消えない光
あきらめようと、椅子から立ち上がろうとした。
その時、透き通るような綺麗な声が聞こえてきた。
その声を聞いた瞬間その声の持ち主がわかった。
車椅子の女性だ。
前と同じ男性に車椅子を押され外から中へ入ってきた。
俺は、自分でも想像ができないほどに落ち込んでいた。
わかっていたことなのに、どこかで期待していた。
「ありがとうございました。」
「なにも、毎回毎回そんなお礼いらないんだよ?」
「だって、私にとって庭を散歩できるのはとても素晴らしいことなんですもん。」
「そか、その素晴らしいことのお手伝いができて僕は嬉しいよ。」
「本当に、いつもありがとうございます。」
「いいんだよ。僕のせいで母が体調を崩してしまったんだし。」
「コウさんのせいじゃないです。どちらかというと、私のせいです。」
「さくらちゃんのせいじゃないよ。これだけは自信を持って言える。まあ、そのうち母もすぐよくなるさ。」
「また、お母さんとお散歩したいな。」
自分の中で、何がどうなっているのか整理ができなかった。
ただ、盗み聞きしてしまった罪悪感と、二人の会話から感じられる違和感、最悪のケースではないかもしれないという期待が入り混じって呆然としていた。
二人を眺めていると、車椅子の女性がこちらをちらりと見た。
視線に気づいたんだろう。きっと変な奴だと思われる。
だけど、目があった後彼女がしたのは、にこりと優しい笑顔を見せることだった。
俺は、彼女に何度目かの恋をした。