〈序〉
どうぞよろしくお願いします。m(_ _)m
「ねぇママ、また『あのおはなし』をきかせてよ~」
それは、どこにでもある光景だった。
空に昇った月が薄雲をまとう夜半。
灯りの消された寝室にて。
寝台に横たわる子どもと、それを寝かしつけようとする母との会話である。
「もう、またあのお話? いいから寝なさい。明日の朝は早いのよ」
「ね~ぇ~。おねがいぃ~。おねがいだからぁ~」
「……まったく、もう」
服袖を掴み、頑なに離そうとしない我が子の抵抗に、母は嘆息を吐き出した。こうなったらこの子は、意地でも自分の要求を押し通そうとするだろう。であれば、さっさと折れてしまったほうが時間の節約だ。そう割り切って、母は子どもの枕元に腰を下ろす。
「少しだけですからね? ちゃんとはやく寝つきなさいよ」
「うん、わかったぁ~♪」
母に優しく額を撫で付けられて、
幼子は満面の笑みを浮かべる。
頬を緩めながら、ふと母は考える。いったいあと何年、自分はこの無邪気な笑顔を見守れるのだろうか。親が思っている以上に、子どもの成長は早い。時間は有限であり、子どもが子どもでいられる時間はさらに短い。そう考えると、このひとときを無駄だと断じるのは、少しばかり短慮なのかもしれない。
「ねぇ~ママぁ~。はやくぅ~」
寝付く様子など皆無な子どもの催促に、母も覚悟を固めた。どうせやるのなら手抜きではなく、徹してやろう。逸る子どもを宥めながら、記憶の糸を手繰ってゆく。
「えっと……前は、どこまで話したのかしらねぇ……」
記憶を手繰る。
記録を辿る。
以前、子どもに語り聞かせた物語を。
彼女もまた、かつて母にねだった昔話を。
この世界に生きるものなら誰もが耳にする、
とびきり奇天烈な『英雄譚』を……
「……そうねぇ、むかしむかし、あるところに……」
とはいえ世間一般の常識と、彼女の認識は異なる。
彼女はこれを『奇天烈な英雄譚』ではなく、
ただの『不器用な恋愛話』だと考えている。
そう、これは臆病な彼と彼女が、
そう、これは一途な彼女と彼が、
出会うための、物語……
◇◆◇◆◇◆
そして物語の舞台は、現在は豚鬼として認識されている『彼』が、こちらの世界へと『転生』したときにまでを遡る……
あらすじの部分でも(注)として触れましたが、
この作品は以前に投稿していた未完結作品【天聖魔王】を下地として新たに作り直した物語です。
そして【英雄譚】に【ブギーテイル】のルビは完全に作品内での造語なので、ツッコまないでいただけるとと有難いです(笑)。
それではお読みいただき、ありがとうございました。