希望の光
この会社に勤め始めて、もう2年がたつ。
特に大企業なわけでもなく、だからといって明日にでもつぶれそうな会社なわけでもなくごく平凡な、一般企業だ。
昔から、特に夢などがあったわけではなく、とにかく職につけて特別金に困らない程度稼げればいいと思っていた。
成績だって、別に良くも悪くもなくとても普通だった。
だから、この会社は俺にとってすごくぴったりだと思う。
特に意気込んでやることもなく、ただただ平凡に仕事をこなしているだけでいい。
それで、割りと安定した給料が入るわけだ。
貢ぐ相手もいないから、食で贅沢をしなければ金が足りなくなることもない。それどころか、むしろたまっていっている。
こんな人生を、他人はつまらない人生だとかいうだろうけど、そんなのどうでもいい。
生活さえできていれば、生きてさえいれば、いつかはきっとなにか素晴らしいことに出会える。
それだけが、俺にとって唯一の希望といってもいい。
自分から何か変えるつもりもない。
なにもないならなくていい。
なんとなく生きて、なんとなく人生を終えて。
そんな感じでいいと思っていた。
去年までは。
この会社に勤めて1年がたつころ、いつも通り無気力に満ちていた俺は、仕事がとてもめんどくさくなり、はやめに切り上げて帰ることにした。
外は、暗くなるのが少し遅くなってきた頃で、つぼみたちが少し膨らんできていた。
いつも通りの道をいつも通り歩いていた。
帰り道の途中大きな中央病院がある。
そこには少し広い患者が散歩するための庭があり、桜の木がたくさん植えてある。
桜の時期になると、一面薄ピンクが広がりとても、綺麗だ。
何気なく、その庭を眺めながら歩いていた。
そこに、一台の車椅子を押した中年女性が歩いてきた。
向こうはこちらには気づいていないようだった。
なんとなく、その車椅子と女性を眺めていた。
車椅子に乗っているのは、髪が少し長い女性だった。
その女性がちらっと、こちらを見た。
その瞬間、俺はなにもできなくなった。
歩くことも、その女性から目を離すことも。
息をすることさえ忘れていた。
とても、美人だった。
一目惚れ。というのかもしれない。
だけど、そんな言葉で片付けられるほど簡単な気持ちじゃなかった。
その女性は、俺になんの関心も示さず、中年女性の押す車いすと一緒に消えてしまった。
中年女性と車椅子がみえなくなってから、やっと息をすることを思い出し、大きく吸い込んだ。
今起きた出来事が、信じられなく少しの間ぼーっとしてしまった。
この世にあんなにも綺麗な女性がいることが信じられなかった。
それから、会社から帰る時だけが人生のなかでの楽しみになった。