表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

作者: 真希
掲載日:2006/01/19

はい。次にひろむ君の夢を聞いてみよう。

ひろむ君は将来、何になりたいのかな?先生に教えてくれる?


教えてもいいよ。だって、僕の夢について話を聞いてくれるヒトがなかなかいないんだもん。

はじめは頷いてくれるし、笑ってもくれるんだけど、真剣に聞いてくれないんだ。

どうしてかな。僕は夢を話してるだけなのに。

先生はちゃんと聞いてくれるよね?


もちろんよ。バカになんかしない。

だって、それはひろむ君を大きく成長させるものだって思うの。

夢って言うのは、目標よね。目標に向かって努力することは大事なのだから、

大切にしなきゃいけないわ。

ひろむ君が真剣なのだから、先生だって真剣に聞くわ。それが礼儀ですもの


礼儀ね。じゃあ、今まで僕の夢を聞きたがったヒトたちは、みんな礼儀知らずだ。

途中で目に涙を浮かべたり、何かに耐えながら話をさえぎって、僕は最後まで夢を語ったことはないもの。

うん、失礼なヒトたちだった。

夢は何?って、聞いてきたのはあっちなのに。途中で止めちゃうんだもんな。

ひどいよ。僕は最後まで言いたいのに。

ねえ、先生。聞いてくれる?本当に?


ええ


ああ、そうそう、話をする前に言っておくけど、僕にお菓子をくれなくていいからね。その間に救急車なんて呼ぼうとしても、無駄さ。頭なんか打ってない。前に大騒ぎになったことがあるからね、わかってるからね、先生。


……え?ええ


よし。なら、僕の夢を教えてあげるよ。

先生は僕の母さんが死んじゃったこと、知ってるよね?いやいや、寂しい、とかじゃないから、そんな顔しなくていいよ。ただ、死んでるってことを確認したかっただけさ。

――ね?思い出した?

母さんは死んでるんだ。僕が小学校にあがる前に。

それから、僕は父さんと一緒に暮らしている。

母さんがいなくなったから、父さんはいっつも忙しそうに会社でも家でも働いてるよ。

僕も手伝うけど、父さんみたいに情けない声をあげたりしない。父さんね、時々母さんの写真の前で、母さんと話してるんだ。僕が学校でいい成績取った時とか、雪が降った時もそうだったし、宝くじ当てた時とかも、色々ね。

僕が寝たあとで、こっそりやってるみたい。こっちは気づいてるんだけどね。

父さんは母さんの写真を見て、ぼそぼそって話して、その後ろから、僕らはこっそり見てるんだ。


僕ら?ひろむ君の家は、お父さんとひろむ君と二人で暮らしてるんじゃなかったかな?


そうだよ。でも、違う。

父さんも気づいてないんだ。だから、振り向かないの。

僕だけ知ってるんだ。


何を?


母さんだよ。

母さんがいるんだ。

――ああ、先生、頼むからその顔やめてくれない?抱きついてこられても迷惑だからね。

僕は真剣だよ。

写真に向かって話す父さんを、母さんと僕の二人で眺めてるんだ。父さんも早く、気づいて、母さんと面と向かって話せばいいのにね。

ま、母さんは夜しかいないんだけどね。料理も、洗濯もしてくれないけど、僕はそれで満足してるんだ。大好きな母さんだからね。

母さんが夜、僕の枕元にやってきて、優しく笑うんだ。

おはよう、ってね。

それで、二人で父さんをみて、くすくす笑ってるの。だって、父さんが全然気づかないのがおかしくってさ。こっちにいるのに、何でわざわざ写真に話し掛けているのかな。

そう思わない、先生?

あれ?何か言いたそうだね?まあ、いいや。これから僕の夢を話すんだ、しっかり聞いててね。

――父さんが風呂に入ってる時、母さんが僕に何度も繰り返して言うんだ。

探してくれって。

だから、それが僕の夢。

え?違うよ!母さんを探しに行くのが僕の夢なんかじゃないよ。だって、母さんは夜になると、僕に会いに来てくれるもの!探しに行く必要なんか、ないだろう?

……でもさ、やっぱり、母さんは死んでるんだよね。死んでるから、夜じゃないと帰って来ないんだろうね。わかってるよ。ちょっと、わからなくなる時があるだけさ。

母さんが生きているのか、死んでいるのかね。

――わかったよ!わかったから、その、目を潤ませるのやめてくれない?

話を戻すよ?

母さんは自分が死んでしまったから、僕の側に居る時間が短くて哀しんでるんだ。寂しいんだって。父さんが羨ましいって言ってた。

それでね、母さんも僕と永く一緒にいたいから、僕にお願いを頼んだんだ。

富士山へ行けってさ。

……何、その顔。驚いてる?母さんが僕に、有名なあの山へ登れ、と言ったのがそんなにびっくりするようなことかな?

ただの遠足じゃないよ。

先生、知ってる?あの山に長寿の薬が埋まってるんだって。

ちょうど、てっぺんに。

シャベルも持っていかなきゃね。

僕がその薬を取ってきて、母さんに渡すんだ。

そしたら母さん、また僕と一緒に居られるんだって。父さんと三人で、遊園地に行こうって約束してくれたよ。

だからね、僕、富士山に登るのが夢なんだ。母さんが行けって言ったのだけれど、僕は母さんと一緒に居たいから、これは僕の夢になると思うんだ。


僕、母さんのために、この夢を実現させたいんだ。

――ベッドに入って、目を閉じてから見る夢じゃないよ?あれは幻だろう?


……でも、本当かな?夢が幻だなんてさ。

だって、母さんはそこにいるのに。



おっと、そっちの夢の話じゃないね。

僕の将来の話だ。

富士山に登るのは、すぐに叶いそうな気がする。

まだ、あるよ。

聞いてくれるよね、先生?

――僕、消防車になりたい。

あ、今、バカにしただろう?やっぱり、僕のことをあわれな子供だと思ったんだろう?

けどね、頭がおかしくなったわけじゃないし、幼稚園に行っていたころとは違って、考えだってもっと大人びてる。

なぜ、僕が消防車になりたいのか。消防士じゃなくてね。

ただ間違えていっただけじゃないよ?

僕は、消防車になりたいんだ。

勢いよく水を噴射するあの消防車さ。かっこいいよ。

あるビルが火事になって、燃えちゃったんだ。

その時、僕は見てたんだ。消防車をね。回りにいっぱいヒトがいたけど、僕がそこに居るのには誰も気づいていなかったみたい。危ない、って避難させようってヒトはいなかった。

だから、火が消えるまで見てたんだ。

ビルの窓から逃げ遅れたヒトが、消防車に向かって手を振ってたんだ。

何か叫んでたけど、聞こえなかったな。耳を塞ぎたくなるような高い音が聞こえるだけで、何を話したいのかわからなかった。

消防車が水を吐き出すまで、そのヒトは手を振り続けてた。

消防車のホースの先が、そのヒトに向けられた。水飛沫がビルをぬらしていくんだ。

なかなか火は消えなかったけどね。だんだん、炎みたいに激しく燃えてった。

爆発音みたいなのが聞こえて、真白な炎が僕の肌を熱く照らしてた。

その日は寒かったからね、ちょっと暖かかった。

窓から半分身を出して、そのヒトは泣いてた。

火があんまりまぶしくて、そのヒトは真っ黒に見えたな。髪も爆発でとんじゃったみたい。

服もちゃんと着てなかった。ああ、でも、赤いような、黒いような服が全身に張り付いてたっけ?ってことは、ちゃんと服を着てたのかな。僕はてっきり、炎で服が燃えちゃったのかと思ったけど。どうしてかな、そのヒトは赤くて黒い服を着てたんだ。

――先生?どうしたの?口を抑えて?吐きたいの?トイレ行ってくれば?

平気?そうかな?全然、平気そうじゃないよ、顔色悪い。

僕もね、あの時は吐きたかったよ。何か、変な臭いがしてさ。

鼻を投げ捨てたかったくらいさ。なんだったんだろう、あの臭さ。すんごい、臭いんだ。

その臭いが、さらに強く感じたのは、消防車がそのヒトに水を浴びさせた時さ。

じゅうううううううう。

もくもくって煙がいっぱい見えた。そのヒトが見えなくなってしまうほど、凄い量の煙だった。

消防車が水をたくさんかけて、香ばしい臭いを広げたんだ。

そばにいたおばさんが泣きながら、どこかへ走って行っちゃったけど、何か哀しかったのかな?

手を振ってたヒトが動かなくなって、水がそのヒトにかけられて、それからが面白かったんだ。

落ちてきたんだよ。

そのヒトがね。

水がもっと欲しくなったんじゃないよ。窓から出てた体をさらに前へ突き出したんじゃなくて、そのヒトの体――半分に折れちゃったんだ。

下半身は燃えるビルの中に置き忘れて、上半身だけ窓から滑り落ちたんだ。

落ちてきて、誰かが悲鳴をあげて、それからサイレンの音がひどく大きくなって聞こえた。

黒焦げのヒトだったよ。

え?ああ、うん、そう。僕のいたところから、ちょうど見えたんだ。

黒い服を着ていたと思ったら、それは黒く焦げたそのヒトの肌だった。

赤い服だと思ったら、それは――真っ赤な血だったよ。


まるで、夢の中に出てくるあいつの瞳だった。

あいつの瞳の色も真っ赤だったんだ――


けど、あいつの瞳は怖いけど、血は怖くないよ。

だって、僕のこの体にも血は流れてるからね。見ても、恐怖はない。

怖いのは、あいつさ。

夢の中で、あいつはあの赤い瞳で、僕に笑いかけるんだ。

夢の中だからね、自分の思ったように体は動いてくれない。何十倍も重い体をひきずってでも、逃げたいのに、逃げたくても、回りは真っ暗で何も見えない。出口なんて、元からないのさ。

出口なんてあったら、大変さ。あいつが外へ出てしまうからね。

あの赤い瞳が、後ろで笑ってるんじゃないかって、いつも怯えていないといけなくなる。


……ああ、コワイ。

僕は消防車になって、あの赤い瞳を水で消すんだ。

あのヒトに血を着せたように、あの赤い瞳も、ただの血に変えてやる。

あの瞳が――なくなればいいのに……


そうだ。小説家になるのもいいな。

僕が夜になってベッドにもぐって、夢で見たことを全部、書き記すんだ。そうして、教えてあげるんだ。

あいつが近づいてきていることを。

あいつがもう、目を覚ましていることを。


チャンスを待ってるんだ。


僕が誰かに――先生でも、友達でも、父さんでも、とにかく誰かに伝えてあげるんだ。


誰か、あいつを倒せるかもしれない。


誰か、あいつから逃れる術をみつけてくれるかもしれない。


誰か、あいつを眠らせる方法を思いつくかもしれない。


誰か。





先生、先生はどっちが良いと思う?

消防車と小説家だったら、僕はどちらになるべきだろうか?

どちらも捨てがたい。

う〜ん、決められないな。


……先生?

寝ちゃったの?僕の話、最後まで聞いてた?

どうして動かないのさ。

もうっ。

先生も礼儀知らずだなあ。

いいさ、好きなだけ眠るといい。


先生、僕はもう帰るからね。


……真っ赤な夕陽が黄昏を告げているんだ。


――どんな夢を見ているのか知らないけど、目が覚めた時、僕は先生の夢について聞きたくなんかないからね……



ホラーを書いてみたかったのですが、ホラーの対象がうまく書けませんでした。なにやら、ごちゃごちゃに……(汗)

寒気を感じなくとも、少しの間、心に闇色の背景を思い浮かべてくれるだけで、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ