表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブギーテイル ~異世界豚鬼英雄譚~  作者: 陽海
第二章 会縁鬼縁編
39/83

【第10話】  活性期②

【前回のあらすじ】


 ママ「すぴー。すぴー」


 ハーレムさん「今が好機ですね」







「くっ……!」


 押し寄せる魔獣たちの群れに、

 アマゾネスの少女【オビィ】は顔を歪ませる。


「ダメだ、こっちも援護頼む!」

「おらおらテメエらもっと気合入れろ!」

「中の非戦士たちには指一本触れさせるな!」


 周囲から湧き上がる悲鳴や怒声は、

 同族であるアマゾネスたちのもの。


 彼女らは単身で魔獣を討伐できる戦士だが、

 今回ばかりは数が多すぎる。


「くっ、もうこんなとこまで来てやがる!」

「迎撃! 迎撃!」


 集落をグルリと囲い込む砂と蔦の防壁。

 高さ八メートルほどもあるそれが、

 集落の最終防衛ラインだ。


 それの上部と外周に、アマゾネスたちは散っていた。

 彼女らは必死に押し寄せる魔獣を地上で迎え撃つ。防衛戦に参加している兎人ラビリア犬人コボルドたちも、壁に貼り付く魔獣たちを上から下から弓矢や魔法で狙い打つ。それでも、魔獣たちに怯える様子は微塵もない。


 ただ、本能。


 飢えた母樹の欲求と、

 それを満たそうとする子たちの執念が、

 眼前の『餌』たちに容赦なく牙を剝いていた。


「くぅ、なんだってこんな……っ!」

「ストンプボアやアームモンキーだけじゃねぇ、その上位種までうようよいやがる!」

「これがプレト大森林の活性期か!?」

「マジふざけんな誰だよ、アマゾネスにいいところを見せる機会だなんて言った馬鹿は!」

「お前だよ馬鹿野郎!」

「いいから来るぞ!」

「う、うぉおおおお! うぉおおおおお!」


 砂壁の周辺には冒険者たちの姿もあった。

 彼らは本来、この大森林で催される『祭り』の参加希望者であったのだが、それは今回の活性期によって延期となった。そこを、アマゾネスたちが名声や報酬と引き換えにスカウトしたわけである。


(まあ本当に実力のある参加者は、前線に引き抜かれているが)


 雄叫びをあげながら棍棒を振るう仮面の大男など、多少マシな人材もいるが、基本的にここに残っているのは前線に選ばれなかった『ハズレ』組だ。


 精々、肉の壁となってくれればそれでいい。

 弱い男とはアマゾネスにとってその程度の価値しかなかった。


(とはいえ確かに、押し寄せてくる魔獣の数が多すぎる。それに種類も)


 魔生樹の危険度は産み出される魔獣の種類によって判別できる。

 これほどの量と種族を産み出す魔生樹ともなれば、それは魔生樹を管理するアマゾネスたちにとっては本来見過ごせない討伐対象だ。


(いつもなら、こうなる前に芽を摘むのにっ!)


 今回は活性期による急成長が早すぎる。


 普段森で見かける猪型魔獣ストンプボアの上位種であるホーンボアや、猿型魔獣アームモンキーの上位種であるアームエイプなど、通常よりも危険度がワンランク上の魔獣たちが、戦場のあちこちで見受けられた。


「ちくしょうキリがねぇ!」

「前線の大戦士様は何をやっているんだ!?」

「大族長様、お助けください!」


 早々に根をあげていた冒険者だけではなく、

 戦いに疲弊したアマゾネスたちからも、

 徐々に悲鳴が漏れ始める。


 無論彼女たちとて、

 それが本心からではないだろう。


 前線で大戦士たちが奮闘しているからこそ、

 押し寄せる魔獣が『この程度』で済んでいるのだ。


 また大族長とて、我が身可愛さで集落の奥に引きこもっているわけではない。彼女は現在、このプレト大森林にある複数の大規模集落において、ここと同様の砂塵魔法を多数『同時』に展開しているのだ。


 ひとつの集落をすっぽりと覆ってしまうほどの大規模魔法。


 いかに地脈レイラインや魔道具を利用しているとはいえ、これほどの魔法を遠隔で同時展開することは、大森林を統べる長とはいえ負担が凄まじい。


 ゆえに、彼女らに援助は期待できない。

 その程度のことは全員が理解している。


(それでも助けを求めてしまうほどに、みんな弱り始めているんだ)


 すでに戦闘が始まって二時間が経過している。

 だが戦闘の激しさは増す一方であり、

 心を折られる者も増えてきた。


「泣き言を漏らすな! 貴様ら、それでもアマゾネスの戦士か!?」


 とはいえ戦闘意欲旺盛な戦士たちもいる。

 オビィもそのうちの一人であった。


「立ち上がれ! 前を見ろ! オレたちの前には倒すべき敵が、オレたちの後ろには守るべき仲間がいるんだ、それを忘れるな!」


 声を張り上げて味方に発破をかけつつ、オビィは〈戦鬼闘氣/オーガンオーラ〉を纏った肉体で猪型魔獣の突進を受け止め、腕を首に回して頸椎を圧し折った。


「ふん、お前に言われなくても!」

「オビィあんた、中戦士間近だからって調子乗ってんじゃないわよ!」

「臆病者は壁の中で非戦士たちと震えていろ! ここに立っているのは、勇敢なアマゾネスの戦士だけだ!」


 オビィの奮闘に感化され、戦線が息を吹き返す。


『ブモォオオオオオオオッ!』

『ゴォオオオオオッ!』


 そんなアマゾネスたちの背筋を冷やす雄叫びがあった。


「あれは……グランドボアか!?」

「アームコングもいるぞ!?」


 森を震わせる咆哮とともに、

 集落へと近づいてくる複数の魔物たち。


 猪型魔獣ホーンボアの上位種、グランドボア。

 猿型魔獣アームエイプの上位種、アームコング。

 それらが一体ずつ、迫る魔獣たちの中にあった。


 他の下位魔獣はともかく、両者は魔生樹における『守護獣』級の魔物であり、戦士階級のアマゾネスでは太刀打ちできる相手ではない。


(まさか前線が崩れたのか!?)


 最悪の現実は、連絡要員のラビリアが告げる。


「で、伝令ですピョン! 前線の一部が、奮戦虚しく一時的に崩壊してしまいましたピョン! そちらはもう立て直したそうですが、援軍が到着するまでのあいだ、戦線を抜けた魔獣たちの足止めをしておけとのことですピョン!」

「そんな馬鹿な!?」

「守護獣クラスの魔物を足止めしろだって!?」


 守護獣クラスの魔物の討伐とは、アマゾネスにとっては中戦士として認められるための儀式である。逆に言えば下位の魔物しか討伐できない戦士階級の手に負えるものではない。それが同時に複数、しかも下位の眷属を引き連れて。


「そんなの、不可能に決まっているじゃない!」


 すでに戦いに疲弊した、

 絶望の表情を浮かべるアマゾネスたちが訴える。


(でも、誰かがやらなければならない)


 たとえ、死ぬことになっても……


 それが戦士としての本懐であれば、

 恐れることなどアマゾネスには許されない。


「うぉおおおおおおっ!」


 そのように決断したのはオビィだけではなく、

 他にも数名のアマゾネスたちが駆け出していた。


「オビィ、死ぬ気か!?」

「そういうお前たちこそ!」

「ふふ、あんたにだけ中戦士の階段は昇らせないわよ!」

「手柄がわざわざやってきてくれたんだ、歓待してやらなきゃな!」


 皆、表情は引き攣っている。

 それでも口に出す言葉は戦意と決意に溢れていた。


(母様も、このようなお気持ちだったのだろうか?)


 オビィの母親は、前回の活性期の折に森に命を還した。生還したアマゾネスたちの話によると、彼女もまた仲間たちを守るために、己の命を賭したのだという。


(母様、オビィは貴方の娘です。だからこの命は、同胞たちのために使います)


 母の勇気を称えるために。

 父の武勇を誇るために。


 オビィは森へ命を還す覚悟を決めた。


(……アイツも今頃、こうして戦っているのだろうか)


 一瞬、ふと誰かの顔が浮かんだ気がしたが、

 それはすぐ眼前に迫る魔獣の威容に掻き消されてしまう。


『ブモォオオオオオオオッ!』


 質量に速度を加えて、

 凄まじい破壊力を伴ったグランドボア。


 ストンプボアの優に二倍以上はある体躯は、

 さながら山から転がり落ちる巨岩の如しだ。


「ぐっ!?」「いやっ!」「がはぁ!」


 硬化魔法や防壁魔法に自信のあるアマゾネスたちがその足止めを試みたが、有無を言わせぬ圧倒的な暴力の前に、彼女たちは一蹴されてしまった。それぞれが吐血し、手や足を歪な方向に曲げて、地面へと叩きつけられてしまう。


「くっ……グランドボアのほうは無理だ! アームコングに集中しろ!」


 不本意ではあるが、グランドボアはここを抜けられたとしても、砂塵防壁が最後の足止めをしてくれる。だがアームコングは壁を無視して這い上がり、内部に侵入する恐れがあるのだ。優先するのはこちらだ。


「囲め囲め!」

「数で包囲しろ!」

「棍棒の一撃に注意しろ!」

「防御の上からでも意識をもっていかれるぞ!」

「まわりのアームエイプたちにも注意しなさい!」


 残った仲間たちと速やかに連携。

 アームコングを中心とした包囲網を形成する。


『ホキョッキョッキョッキョッ!』


 けれどもアームコングに警戒の色はない。

 魔獣の中では知能が高いとされる多腕の巨猿は、

 弱者を踏み潰す強者の愉悦を浮かべていた。


「舐めやがって!」


 怒りか、

 それとも重圧に呑まれたのか、

 アマゾネスの一部がアームコングに襲い掛かる。


「馬鹿、陣形を崩すな!」

「まずはアームエイプどもを引き離すんだよ!」


 だが仲間からの警告も虚しく、アームコングばかりに意識をとられていたアマゾネスたちは、周囲に控えていたアームエイプたちに呆気なく手足をとられう。動きが滞ったのは一瞬。だが次の瞬間には他腕の巨猿が振るう棍棒によって、彼女らは宙へ打ち上げられていた。


「いやぁあああ!」

「くっ、この野郎!」

「卑怯者めが!」


 獲物を攻撃する際に、アームコングはアマゾネスにしがみついていたアームエイプも数体、一緒に棍棒で叩き飛ばしている。


「眷属を……仲間を、道具として扱うのか!」

「許せねぇ!」

「エテ公め!」


 知性を伴う残虐さ。

 憤りつつも、アマゾネスたちは呑まれていた。


(マズいな)


 戦いにおいて『勢い』は大事だ。


 感覚でそれを理解しているオビィは、

 だからこそ前に出た。


「邪魔すんな!」


 冷静に、まずはアームコングの周囲に控えるアームエイプたちを排除。その隙を狙って振るわれる巨猿の棍棒を回避して、一気に懐に潜り込む。


「うらぁ!」


 胴体に渾身の〈波撃/インパクト〉。

 だが筋肉と毛皮の壁に阻まれて、手応えは薄い。


(固い……それに厚いな)


 すぐに頭上から棍棒が降ってきた。

 反撃の予想をしていたオビィはそれを回避。

 追撃を諦め、そのまま距離を取る。


『ゴッ……ゴォオオオオオオオッ!』


 一方で不覚をとった巨猿は、

 表情を憤怒へと染め上げていた。


(よし、これでアイツの注意はオレに向いた)


 下手に知性があるぶん、アームコングという魔獣は自身のプライドを傷つけた獲物を決して逃がさないという習性を持つ。ならば自分を叩き潰すまで、あれが先に進むことはないだろう。


(あとはオレが、どれだけ持ちこたえられるだな)


 泣き出しそうになる感情を押さえ込み、

 強引に頬を吊り上げる。


『ホッ、ホキャァアアアアアッ!』


 怒りに身を任せたアームコングの攻撃は苛烈だった。


 周囲の露払いをアームエイプらに任せ、

 自身は執拗に獲物を追う。追う。追う。


「くっ、こいつオビィばかりを狙って!」

「おいエテ公! ウチらを無視するな!」

「大丈夫だ! オレに構わずお前らは取り巻きを駆除してくれ!」


 一秒毎に命を擦り減らしながら、

 オビィは巨猿の猛攻を凌ぎ続けた。


 反撃など考えない。

 回避のみに専念する。

 自身の誇りなどこの場では無用。

 仲間たちのために一秒でも長く生き延びる。


 そうしたオビィの献身を糧に、

 仲間たちは取り巻きの半数ほどを駆逐した。


 だがそこでアームコングも冷静さを取り戻し、

 魔猿の群れがふたたび統率を取り戻した。


(だけど十分に、時間は稼いだ)


 あともう少し粘れば、

 前線からの援軍が到着するはずだ。


(……生きて、帰れるかもしれない)


 一度は命を捨てた少女がそんな希望を抱いた……


「きゃぁあああああっ!」


 直後に背後で悲鳴。

 振り返れば後方で防壁周辺を固めていた冒険者やアマゾネスたちが、軒並み地に伏せていた。


『ブルルッ! ブルルルルッ!』


 敗者を見下すのは猪型魔獣の群れと、

 それを率いる上位種のグランドボア。


(クッ、猿ばかりに気を取られて、後ろが無防備になっていたか!)


 少し考えればわかることだ。


 このアームコングへの足止めには、

 戦闘意欲旺盛なアマゾネスたちが率先して出向いた。


 言い換えるなら後方に残った者たちには、

 すでに『魔獣に抗う気力など残されていなかった』のだ。


 そんな彼女たちのもとへ魔獣が到達すればどうなるか。

 また分厚い砂壁に阻まれて先へ進めない魔獣どもが、行き場を失った鬱憤の矛先をどこに向けるのか。


 答えは明白である。


「くっ、猿の足止めはもういい! 急いで引き返せ!」

「いやぁ来ないで!」


 オビィが声を荒げる。だがそれよりも早くグランドボアの巨体が、心が折れ、その場にへたりこんでしまっているアマゾネスに向かって駆け出した。


『ブホォオオオオオオッ!』


 オビィは顔見知った少女が、

 次の瞬間には挽肉となる光景を幻視する。


「……う、うおぉおおおおおおお!」


 果たしてその悪夢は訪れない。


 何故なら飛び出したグランドボアの突進を、

 さらなる巨体が正面から押し留めていたからだ。


(あれは……さっきの冒険者!?)


 先ほど冒険者たちに混ざり棍棒を振るっていた仮面の大男。

 彼がグランドボアを懸命に押さえ込んでいる。

 否、衝撃で、その仮面がズレ落ちた。


「あれは……角無し!? まさか不鬼子の隷夫か!?」


 まさしくその正体は、

 この場にいるはずのない隷夫の少年だった。


「ぼ、ボクだって! 僕だってぇえええええっ!」


 彼は決死の表情で歯を食いしばり、

 必死に背後の少女を守っている。


『グルルルルルルルゥ!』


 だがそれでもやはり、

 純粋な力比べでは魔獣に軍配が上がるようだ。


 予想外の妨害に足止めをくらったものの、

 怒り狂った魔獣の突進は防壁を強引に突き崩す。


「かはっ!」


 少年の胴体に、ブランドボアの鋭利な牙が突き刺さった。


 だが、それでも少年は手を離さない。

 血泡を吹きながらも歯を食いしばって抵抗する。


「っ! おい誰か、そいつの援護を!」

「オビィ危ない!」


 致命的な油断だった。


『ウホッ!』


 少年の奮戦に目を奪われていた隙に、

 巨猿はオビィへの接近を果たしていた。


(コイツまだ、オレを狙って!?)


 喜色の笑みを浮かべる巨猿が、

 棍棒を振り上げる。


(ヤバい、死っ……)


 周囲の景色がスローモーションとなり、

 無数の記憶がオビィの脳内を駆け抜けていく。


 その中に、とある少年の姿があった。


 ……だから、だろうか。


「ブギィイイイイイイッ!」


 戦場に、怒れるケモノの咆哮が響き渡った。



 お読みいただき、ありがとうございました。


 次回の更新は明日の予定です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ