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ゲームの国のアリス(SRPG編)  作者: かずや
3/6

チュートリアル2

 私がマティアス武具店に身を寄せることになった翌日、私はアルムさんに武器庫に案内されました。


「最初にも言いましたが、いずれは素材採集の方もお願いするつもりですからね。アリスさんに装備を選んでもらいたんですよ。」


「私は構いませんが、私に武器を渡してもよろしいのですか。」


「ここは、武器屋ですよ。あなたがその気になれば、凶器などいつでも手に入れられます。それに、これでも私は元騎士ですから、流石に婦女子には遅れをとりませんよ。アリスさんは二刀をお使いなるようですので、このような武器はいかがでしょうか?」


 そういうとアルムさんは、棚から2本の小振りの刀を持ってきてくれました。


「これはですね、アキツシマに行ったときに一目惚れしましてね。二刀用の刀らしくて、『二本刀』というらしいですよ。」


「二本刀?」


「はい、二刀で運用するために打ったから『二本刀』だと、鍛冶職人はいっていましたよ。」


 確かに、片手で扱いやすいように、柄が短くなっていますし、重さも手ごろなので、ふざけた名前の割には、よくできているようです。

 長さも、自分が稽古で使っていたものとほぼ同じです。

 西洋風ファンタジーの世界で、自分が使い慣れたものと、これだけ酷似しているのですから、即決してもいいような気がしますが、問題は手入れです。


「この刀の手入れ道具などは、アルムさんはお持ちですか?」


「鍛冶職人が、おまけに、つけてくれたものがありますよ。」


「その手入れ道具も、見せていただいてよろしいですか。」


「はい、こちらなのですが……。」


 アルムさんが取り出した木箱の中を見ると、ちゃんと一通り、必要なものは入っているようです。


「とりあえず、刀とこちらを一式お借りしてもよろしいでしょうか。これなら手入れも自分でできますので。」


「ではそちらで。気にいっていただけてよかったです。倉庫で腐らせておくには惜しいと、常々思っていましたから。クロードさんに見せようと思って買ってきたのですが、気に入ってもらえませんでした。軽すぎて、自分には振りづらいと言われてしまいました。あ、ソードホルダーは、よろしければ、こちらをお使い下さい。」


「これは?」


「クロードさんが2、3年前に使っていたものです。自分には小さくなって窮屈で使わないから、欲しい人がいたらあげてくれと言われましてね。引き取ったものの、二刀剣士などそうそういるものではありませんから、ずっと武器庫で眠っていたのですよ。」


 その黒いソードホルダーは、所々、すれた跡や、細かい傷はあるものの、まだまだ充分に使えそうです。

 そして、なにより、クロード様のお下がりです。

 これは、是非ともゲットしなくてはなりません。


「本当にお借りしてもよろしいのですか?」


「もちろん。」


「謹んで、使わせていただきます。」


 私は頭を垂れ、ソードホルダーを胸に抱きます。


「気にいっていただけて何よりです。獲物はこれで決まりましたから、次は防具なのですが……。」


「それなら、軽装歩兵の方が着るような、動きやすくて、そこそこ防御力のある軽鎧はありますか。」


「武具店として、誠にお恥ずかしい限りなのですが、アリスさんの体格に合うような鎧は、今、在庫がないのですよ。戦時中で、防具も不足していますし……。」


 アルムさんが、こちらを見ながら、気まずそうに答えます。

 オブラートに包んだような表現をしてくれていますが、その視線を受けて、合点がいきました。

 ずばり、『胸』ですね。

 この世界の女性達は2つの大きなメロンを標準装備しています。

 今、着ている服は、ジャージ姿は目立つということで、アルムさんの奥さんである、マリアさんにお借りしているのですが、10年以上も前に着ていた物だそうです。

 私は日本人としては、それなりにあるほうだと思っていたのですが、この世界の女性達には、遠く及びません。

 私自身は、とくに胸のサイズにはこだわりがなかったので、まさかこのような弊害があろうとは、思いもしませんでした。

 考えてみれば、2次元世界の女性たちは総じて巨乳です。

 貧乳キャラといわれる存在でさえ、日本人の感覚からいえば、普通か、十分ある女性がほとんどです。

 まあ、ないものは仕方ありません。


「それでは、『防刃ローブ』はありますか?」


 この世界では、ローブ系は魔法防御重視の防具で、魔法攻撃力もあがるのですが、物理防御力は気休め程度です。

 ただし、この『防刃ローブ』は違います。

 魔法攻撃力はあがらないものの、物理攻撃を半減する効果をもっています。

 とはいっても、元の防御力が大して高くないので、総合的には、序盤の軽鎧より、少し劣る程度になります。


「ああ、それなら、ご用意できますよ。店頭にたくさん並んでいますので、何着かお持ちしましょう。」


 そういって、アルムさんが、うれしそうに、武器庫から出て行きます。

 たくさんといっていましたから、やはり、『防刃ローブ』は人気のない装備のようです。

 元々、魔法使いは遠距離から、お互い魔法で撃ち合うことが多いので、物理攻撃にさらされることはあまりありません。

 ですので、せっかくの物理攻撃半減効果も宝の持ち腐れと、捉えられているのでしょう。

 それなら、魔法攻撃力もあがる普通のローブを、と考えるのはわからない話ではありません。

 それでも私は、底上げしにくい魔法使いの防御力をあげてくれる『防刃ローブ』派ですが……

 そんなことを考えていたら、アルムさんが戻ってきました。


「お待たせしました。色はこちらの黒、白、赤の3色になりますが、どちらがよろしいですか。」


「黒でおねがいします。」


 理由は、単純に、汚れが目立ちにくいからです。


「即答ですね。」


 アルムさんが少し驚いたような表情をしています。

 女性は物を選ぶのに、時間がかかるものだと思っていたのでしょうか。

 私は物を選ぶ前にはある程度、方向性を決めているので、あまり悩んだことはありません。


「それでは、他に欲しい物はありますか。」


「そうですね。あとは『お守リボン』と、なにか籠手か。手甲はありますか。」


『お守リボン』は状態異常全てを25%の確率で防いでくれるアクセサリーです。

 名前はちょっとアレですが、魔法防御も若干あがります。

 籠手や手甲は小手対策です。


「『お守リボン』は赤、青、黄色、黒、白の5色になりますが、どちらがよろしいですか。」


「赤でお願いします。」


「それで、手甲なのですが、こちらのガントレットを試していただけませんか?」


 前腕部を覆う手袋を、鎖帷子でコーティングして、さらにその上から鉄板を、要所、要所に貼り付けたような形状をしています。


「これはですね。軽くて、盾と同等の防御力を持たせられないかと開発したガントレットです。クロードさんやアリスさんのような2刀剣士は盾が持てませんから、そんな人たちのためにですね……」


「つまり、これを私が身につけることが、クロード様のためになると?」


 ガントレットを実際にはめてみて、指を動かしてみますが、動きを阻害する感じもなく、着け心地も悪くないです。

 私の負傷により、ガントレットの問題が浮き彫りになり、改良をされ、それを身に着けたクロード様が、より安全になるというのであれば、腕の1本や2本惜しくはありません。

 それに腕くらいなら、わりと簡単に回復魔法でつなぐことができるのは、モヒカン男が身をもって証明してくれました。


「? ええ、まあ。」


「わかりました。こちらを使わせていただきます。」


「それでは、一度、全てを身に着けていただけますか?それから細かい調整などを行います。必要であれば、マリアを呼びましょう。」


「いえ、上に着るだけですから、それには及びません。」


「では、私は外に出ていますので何かあれば、私かマリアに声を掛けてください。」


 アルムさんが出て行ったあと、まず、『防刃ローブ』を身に着けることにしました。

 ポンチョのように頭からかぶって、腕を通すだけなので簡単です。

 次に『お守リボン』で髪を後ろに纏めます。

 そして、ソードホルダーを腰に巻いて、両サイドに刀をセットします。

 ああ、クロード様に抱き締められている……

 いけません。

 気を取り直して、最後に、ガントレットを装着。しかし、この状態では左のブレスレットが使えなくなりますね。

 まあ、今はどちらにしても使えないので、いずれ、アルムさんに相談しましょう。

 さて、姿見で確認したところ、全身黒ずくめの上、両腰に刀、両腕は物々しい機械の義腕にみえます。

 おかしいですね。

 私としては、大正桜に浪漫の嵐な彼女を、イメージしたつもりはずなのに。

 これでフードを被ったら、どうみても暗殺者です。

 コーディネートとは難しいものですね。




 装備整えさせていただいてから、10日間、私は、与えられた刀で勘を取り戻すための稽古、この国の習慣を教えてもらいながらの家事の手伝い、武器屋の店番の3つをこなしながら、日々を過ごしていました。

 店番に関しましては、私は元々接客業の人間ですから、簡単な暗算ならできますし、即戦力になったと、アルムさんも大変喜んで下さいました。

 そして、今日もいつも通り店番をしていると、アルムさんに話しかけられました。


「アリスさんもここでの暮らしにも慣れてきたみたいだし、当初の予定通り、素材採集の方も手伝ってもらえないだろうかと思うんだけど。どうかな?」


 この10日間で、アルムさんの口調もずいぶんくだけてきました。


「私は構いませんが、アルムさんの足手まといにならないとよいのですが。」


 モンスターとの実戦などしたことはありませんので、稽古でだいぶ勘は取り戻せたとは思うのですが、不安ではあります。

 しかし、アルムさんたちには大変よくしていただいているので、断るわけにはいきません。

『働かざるもの喰うべからず』です。


「誰にでも、初めてはあるものだよ。それに、男3人相手を叩きのめせるアリスさんなら、今から行く洞窟程度は、大丈夫だと思うよ。」


「アルムさんは、私を過大評価していますわ。あのときは、本当に怖かったんですから。」


「そうだね。女性にはあの体験は辛かっただろうね。いやなことを思い出せてしまって、すまなかったね。」


「いえ、もう済んだことですし、そのおかげでアルムさんたちに出会えたわけですから、複雑な心境ではありますね。」


「そういってもらえるとありがたいね。 採集の方だけど、お昼の後と思っているから、よろしく頼むよ。」


「はい、かしこまりました。」


 そう言って、私が会釈をすると、アルムさんは工房に戻っていきました。

 私も、仕事に戻り、お昼まで店番をして過ごしました。




 昼食後、私はアルムさんとともに、件の洞窟に向かっていました。


「えっと、今からいく洞窟はそんなに危険な所なのですか?」


 アルムさんのいでたちは全身鎧に、背中には収納袋、そして、巨大なハンマーを担いだ姿です。

 ハンマーも柄の先がヘッド部分を突き抜けて、槍の穂先のようになっています。

 ちなみに、収納袋というのは、同じ種類の品物ならそれぞれ99個まで入る、非常に便利な荷物袋です。


「ああ、これはね、武器屋を始める前は、軍にいたからね、その時の名残なんだ。やはり、装備というのは自分の命を預けるものだから、使い慣れているものを選んでしまうんだよ。やっぱり、アリスさんはその格好でいくのかい。」


 私の装備は、件の暗殺者姿です。

 流石にフードまでは被っていません。


「見た目はともかく、現時点では、ベストの装備だと思っていますから。」


 本当は、胸当ても欲しかったのですが、戦時中で忙しいときに、新しく作って下さいとはとても言えません。


「まあ、本人がそう言うなら。ああ、もうすぐ目的地が見えてくるよ」


 私の目には、岩山に大きく口を開ける洞窟の姿が見えてきました。


「洞窟に入る前に、1つやることがあるから、アリスさんは入り口脇の壁を背にして待機していなさい。そして、決して洞窟の方を見ないように。」


「はい。」


 私はアルムさんの言うとおりにすると、彼に無言でうなずき返しました。


 すると、アルムさんは、収納袋からなにかを取り出すと、それをそのまま洞窟の中へ投げ入れました。そして、アルムさんは私と同じようにして、入り口脇の壁へ退避しました。

 そのすぐ後に複数のけたたましい何かの鳴き声が聞こえたかと思うと、大量の蝙蝠たちが大空へ飛び出していきました。


「アルムさん、一体何をしたのですか?」


「蝙蝠たちには少し出て行ってもらったんだよ。投げ入れたのは蝙蝠よけでね、僕たちには聞こえないけれど、蝙蝠たちが嫌がる音が出ているらしい。仕組みまではわからないけれどね。」


 なるほど、蝙蝠は視力が弱いので、超音波を使って空間を認識しているそうですから、その習性を利用したものかもしれません。


「今、灯りを点けるからもう少しだけ待っていなさい。」


 アルムさんが壁の窪みに球状のものを嵌めると、洞窟内の天井にポツポツと、灯りがともっていきました。


「それじゃあ、中に入ろうか。僕が先に行くから、後ろからついて来なさい。とくに、頭上には注意して。」


「頭上ですか?」


 上を見上げると、少し先の天井に、黒い球を包んだゼリーのようなものがこびりついていました。


「もしかして、アレですか?」


「早速出たね。アイツが最もこの洞窟で危険なやつだよ。見ていてごらん。」


 アルムさんが袋から干し肉を取り出して、ゼリーの真下に投げると、干し肉に向かってゼリーが降ってきました。そして、ゼリーが干し肉に取り付くと、熱した鉄板に水をかけたときのような音を立てながら、干し肉を溶かしていきます。


「こいつはスライムといって、動きは遅いけれど、天井からいきなり降ってくる上に、取り付かれたら何でも溶かしてしまうから、ちょっと厄介なんだ。でも、不意打ちさえ受けなければ、倒すのは簡単だから。」


 そう言って、アルムさんがハンマーの先にある槍部分で、スライムの中にある黒い球を突き刺すと、スライムはゼリー部分を広げて動かなくなりました。


「この黒い部分は、コアと言ってね、スライムの弱点なんだ。逆にここ以外を攻撃しても、ダメージはほとんど与えられないよ。コアを一突きにするのが、1番楽な倒し方だから覚えておいて。」


「はい、わかりました。」


 この世界のスライムとはずいぶん物騒な生き物ですね。私たちの世界で連想されるスライムといえば、しずく状のぷにぷにボディで体当たりしてくるイメージなのですが。


「後は、この洞窟にでてくるのは、あのネズミくらいだね。」


 アルムさんが指をさしたその先には、赤い点が2つみえます。


「ネズミ……ですか。」


「来るよ。気をつけて!」


 その声に触発されたのか、赤い点がだんだんこちらに近づいてきます。

 そして、闇の中からそのネズミが姿を現しました。


「ネズミってカピバラですか!」


「アキツシマではこいつのことをカピバラっていうのかい?」


「いえ、確かに私のいた地方では、この化物に似た動物をそう呼びます。しかし、この子は、それとは全く別の生物ですね。」


 カピバラとは、姿、形こそ似ていますが、目は赤く染まり、爛々と輝いています。

 そして、鋭い爪は人の皮膚など、簡単に切り裂いてしまいそうです。

 そんなことを考えている間にも、ネズミはどんどん距離を詰めてきて、こちらに向かってきます。


「アリスさん。私がアイツに一撃を加えるから、もし、仕留め損なったら、止めを刺して。スライムと違って、急所は普通の生物とかわらないから、やり方は任せるよ。」


 アルムさんが、私をかばうように前に出ながら、簡単なネズミのレクチャーをして下さいました。


「なるほど。」


 私は言われたとおり、後ろでネズミの様子を伺うことにします。

 ネズミは、歯を剥き出し、よだれを垂らしながら、アルムさんに飛び掛っていきます。

 アルムさんはそのタイミングに合わせて、ゴルフのスイングのように、ハンマーを振り上げました。

 ハンマーはネズミの顔面にヒットして、ネズミは宙を舞い、仰向けに地面に叩きつけられました。

 私は、そこをすかさず、刀をネズミの腹部から刃を入れて、心臓があるであろう位置を突き刺します。

 ネズミは、一瞬、体を震わせると、ぐったりとして、動かなくなりました。


「へぇ、アキツシマの剣は、『斬る剣』だと聞いていたけれど、アリスさんは突くんだね。」

「ええ、確実に止めを刺したいときにはですね。私にはクロード様のような膂力はありませんので、突きの方が信頼性は高いでしょうから……。と言っても、斬撃も当然使いますよ。私程度の腕では、突きは死に体になりやすいですから、斬撃で崩して、急所を一突きといったところでしょうか。」


 実際の剣道でも、突きは高校生からです。突きというのは、竹刀でさえ危険な、殺傷力の高い攻撃なのです。

 戦国時代の合戦では、甲冑の隙間から刃を入れて、相手を突き殺していたそうですし……。


「蝶のように舞、蜂のように刺すというところかな。」


「そこまで美しい戦い方ができるわけではありませんが……。そうですね。代わりといってはなんですが、『斬る』ところもお見せしましょうか。この刀の切れ味と、ネズミの毛皮の硬度なら、斬撃でも十分、有効打が与えられそうなので、戦闘時間は少し長くなるかもしれませんが、よろしいですか?」


「それは、是非、見てみたいね。頭上の相手は私がするから、地上のネズミ達はお願いするよ。」


「はい、お任せください。」


 これは刀の性能試験の機会と考え、ネズミ達には悪いのですが、試し斬りさせてもらいます。

 自分の命を預ける物ですから、どこかで必要になることです。

 それにネズミ達だって、死にたくはないでしょうから、仲間の血の匂いを嗅げば出てこなくなることでしょう。




 そう思っていた時期が、私にもありました。


「なんというか……。私は自分を過信していたよ。これからは、サムライやニンジャに命を狙われるようなことがあったら、裸足で逃げ出すことにするよ。」


「いえ、これは、この刀がすごいのであって、私が強い訳ではありませんよ。」


 ネズミ達の死体は、軍に届けて、ワイバーンのエサにするために、アルムさんが片付けてくれましたが、あたり一面の血の海が、惨劇を物語っています。

 結果から言うと、一振りで真っ二つでした。

 最初の1匹を瞬殺した時点で、こちらの力はしめしました。

 ですから、他のネズミ達が危険を察知して、こちらを避けてくれるものと思っていました。

 しかし、実際には、興奮した様子で、次々と襲い掛かってきました。

 それをひたすら迎撃した結果、起こった事態です。

 おかげで、この洞窟が、ゲーム中においてどこに当たるのか、見当がつきました。

『ワイバーンライダー』はMAP攻略式のSRPGなのですが、メインルートの攻略MAPの合間に、LV上げ用のMAPが用意されており、そこに何度も行くことができます。

 おそらく、ここはそのなかで一番簡単な、初心者の洞窟でしょう。

 出現モンスターも、バット、ラット、スライムと合致しています。

 考えてみれば、アキツシマを訪れるのは中盤です。

 ゲーム中に『二本刀』などという武器は登場していませんが、その頃に手に入るような武器で、最序盤の敵と交戦すれば一方的な戦いになるのは、当たり前ですね。

 とはいえ、か弱い乙女がこの世界で生き残るために、多少のLV上げは当然必要なため、 仕方のない部分もあるのです。

 ですが、決して、積極的に交戦を行ったわけではないのは、ご理解頂きたいとおもいます。


「でも、おかげで、楽に目的地に着けたよ。あの数のネズミを毎回相手にするのは、面倒だからね。」


「目的地というわりには、ただの行き止まりに見えるのですが、これから掘るのでしょうか。」


 目の前の岩肌には、つるはしなどで掘ったよう跡がなく、自然のままの岩肌に見えるのですが、大きな引っ掻き傷のある左の大きな丸い岩以外は……


「いや、今回は鉄を取りにきただけだから。」


 そう言いながら、アルムさんがその丸い岩を転がして、横に動かすと、直径1mぐらいの穴が顔を出しました。


「この先はほこりがすごいから、マスクをして進もう。」


 アルムさんが先に進んだあとで、私も言われた通り、マスクをして進むと、そこはどうやら倉庫のようでした。

 広さは電車の1両分くらいでしょうか。

 左右に棚があり、それがずっと奥まで続いています。

 棚にはふたのない箱が置いてあり、その中を覗き込むと、多少錆びてはいますが、ボルトやナット、鉄パイプなどが入っていました。


「アルムさんの言う鉄とは、この箱の中ですか。」


「そうじゃないのもあるけど、ほとんどがそうだね。じゃあ、どの棚の物でもいいから、鉄っぽい物を収納袋に詰めてもらえるかな。」


 これは、資材置き場なのではないのでしょうか

 ここは本当に異世界なのでしょうか。

 1度滅んだ私達の世界の未来に、飛ばされてしまったということは、ないでしょうか。

 我ながら、ファンタジーな考えですが、今、私の置かれている状況こそがファンタジーなので、強く否定もできません。

 まさかの事態に驚いて、足元にあった何かに、つまずきそうになりました。

 とりあえず、落ち着くために、つまずきの原因となったもの拾い上げました。

 それは赤茶色のラグビーボール状でした。

 大きさのわりに軽いですが、色からして、これも鉄なのでしょうか。

 アルムさんに尋ねようとしたその時、『鉄?』から1本の角が生えました。


「あ、アルムさん、鉄から角が生えたのですが。」


「あー、それは鉄じゃなくて……」

 アルムさんの答えを聞く前に角の周りから、『鉄?』にひびが入って割れると、角つきの白トカゲのつぶらな瞳と目が合いました。

 トカゲといっても、蝙蝠のような羽はありますし、肌は鱗状ではなく、粘液でぬめっているものの、ゴムボールの表面のようにすべすべしています。


「ワイバーンの卵だね。しかも、目が合っちゃったから、アリスさんがお母さん確定だね。」


 えっ、刷り込みですか。

 未来に飛ばされて、彼氏いない暦=年齢なのにもうお母さん?

 急にそんなのは困ります。

 まずはお友達から……。

 そうでなくって、どうしたらいいのでしょうか。

 ああ、でも、この仔可愛い。

 可愛いは正義で。

 いろんなことがいっぺんに起き過ぎて、なにがなんだか分からなくなってきました。

 どうしたらよかったのでしょうか。

 きっともう駄目なんでしょうか?


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