王子救出
ラウラの膝枕を堪能したまま、改めて、先ほどの現象を思い出した。
自分のウィンドウを開く。
そこには今までなかった『魔法』の項目が追加されていた。それを選択すると、『ポイゾナ』と『ファイヤーボール』が表示される。これは、おそらくだがラウラが覚えていた魔法だ。ボクはそれをコピーして自分のものとしてしまったのだろう。なに、このチート。いや、神様なんだから、これくらいはあってもいいんだろうけど。
だけど魔力の差だろうか。ボクの覚えている魔法ではラウラのそれに及ばない。いわば劣化コピーのようなものだろう。
今現在もラウラに触れているため、コピーできるものが表示されている。
勝手にコピーするのは申し訳なく思うが、こんな魔法なんてありえないし、不審がられそうだから説明できそうにない。
補助として『ヒール』だけコピーさせてもらった。
「よし、充分堪能しました」
ボクは起き上がって背伸びをした。
ラウラも立ち上がり、恥ずかしそうにボクの服の裾を掴んで俯いている。泣き顔を見せてしまったから、どう接していいか決めかねているのだろう。
「それじゃ、王子を助けに行こうか。大穴の中は迷路みたいになってるけど、場所は把握してるから大丈夫」
ボクはそう言って、先頭に立って歩き出した。
「・・・大丈夫、ですか?」
3分後、ボクはラウラに手を引かれて歩いていた。だって、仕方ないんだよ。
コウモリやネズミがうじゃうじゃいるんだもの。尻込みもするさ!
「ラウラはこういうの、平気なの?」
「剣が通じるなら、平気です。ゴーストも、魔法が通じるなら、怖くありません」
やだ、頼もしい。っていうか、ゴーストもいるのか・・・。
ファンタジー世界では常識かもしれないけど、今まで幽霊とか見たことないからなぁ。
見てみたいような、いや、やっぱり一生見なくていいや。
そんなことを考えてるボクを見て、ラウラはクスッと笑った。
「ヒロトって、変わってますよね」
「そう、かな?」
「はい。こうしてると、かわいい小動物みたいです」
20代の男をつかまえて小動物って・・・これでも身長170はあるんですけどね?
「・・・さっきみたいに・・・たまにかっこよかったり・・・」
今のは小さくて聞き取れなかった。ボクが改めて聞き直すと、ラウラに頬を軽くつねられた。
ラウラさん、今のでHP10減りました。致命傷ですわ。
そんなやりとりをしていると、ラウラの表情が急に真剣なものになった。そしてこちらから死角となっている正面の通路に意識を向ける。
「誰か、いますね」
ラウラがそう呟く。ボクにはまだそういった何者かの気配を感じ取ることはできない。どうやって習得していけば良いのだろうか。いや、その前にこのアジトの中に、山賊の一味はもう残っていなかったはずだ。確認のため、マップを表示する。うん、確かに正面に何者かが隠れている。それはこの大穴に残されていたただ一人の人物だった。
ヴィリオン国の王子。表示させた画面には、どこからか調達したのか、小ぶりの短剣を手に、隠れてこちらの様子を窺っている姿が映し出されている。ラウラもそれを確認し、剣から手を離す。
「王子様、そこにみえますよね? 私は冒険者のラウラ。あなたを助けに来ました。もう大丈夫です。山賊たちは全員倒しましたから」
ラウラは隠れている王子にそう告げる。王子も、女性の声が聞こえたことで安心したのか、そっと顔を覗かせた。王子は、まだ小さな子供だった。見た目、小学生高学年くらいだろうか。金髪蒼眼の、可愛らしい男の子だ。そしていま気づいたことだが、マップなどは暗がりで表示させると蛍光されている。この暗がりの大穴の中、直視ではなんとなく程度にしか見ることのできない王子も姿も、画面に映し出せばはっきりと確認することができる。実際に使用したことはないが、暗視スコープのようなものだろう。
「・・・本当か?」
王子が不安を含んだ声で聞き返す。まだ子供を思わせるソプラノボイスだ。
ラウラは「大丈夫ですよ」と不安がる王子の手を取り、出口に向かって歩いて行った。
・・・うん、待って。置いていかないでください。
陰気臭い大穴から抜け出し、外の清々しい光を浴びる。
・・・しかし、気分まで清々しくなることはなかった。外に出ると同時にむせ返るような鉄の臭いに気づく。凄惨、目の前の光景はその言葉が相応しい。ボクは思わず手で口元を覆う。
「なんだ・・・これは」
捕らえていたはずの山賊たち。彼らはひとり残らず、殺されていた。どう見ても自然死ではない。体のパーツがあちらこちらに飛び散っている。ボクらが離れてから僅か10分程の間に、である。
「ヒロト、この周辺の確認をお願いします!」
惨状を目の当たりにし、ボクは思考能力が停止していたが、剣を構えるラウラの言葉で我に返る。
そうだ。僅か10分程の間の出来事なのだ。山賊たちを手にかけた犯人が、まだ傍にいるはずなのだ。
ボクは震える手でマップを表示させる。山賊たちの反応はすでに消失している。先に捕らえていた7人の山賊の反応もない。考えたくはないが、そういうことなのだろう。
そして、この惨状を作り出したと思われる犯人の反応があった。
「ラウラ、右手、木の上!」
ボクがそう伝えたと同時に、ラウラは手をかざして魔法を唱える。
「飛べ、エアカッター!」
ラウラの掌から衝撃波が生まれる。それは見えない何かとなってボクが指示した木を裂いた。葉は散り、木の幹には猛獣がつけたような爪痕がビシッと刻まれる。
「・・・っ! ヒロト、下がって!」
風魔法が木に爪痕を刻み、僅か1秒にも満たない時間、ラウラは気配を察して前に躍り出る。そしてキィィンという高音の剣音が耳に響く。思わず耳を塞ぐボクの視界に入ったのは、ラウラと相対するローブ姿の男とも女とも分からぬ人物だった。
「・・・よく気づいた。そして、よく防いだ」
ローブ姿の人物が口を開く。しかしその言葉からも男女の判断がつかない。その言葉は機械じみた合成音声のようなものだったのだ。
ローブは続ける。
「背中を見せた瞬間に、心臓を一突きにしてやろうと思っていたのだがな」
ボクはローブのウィンドウを確認する。
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名前:ネビロス
レベル:116
HP:528000
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「は?」
ボクはローブの人物のウィンドウを何度も確認する。なんだ、レベル116って。ステータスも見るが、ボクは当然としても、ラウラでさえ届く数字ではない。
どうすればいい? どうすればいい? どうすればこの襲撃者から逃れることができる?
死神の鎌が、喉元に突きつけられているような状況で、ボクは手段を模索する。
そして、考えつく。分の悪い賭け。それを行うため、ボクは一歩踏み出した。
他の人の小説が面白くて自分のが進みません。
よって更新が遅くてもボクは悪くない、はず。