春休み
「いつも言ってるでしょ? 私はあいつが大嫌いで、あいつも私が大嫌い」
「うん、それはいつも聞いてるね。でもそれってタテマエでしょ?」
まあね、何度もこんなことをやってれば私の言葉は嘘だって言われることも自然と多くなる。嘘じゃないんだけどなあ。
「建前じゃないってば」
とりあえず否定。
「いーや、タテマエだね」
すぐさまそれを否定される。でもさ、透子、カタカナ漢字は子供っぽいよ。
「じゃあ、私とあいつが噂になるのは何故か教えてくれる?」
諦めて少し違う方向に話を持っていく。透子はそれに気付かず、半分ほど残っているオレンジジュースを少し飲むと無邪気に理由を挙げていく。
「えーっと、あんまり喋らない蛍君が憂子ちゃんとは喋っているところとか?」
なんだそれ、あほらしい。
「あとは、二人ともみんなから『君』、『ちゃん』がついてるでしょ? だからなんか他の人と違う感じっていうか……」
変な話だ。それなら誰でも噂になるじゃない、そんな軽いものだから噂と呼ばれるのだろうけれど。それでも変だし、言われるのは嫌。
私は少し冷めたコーヒーをぐっと飲み干して、溜息をつく。一方透子は楽しそうに、ストローをくわえて少しずつオレンジジュースを吸い込む。
「透子、お行儀が悪い」
私に指摘されると透子は肩をすくめてずーっ、と全部を飲み干して息をつく。
「ねえ、憂子ちゃん。いいこと思いついたんだけど」
「何を」
どうせろくなことではないだろうと思いつつ、聞き返す。透子はにやにやしながら少しの時間を置き、口を開く。
「憂子ちゃんと蛍君のことを見守ろうと思うんだ」
……やっぱりろくなことじゃなかった。
額に手を当て、さっき吐き出したばかりの溜息を、もう一度、今度は深く吐き出した。