表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

百万杯のコーヒー

作者: 梢美果

 ある女は二十歳の誕生日にふと思った。

「私の寿命はどれくらいなの?」と。

 女は最近疲れ気味だったし、若く美しいままでいたいと思っていた。

 年老いた自分など想像できない。

 そこで、よく当たると評判の占い師のところへ行って尋ねた。

「私は何歳まで生きますか?」

 すると占い師は

「人の寿命に関する質問にはお答えしないことになっております」

という答えだった。そこで女は

「何かヒントになるようなことを教えていただけませんか?」

「例えば?」

 女は少し考えてサービスで出されたコーヒーを見た。そして

「例えば一生の間に何杯コーヒーを飲むかとか」

「それなら・・・」

と言って占い師は水晶玉を覗き込みしばらくすると

「大変珍しくきりの良い数字となりました。あなたが生涯で飲むコーヒーは百万杯ぴったりとなります」

 女にはぴんとこなかった。

 家に帰って計算してみる。

 その当時女は、とりたててコーヒー好きではなかった。

 一日一杯くらいのインスタントコーヒーを砂糖とミルクをたっぷり入れて飲んでいた。

 アバウトに計算してみると一日一杯で三年で約千杯、三十年で一万杯、九十年で三万杯。

 とても百万杯には届かない。

「私はよっぽどコーヒー好きになって、なお長寿ってこと?」

と首を傾げる。

 数年後、プレゼントにコーヒーメーカーと上等なレギュラーコーヒーを貰いコーヒーのおいしさに目覚めた。

 一日に何杯もブラックで飲むようになり、百万杯というのも間違いじゃないかもと思った。

 女はやりがいのある職業に就き、素敵な恋人ができて結婚して子供を育てた。

 いつも楽しく充実し、その合間にはゆったりとコーヒーを楽しむ豊かな時間があった。

 しかしたまに思う。「何杯飲んだのだろう?」と。

 さらに時が過ぎた。

 女は病室で親族に囲まれ、若い頃、占い師に言われた思い出話をしている。

 「・・・おかげでコーヒーを楽しめたわ。でもさすがに百万杯はありえなかったわね。そもそも占いを半分真に受けたことが間違いだったみたい・・・」

「・・・・・・」

「ってもっと早く気づけよ!」

と女は自分で自分に突っ込みを入れて、楽しそうに笑って生涯を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  百万杯のコーヒー。  タイトルが短編らしくてステキです。  ちなみに。  私は毎日、だいたい四杯のコーヒーを飲みます。  朝、ファミレス三杯。  夜、ぽかぽか温泉で一杯。  これではとて…
[一言] 初めまして。 コーヒー好きの私にはちょっぴりドキッとする内容だったので、思わず感想を書いてしまいました。 毎日2~3杯飲む私。このストーリーと同じで一瞬計算しようとしてしまいましたが、確か…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ