百万杯のコーヒー
ある女は二十歳の誕生日にふと思った。
「私の寿命はどれくらいなの?」と。
女は最近疲れ気味だったし、若く美しいままでいたいと思っていた。
年老いた自分など想像できない。
そこで、よく当たると評判の占い師のところへ行って尋ねた。
「私は何歳まで生きますか?」
すると占い師は
「人の寿命に関する質問にはお答えしないことになっております」
という答えだった。そこで女は
「何かヒントになるようなことを教えていただけませんか?」
「例えば?」
女は少し考えてサービスで出されたコーヒーを見た。そして
「例えば一生の間に何杯コーヒーを飲むかとか」
「それなら・・・」
と言って占い師は水晶玉を覗き込みしばらくすると
「大変珍しくきりの良い数字となりました。あなたが生涯で飲むコーヒーは百万杯ぴったりとなります」
女にはぴんとこなかった。
家に帰って計算してみる。
その当時女は、とりたててコーヒー好きではなかった。
一日一杯くらいのインスタントコーヒーを砂糖とミルクをたっぷり入れて飲んでいた。
アバウトに計算してみると一日一杯で三年で約千杯、三十年で一万杯、九十年で三万杯。
とても百万杯には届かない。
「私はよっぽどコーヒー好きになって、なお長寿ってこと?」
と首を傾げる。
数年後、プレゼントにコーヒーメーカーと上等なレギュラーコーヒーを貰いコーヒーのおいしさに目覚めた。
一日に何杯もブラックで飲むようになり、百万杯というのも間違いじゃないかもと思った。
女はやりがいのある職業に就き、素敵な恋人ができて結婚して子供を育てた。
いつも楽しく充実し、その合間にはゆったりとコーヒーを楽しむ豊かな時間があった。
しかしたまに思う。「何杯飲んだのだろう?」と。
さらに時が過ぎた。
女は病室で親族に囲まれ、若い頃、占い師に言われた思い出話をしている。
「・・・おかげでコーヒーを楽しめたわ。でもさすがに百万杯はありえなかったわね。そもそも占いを半分真に受けたことが間違いだったみたい・・・」
「・・・・・・」
「ってもっと早く気づけよ!」
と女は自分で自分に突っ込みを入れて、楽しそうに笑って生涯を閉じた。