触れた光
それは、俺が光を取り戻してから2週間くらいがたったころだ。
いつものように、病院の庭を眺めながら帰っていると車椅子が見えた。
車椅子の女性があの中年女性に押され散歩していた。
ああ、お母さんは体調治ったんだな。
と勝手に安堵していた。
すると、いつもと違うことが起きた。
車椅子の女性がこちらに気付いたのだ。
俺は、心臓が飛び出るほど驚き、庭中に自分の心臓の音が聞こえるんではないかと思うほどどきどきしていた。
「あのー!そこに帽子落ちてません??」
「ぼ、帽子ですか?」
俺は、必死にあたりを見回し帽子を探した。
頼む、帽子あってくれ、彼女とかかわるきっかけとなってくれ。
そう強く願っていると、落ち葉が積もっているところに帽子が落ちていた。
「これ、ですかー??」
「あ!!それです!!ありがとうございます!」
「今、そっちに持っていきます。待っていてください。」
「申し訳ないです、ありがとうございます!」
俺は、幸せでいっぱいだった。
彼女と初めて会話することができたのだ。
そして、これから彼女の眼の前まで行きこの帽子を渡すことができる。
ただそれだけのことなのに、俺は嬉しくて嬉しくて今にもスキップしてしまいそうだった。
流石に抑えたが。
多分いつもより軽い足取りだっただろう。
病院の庭に入り、彼女に帽子を渡した。
「すいません、ありがとうございます。」
車椅子の女性と中年女性は俺に言った。
「いえいえ。」
そんな言葉しか口から出てこなかった。
今、このまま時間がたまってしまえばいい。
こんなにも近くで、彼女を見ることができるんなんて。
夢のような時間だった。
黙って見つめる俺に疑問を持った彼女は
「あの…どうかしましたか?」
「あ、いやすみません。なんでもないです。」
「びっくり、私お昼に食べた海苔がついてるのかもってどきどきしちゃいました。」
そんな、可愛らしいことをいって笑う彼女がたまらなく愛おしかった。
「すいません、初対面で失礼ですけど、お名前を聞いてもいいですか?」
「私も、聞きたいなと思ってたんですよ!水上桜と申します。あなたは?」
「僕は、藤島透です。」
「とおるって、どの漢字ですか?」
「透き通るってやつです。」
そういうと、彼女はなぜかくすくす笑っている。
「とおるさん?透き通るってどっちもとおるですよ?」
言われて初めて気づいた。
舞い上がっていた俺は変なたとえをいってしまっていた。
「あ、すいません、透き通るの透きのほうです。」
「すみません、上げ足とっちゃって。」
彼女は可愛らし笑顔でずっと笑っていた。