてくる黒鬼ダークオーガン賢鬼ホブオーガンの存在は、スルーさせていただこう。


(それよりも今は、目の前の課題に集中だ)


 盆状広場の中心には、待機時間中に職員によって巨大な檻が運ばれていた。高さはゆうに三メートルを超える。鈍色の表面には、仄かに発光する魔法回路。全面を鉄板で覆われた正方四角形の鉄塊の内部には、わざわざ冒険者たちがこの日のために捕獲してきた魔獣が捕らえられていた。


 聞くところによるとこれは魔獣捕獲を目的とした〈魔獣封檻〉と呼ばれる魔道具であり、内部に魔生樹の一部を組み込むことで、魔力供給による魔素の生成を実現。制限はあるものの、魔獣を生きたまま魔生樹から引き離して、飼育することが可能なのだとか。


(にしても今回の『これ』は、ちょっとデカすぎやしませんかねぇ?)


 少なくとも俺たちより前の一番~八番チームらの試験のときは、もっと〈魔獣封檻〉は小さかった。せいぜい高さは一メートルといったところだろう。だというのに目の前の檻はざっとその三倍近い。さすが『ハズレ枠』の魔獣。全力で俺たちを潰しに来ている。


(とはいえ、素直に降参する気なんてサラサラないんだけど……)


 問題なのは、これがチーム戦だということ。


「めぇめぇ、おっきぃですねぇ! すごいですねぇ! 楽しみですねぇ!」

「……」


 そういった点で言えば、ここまで気疲れの連続だった豚は初めて彼女たちがチームメイトであることを嬉しく思った。歓喜と無関心という違いはあるものの、ふたりとも目の前の課題に、委縮している様子は見られない。


「それでは間もなく、本日最後の試験を執り行いますが……九番チームの皆さん、よく聞いてください」


 待ち受ける俺たちに、ギルド職員が最終確認をする。


「すでにご存じかもしれませんが、これから貴方がたが討伐する魔獣は、今までのそれと比べてはるかに討伐難易度の高い魔獣です。よって私たち職員や冒険者の方々が見守っていたとしても、ほんの少しの判断ミスで、取り返しのつかない『重大な事故』が起きてしまう可能性があります」


 そして俺たち受験生は、この受験に際して『試験中にいかなる事態が発生しようともそれらはすべて自己責任であり、当ギルドは責任を負わない』という旨の一文にサインをしている。


「いいですか皆さん、蛮勇と無謀が異なるように、逃亡と撤退は違います。むしろ彼我の戦力差を正確に測る技能は、冒険者にとって讃えられるもの。もし自分たちでは討伐不可能だと判断した場合は、速やかに申し出てください。そうすれば当ギルドの名にかけて、貴方たちの安全は保障します」


 と、そこまで一気に吐き出してから、ギルド職員は半ば諦めたような……一方でどこか誇らしそうな表情で、問いかけてくる。


「それでも……貴方がたは、この試験に挑みますか」


「応ッ!」

「もちろんですぅ~!」

「肯定。不服ハ無イ」


「……承認しました。それでこそ、冒険者です」


 そう言って、ギルド職員は立ち去った。それからすぐに〈魔獣封檻〉が『ギギギギギィッ……』と不気味な唸り声をあげる。


(さて、鬼が出るが蛇が出るか)


 立方体のうち、俺たちの正面にある一面が徐々に傾斜。

 暗闇の中から、ゆっくりと這い出してきたのは――


 ……ぞるっ……

 ……ぞるぞるぞるっ……

 ……ぞるぞるぞるぞるぞぞぞぞぞぞっ……


 背後から忍び寄るような、粘着質な音。

 テラテラと光を弾く、丸みを帯びたゼル状の質感。

 生理的嫌悪を刺激する、深苔色の波涛が広がっていく。


 それらはあたかもひとつの意思に統一された群体生物アメーバーのように形状を変化させながら檻から這い出し、降り注ぐ日差しの下に、その不気味な姿を現した。さながら立ち上がるかのように、密集して隆起した物体の大きさは四メートル近い。本来生物の顔があるはずの部位にそれはなく、しかしブルブルと蠕動するそこには、たしかに解き放たれた『飢餓』に対する欲求があった。


(……おいおい、マジかよ)


 皆『それ』の名前は知っている。

 だが皆が知っている『それ』と『これ』は、あまりに大きさが違うだろう。


 つまりそれだけ希少レアな上位種。

 そして俺にとっては、数ある魔獣のなかでもとくに苦手とする種族であり――


(なんでよりにもよって、ここで『コイツ』が出てくんだよ!)


 目の前にそびえ立つ『それ』の名は、巨大粘体魔獣ジャイアントスライム


 どうやら性悪な神様は、まだまだ哀れな豚で遊び足りないらしい。


        ◆


「めっ、めえぇえええっ! 気持ち悪い! 気持ち悪い|魔獣(お客)さんですねぇ!」


 思わぬ難敵の出現に戸惑っていると、頭上で動く気配があった。バンバンと平手で頭を叩いてくる肩上の少女は、片手で豚の鬼角を掴み、両足を首元に回して姿勢を固定。残る片手でこの世界では珍しい、軽量拡声器マイク型の魔道具を取り出した。


「そんなマナーの悪いお客さんは、メイリーの舞台ライブにはいらないですよぉ!」


 彼女はそのまま大きく息を吸い込んで――


「『――めぇえええええええええええええええええっ!』」


 ビリビリと、肌を叩きつけるような大音量を頭上から放出した。


(……ッ!!!! なんつー大声だよ! っ!? いやでも、魔力の波長を感じるから、これも本当に〈咆哮ハウリング〉の一種なのか!)


 この戦闘が始まる前に、俺たち即席チームは互いの情報を交換していた。当然ながら冒険者にとって自身の情報は重要度が高いため、全員が自らの情報を出し惜しみなく公開していたということはないだろう。それでも試験に合格するため、チームが機能するために必要なだけの情報は交わしている。


 そのなかで判明したことは、メイリーは後衛職である音響士。特徴はこのような、自身の発生させる音波に魔力を乗せた『音撃魔法』である。


(正直、衝撃魔法の亜種なんて、戦力として期待してなかったけど……)


 浅学な豚の予想を裏切り、メイリーの放った『音塊おんかい弾』は、軌道上にあったジャイアントスライムの一部をゴッソリと吹き飛ばした。


「……む、魔晶核コアを外しましたか。でもまだまだ行きますよぉ、『――めぇええええええっ!』『――めぇええええええっ!』『――めぇえええええええ!』」


 ウジュウジュと蠕動して、すぐに欠損部位を塞いでいくジャイアントスライム。対してメイリーは怯むことなく音塊弾を連射。そのたびに深苔色の粘体が弾けて散る。


(おいおい、これ、けっこうシャレにならない威力じゃないか?)


 なにせスライムはその性質上、物理攻撃にめっぽう強い。生半可な攻撃ではダメージを与えられず、むしろ攻撃した部位や武器を粘体に絡めとられてしまう。そのためスライムを討伐する際に有効なのは有利属性の魔法、次いで貫通や切断に特化した攻撃だ。


(少なくともメイリーの攻撃は、後者の条件を満たしている)


 背が高く隆起するように密集しているとはいえ、それでも横幅が一メートル以上あるジャイアントスライムを貫通する魔法攻撃は、戦力として数えるに申し分ない。そのうえ連射も利く。小さな身体に似合わない高火力は、嬉しい誤算だ。


「……それでも、決め手、欠けます!」


 このまま攻撃を繰り返したところで、魔獣の討伐には至らない。なにせいくら身体の一部を吹き飛ばしたところで、メイリーの言う通り『コア』を破壊しない限り、ジャイアントスライムの本体は飛び散った粘体を回収して、すぐに再生してしまう。この厄介極まる生命力こそが、スライム種の討伐難易度はその質量に比例するとされる所以だ。


「同意。現状デハ、勝算ハ微小」

「めぇえええええ! 引き際マナーのなっていない、お客さんは嫌いですよぉ!」


 このままでは埒が明かない。

 俺たちはひとまず、メイリーの音撃魔法で牽制しつつ、後退を選択。


 するとその気配を察したのか、逃げようとする獲物を追いかけて、ジャイアントスライムの本体から『ズルルルルッ……』と、触手魔獣ローパーじみた粘体隆起がいくつも飛び出してきた。


「くっ!」


 ビュゥンッ、と怖気立つ風切り音。


 咄嗟に補助魔法〈爆地バースト〉で足元の爆破することで、生じた推進力を利用して急激な方向転換。直後に一瞬前まで俺たちがいた地面が抉れ、緑色の粘液が飛び散る。


「ブ、ブタさん! 急に変な動き、しないでください! うぷっ、よ、酔いますです、うめぇぇぇ……」

「我慢、です!」


 頭上からの批難を無視して、俺は次々と降り注ぐ触手鞭の回避に専念。関節が存在しないがゆえに不規則な軌道で繰り出される鞭打の嵐を、足元の小規模爆破による急制動と、体幹の制御によって、クルクルと舞うように捌き続ける。


 応用するのは、羽兼龍断流の〈疾風の型〉。


 見定めて受ける〈流水の型〉とは異なり、

 見極めてけるこの体術こそが、

 現状では正解だろう。


(ちっ、やっぱりか)


 その証拠に軽鎧に付着した粘体は『ジュゥゥ……』と、

 不快な異臭を放っていた。



・ようやく始まった実技試験。

・RPGではザコの代名詞であるスライムですが、この世界ではそこそこ強いです。

・固定高火力砲台ことメイリーちゃんを装備した主人公は、果たして相性最悪のスライムに勝てるのでしょうか……?


お読みいただき、ありがとうございました。


 m(__)m


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