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ブギーテイル ~異世界豚鬼英雄譚~  作者: 陽海
第三章 奮鬼冒険編
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【第09話】  クジ引き

【前回のあらすじ】


 鬼人オーガン女子は肉食系。



 気まずい空気のまま、受験生一行が移動すること十数分……


「つ、着きました。こちらが〈帝国の鬼火〉が所有する、第二訓練場となります」


 ようやく俺たちは、目的地である施設へと到着した。中年の緑鬼トロルが指し示す第二訓練場。外から見る形状としては、前世でいうローマの闘技場コロシアムに近いだろうか。大きさは、ちょっとした体育館ぐらいある。


「この黒壁都市は皆さんもご存じの通り、地下の豊潤な地脈レイラインを利用する強力な防壁結界を有しており、今までに幾度もなく外敵や魔獣らの侵攻を防いできた、まさしく帝国の盾。この訓練場はその防壁結界を機能の一部に応用しているため、強度は保証付きですよ」


 そのようなことを語る緑鬼は、誇らしそうだった。

 それだけ自分たちの街と歴史を、愛しているのだろう。


 またここより大きい第一訓練場では、別室で試験を受けていた受験生たちが実技試験を受けているという。森からやってきた俺以外の仲間たちは、あちら組だ。


「では早速、実技試験の準備に移りたいと思います」


 ギルド職員の案内によって訓練場の内部に進んだ俺たちは、まさしくコロシアムの闘技円盤を彷彿とさせるような、広い盆状の広場に到着した。


 足元は剥き出しの地面。舗装されてこそいないものの、幾重にも入念に踏み固められているそれは、ここで行われてきた戦闘の激しさを物語っていた。また広場をグルリと囲う仕切り壁には、観客席こそ存在しないものの、代わりに巨大な幾何学模様が刻まれている。おそらくあれが、障壁結界の魔法回路だろうか。


「それでは皆さん、お手元の札に書かれた数字の列に並んでください」


 この盆状広場に着くまでに、俺たち受験生は緑鬼の指示で、小箱からそれぞれ一枚の札を引かされている。札には数字が記されており、広場の片隅に設置されている看板にも同様の数字。各々の割り振られた番号に向かって、受験生たちは移動する。


「はい、では皆さんにはこれから即席のチームを作っていただき、我々が用意した魔獣を討伐するクエストに挑んでもらいます。公平性を期すため、チームはくじ引きでランダムな三人一組とさせていただきました。単独ソロ冒険者を目指す方には不満な試験内容かもしれませんが、当ギルドの方針ですので、ご了承ください」


 事前に集めていた情報によると、このギルドの登録試験にはいくつかのパターンがあり、今回は『即席クエスト』のようだ。


 たしか名目としては『冒険者たるものいかなる状況、状態、面子であっても、一定の成果を上げなければならない』というもので、具体的には『突如発生した緊急クエストにおいて、現場で即席チームを作る』というシチュエーションを想定しているらしい。


 たしかに十全な情報と仲間を集めてクエストに当たることこそが、正しい冒険者の在り方だろう。しかし現実はいつも気まぐれで、意地悪く、なかなかこちらの思い通りには動いてくれない。そんなときに状況を打破するのは己の判断力であり、対応力であり、適応力。そういったものが、この試験では測られる……


(……というけれど、ぶっちゃけこの状況で一番重要なのは『運』だよな)


 流石にギルド側も直接的な表現こそしないものの、しかし現場で動く当事者も含めて、誰もが理解している『運』。これが当人にあるか否かで、不意に起きた緊急クエストは歴史に名を刻む英雄譚にも、目を覆いたくなる惨劇にも成り得る。この不確定な、しかし重要な資質が、この試験をクリアする上での重要な鍵だ。そしてその点で言えば、間違いなく今世の俺は『運』に恵まれている。


(ただ問題は、それが俺にとっての幸運か不運か選べない『奇運』なんだよなぁ……)


 さてさて、今回の賽の目はどう出ているのだろうか。不安と期待が入り混じった豚は、祈るような気持ちで、同じ看板に集った受験生たちを確認した。


「めえぇぇ! やっとメイリーの、輝かしいステージの第一歩ですかぁ!」


 三人一組スリーマンセルのうち、ひとりは少女。この登録試験には年齢制限があるためそう俺と歳は離れていないはずだが、それにしても小さくて幼い、可愛らしいと率直に表現できる容姿の少女である。


 体毛と瞳は薄桃色。内側に向かって渦を巻く角が、左右の側頭部から生えている。この渦巻状の角と、身体の一部を覆うモコモコとした柔毛から、彼女は羊毛人スリーパー獣人ライカンだと推察できた。


「む、なんですかブタさん、そのいやらしい目は! さてはさっそく、メイリーの魅力にメロメロなんですね! わかります! だってメイリーは見てのとおり、モーレツ可愛いですからねぇ! めえぇぇ~♪」

「いや、その……」


 どうしよう。

 どこからツッコめばいいのかわからない。


(え? ここ、冒険者ギルドの試験場だよな? 場所間違ってないよな?)


 動揺は、少女の服装が原因だ。


 なにせここは、冒険者ギルドの訓練場。しかもこれから行われるのが実技試験だと予めわかっているため、受験生たちは各々の動きやすい戦闘服で身を固めている。例で挙げるなら、俺のような前衛職は急所を装甲と関節部を獣皮で覆った軽装鎧を、後衛職は魔力を補助するための外套ローブや帽子を、といった具合だ。


 だというのに……この羊毛鬼の少女ときたら、着ているのはとても冒険者とは思えない派手な装飾ドレス服。


 たしかに服の各所に盛られたフリルや、計算し尽された配色は、少女自身の愛くるしい容姿を引き立てて非常にマッチしている。きっと街中や広場に立てば、大いに人々の視線を集めることだろう。けれども戦闘においてはそれらの華美な装飾が、何らかの役に立つとは微塵も思えない。


(いや、待て。落ち着くんだ、俺。決めつけるにはまだ早い)


 なにせここは異世界。


 もしかすると俺の理解が及ばないだけで、このフワフワモコモコした服装には、何か凄い魔術的付与や機能が隠されているのかもしれない。


「えっと……素晴らしい、衣装、ですね」


 ひとまずは探りを入れてみよう。


「っ! わかりますか、ブタさん! めえぇぇ~、ブタさんは、ブタさんのクセになかなか見る目がありますねぇ♪」

「もしかして、高価な、魔法道具、なのですか?」

「めぇ? いえ、これはメイリーの手作りですか何か?」


 問い返す少女の瞳には純粋な疑問の色。

 なぜそんな顔ができるのか逆に問いたい。


「……。えっと……でも、それでは、戦闘、危険、では、ないですか?」

「めぇぇ?」


 どうして不思議そうに首を傾げるのか。


「めぇめぇ、可笑しなことを言うブタさんですねぇ。そんなの、気にする必要ないじゃないですか」


 指を振り、首を振り、肩をすくめる少女には絶対の自信があった。


(……はっ! まさかこの子、こう見えて凄腕の前衛職なのか? 自分の体術に自信を持っているから、戦闘で服を汚すことなど有り得ないと!?)


 もしそうであるなら俺の目はとんだ節穴だ。

 一瞬でも少女のことを疑った自分が恥ずかしい。


「だってメイリーの戦闘ライブには、いつだって(肉壁)ファンがいますからね。そういった点ではブタさんは、ファンの才能がありますよ!」


 あ……(察し)。


「このモーレツ可愛い歌姫、メイリー・メロウちゃんのファーストコンサートを飾れる栄誉、ブタさんは生涯誇っていいですよ! めぇぇ~♪」

「はい、ソウデスネ」


 俺は少女との会話を切り上げた。

 もう一方に期待する。


「……」


 いろんな意味でブッ飛んだ羊毛人の少女――メイリーに比べてば、残るもう一人の受験生は、かなりまともな人に見えた。たとえその全身をすっぽりと黒の外套ローブで覆っていようと、顔を仮面で隠していようと、両手を包帯でグルグル巻きにしていようと、戦場にドレス姿で推参するクレイジーガールよりは何百倍もマシだ。


「あの、えっと……お名前は?」

「返答。マカ」

「マカさん、ですか。俺は、ヒビキ・シヴァ、と、申します」

「承認。個体名ヲ記憶」

「あの、えっと、よろしく、お願いします」

「承諾。一時的ナ協力関係ヲ構築」

「……」

「……」

「あ、それでは」

「……」(コクリ)


 笑顔の豚は仮面の受験生――マカから距離を置き、

 そして膝から崩れ落ちた。


(無理ぃいいいいいいっ! 勢いで自分を誤魔化そうと思ったけど、やっぱ無理だよぉおおおおおおっ!)


 なにせ全身黒尽くめ、仮面、包帯とこれだけでも怪しさ爆発なのに、さらに声帯魔法で性別などの個人特徴を判別不能にしているとか、もう完全に常軌を振り切っている。前世であれば確実に厨二病判定オールグリーンだ。もしくは犯罪者予備軍。


(助けてマリー!)


 俺は運命を翻弄するクソったれな神などではなく、この世で絶対唯一の守護神である母に祈った。だが返答はない。当然だ。なぜなら彼女は今、遠く離れた森の奥で病床に伏しているのだから。


(……そうだ、マリーに助けてもらうんじゃない。俺がマリーを助けないと)


 マリーを助ける。

 そのために俺はここまでやってきたのだ。

 この程度の理不尽に、膝を屈している暇はない。


「えー、皆さん、そろそろ自己紹介は終わりましたか? ではひとまずそのチームにおける代表者を決めて、代表者は前に出てください。代表者の方にはこれから、そのチームの討伐課題となる魔獣を決めるクジを引いていただきます」


 脳内で微笑むマリーに再起を誓っていると、小箱を抱えた緑鬼が現れた。彼が抱えているのは、この即席チームを決める時にも使用した、あの忌々しい籤引くじびき箱だ。今度はあの中に、討伐魔獣を決める札が入っているらしい。


(とはいえ今度のクジは、責任は重大だぞ……っ!)


 なにせ情報によれば、この『即席チーム』の課題には、例年ひとつだけ『ハズレ枠』が設けられているらしい。これは受験生レベルならまず間違いなく討伐不可能な魔獣であり、そこで試されるのは『どのようにして困難を打破するか』ではなく『どこまで絶望に抗えるか』というもの。つまりこの『ハズレ枠』を引いた時点で、合格の可能性は格段に低くなってしまうわけだ。


(俺たちを含めて、ここにいる受験生たちは九チーム)


 例年通りならば、ハズレを引く確率は九分の一。

 通常であれば、分が悪いとはいえない確率。


 だが『運』という魔物は得てして人々の期待を裏切るものであり、そしてこの土壇場で魔物に魅入られた場合は、その時点でチームの崩壊すら有り得る。


 果たして、そのような重要な役割を誰が……


「めぇめぇめぇ~! それはもちろん、このモーレツ可愛いメイリー以外にあり得ませんよぉ~っ!」

「えっ!? あ、おい……っ!」

「……」


 俺が止める間もなく、ピューとメイリーが緑鬼のもとへ駆け出していく。マカのほうはもう諦めているのか、微動だにしない。


(クッ……せめて、赤色の札だけは引いてくれるなよ……っ!)


 赤札とも呼ばれる『ハズレ枠』さえ回避してくれれば、もう何も望まない。


「おや、貴方がチームリーダーですか」

「そうですよぉ~。さぁ、さっさとクジを引かせるです。こう見えてもメイリー、クジ運には自信があるですよぉ~♪」

「それは素晴らしいですね。ではどうぞ。ご武運をお祈りします」

「お任せです! めぇめぇめぇ~♪」


 ガサゴソガサゴソ。


「……む! お前に決めたですぅ~っ!」


 そう言ってメイリーが小箱から取り出し、堂々と頭上に掲げたのは、当然ながら『九』と刻まれた見事な朱塗りの札であった。


        ◆


 それから一時間後。


 ヒビキたちがいる第二訓練場から距離を置いた、

 冒険者ギルド〈帝国の鬼火〉が所有する第一訓練場にて。


「お見事、そこまでです!」


 ドォ……と猪型魔獣が倒れ伏せると同時に、試験の審査員であるギルド職員の声が、訓練場内部の盆地広場に響き渡った。


「三番チーム、魔獣の討伐を確認。これから討伐魔獣の状態査定を行います」


 すぐに鑑定士である職員たちが魔獣に近寄り、その状態を確認する。なにせ冒険者ギルドに依頼されるクエストとは、たいていの場合が『魔獣の討伐』ではなく『魔獣の特定部位の採取』である。よって魔獣を討伐はしたものの、目的の部位を破損させてしまっていては意味がない(……余談だが前者を望むのであれば、荒事に特化した傭兵ギルドなどにクエストを発注するのが通例である……)。


 そのため討伐した魔獣の状態は、

 クエストの内容如何によって重要になってくるわけだが……


「……はい、問題ありませんね。草原猪グラスボアの討伐部位である大牙に、欠損は見られません。これなら依頼者の方もご満足していただけるでしょう」

「ふん」


 鑑定士の賛辞を、女蛮鬼アマゾネスの少女――オビィは、当然のように受け流す。事実、常日頃から森でこれと同レベルの猪型魔獣を狩っている彼女にとって、この程度の狩りなどそれこそ日常の一幕だ。誇る価値はない。


「すごいですピョンすごいですピョン! 一撃ですピョン!」

「さすがあねさまであります!」


 感情を動かさないオビィに代わって、喜色を爆発させるのは三人一組スリーマンセルとなった残りの少女たちである。とはいえ彼女たちは即席チームである以前に、オビィにとっての可愛い隷妹。その彼女らのはしゃぐ姿に、ようやくオビィは口許に淡い微笑みを浮かべた。


「そんなことはない。これもすべて、お前たちの助力があってこそだ」

「はふぅ~。しょ、しょんなことわぁ~……」

「これからも、期待しているぞ」

「ほへぇ~。も、もちりょんでありましゅぅ~……」


 ねぎらいながら、オビィは彼女らの頭や顎を撫でる。敬愛して止まない主人からのご褒美に、隷妹たちは腰砕けだ。


(……まあこの程度の魔獣が相手なら、婿殿が後れをとることはないだろう)


 そして愛らしい隷妹たちを撫でながら、

 オビィが考えるのは愛しい種婿のこと。


 残念ながらここにいない彼が、午前の試験の出来が芳しくなかったことを気にしていたことを、オビィはずっと憂いていた。しかし午後の試験の難易度が測れたことで、ようやく気持ちに余裕が生まれた。


(それにもし例の『赤札』とやらを引いたとしても、せいぜい出てくるのは、これの二段階くらい上の上位種までだろうしな)


 常識的に考えれば、この実技試験で用意されている魔獣は、駆け出し冒険者でもチームを組めばなんとか討伐できる難易度のもの。つまりその魔獣の上位種と遭遇すれば、討伐成功率は格段に下がり、さらにその上となればもはや討伐は絶望的。生還することのほうが難しくなる未踏ハードクエストとなる。


 とはいえ……あくまでそれは『常識的』に考えた場合であり、オビィの種婿はそれに該当しない稀有な例だ。なにせ彼はすでに半年前の『活性期』において、それに相当する魔獣を単独で討伐している。そこからさらに成長した今の彼であれば、万が一にも後れを取るはずがない。


(仮に不安要素があるとすれば、『相性の差』ぐらいか)


 ふとオビィの脳裏を過った『とある魔獣』の姿。かの大森林において今ではほとんどの魔獣を単独撃破できる豚鬼が、唯一苦手とする種族。それが彼の前に立ち塞がることを想像して、しかしさすがに杞憂だろうと女蛮鬼は首を振る。


(さて、そろそろ今晩のメニューを考えておくか)


 愛する種婿の祝辞だ。盛大に祝わなければならない。しな垂れかかってくる隷妹たちを左右に侍らせたまま、オビィは盆状広場を後にした。



 またしても新キャララッシュ。


 唯我独尊系ロリと、厨二系覆面怪人。

 想定外の仲間に動揺を隠せない主人公の命運は如何に?


 そして当たり前のように抽選で低確率(隷妹二名)を引き当てている女蛮鬼さんと、彼女たちから切り離されて望まぬソロプレイを強いられている順番待ちの大鬼くんに合掌です。


 それではお読みいただき、ありがとうございました。


 m(__)m

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