番外その1(仮
目を覚ます。
とても清々しい目覚めだ。こんなの、すっごい久しぶり。
私はもうひとりじゃないんだ。今日からは、私を認めてくれる仲間がいる。
ヒロトは、私を変人扱いしない。勇者を目指す冒険者として、普通に接しくれる。
嬉しいな。
私を理解してくれる大切な大切な仲間、ヒロト。今日からあの人をしっかり守っていかないとね!
「・・・あれ、これってヒロトの服?」
体を起こすと、右手に見覚えのある服が握られていた。ヒロトの着ていた服だ。とても変わった服だ。奇抜・・・っていうのかな?
防御力は高くないし、何かの属性が付与しているものでもない。見たこともない作りだけど、どこで売ってるんだろう。
「でも、なんでヒロトの服がここに?」
疑問は残るが、とりあえずヒロトに届けることにした。まずは身だしなみを整え、愛用の剣を抜く。
今日からは、守るものがある。頼りにしてるからね、相棒。
私はそう愛剣に、自分に告げる。そして剣を鞘に収める。
「おはよう、ヒロト!」
ヒロトの部屋へ行くと、なぜかヒロトは座禅を組んで瞑想を行っていた。
「煩悩退散煩悩退散・・・!」
なんだかブツブツ呟いていてこわい。ヒロトは部屋に入ってきた私に気づいて勢いよく頭を床に擦りつけた。
「な、何もしてません! 本当です、信じてください!」
「・・・なんのこと?」
相変わらずヒロトは変わってる。私はヒロトの手を引いて朝食に向かった。
朝食を終えて、私は改めてヒロトの姿を見る。
冒険者にしては軽装。おそらく冒険者ではないのかな? なんで森の中にいたのか訪ねたけど、困ったような顔をされてしまった。
聞かれたくないのかな? ヒロトが困るならもう聞かないよ?
ヒロトは抱えていたカバンの中に何が入っているか検めている。
「役に立たないものばかりだなぁ」
ヒロトはそう苦笑する。そう言って取り出したのは紙の束のようなもの。
「ヒロト、これは何?」
「トランプだよ。娯楽・・・っていえばいいのかな? ゲームで使う道具だよ」
・・・とらんぷ、初めて見たなぁ。ヒロトって商人なのかな? こんなの私の町ではなかった。
ヒロトからとらんぷを貸してもらう。特徴は赤と黒、それにマークに数字・・・くらいかな?
「ボクは手品・・・って言ってもわかんないかな。まぁ、こっちには魔法があるから驚くものでもないのか。必要なさそうだな・・・」
「てじなって? 見せて見せて!」
ヒロトはとらんぷの束をマークや数字が見えないように裏に伏せる。「混ぜて」と言われたので、順番を混ぜる。
ヒロトに見えないように一枚引くの? んー、それじゃこれにしよう。ハートの形をしたマーク。それに数字が6。
「それをじっと見つめて」
「・・・こう?」
私は言われるまま選んだとらんぷをじーっと見つめる。
ヒロトは私の顔を見ているみたい。このマークと数字を当てるの? 私の表情から当てるのかな? できるの?
「ハートの6・・・かな」
「!」
私は手にしていたとらんぷをヒロトに見せる。魔力は感じなかった。魔法は使ってないんだ。それなのにどうやって当てたんだろう。
ヒロトってすごい!
「どうやったの?」
「いや、秘密。簡単なんだけどね」
うー、気になるなぁ。魔法じゃないなら、適正とかなさそうだし・・・魔法を使わずに相手の心を読むのかな?
ちょっと試してみよう。
私はヒロトの顔をじーっと見つめる。
・・・ヒロト、私ね、仲間ができてすごい嬉しい! ヒロトを守れるように頑張るからね!
面と向かって言うのは恥ずかしいけど・・・読まれちゃったかな?
「・・・どうかした?」
ヒロトは困ったように頭を掻いている。今のは読めなかったみたい。
とらんぷ限定なのかな? 変な能力だなー。すごいけどね。
「さぁ、行こう。ヒロト!」
これから私とヒロトの冒険が始まる。すっごいドキドキする!
外に出ると、いつもと同じ空が、いつもより明るく感じた。
ちょっと息抜き。手品、好きなんです。
ファンタジー世界じゃ需要なさそうだけどね。