春休み
「おはよ、憂子ちゃん!」
「おはよう」
十時は「こんにちは」じゃないのか、と思いつつも透子に合わせて挨拶。くりっとした目が細められ、愛らしさが滲む。
「今日の用は?」
背が普通より少し高めの私が低めの透子を見下ろして聞くと、一瞬ぽかん、としてから返事をする。絶対忘れていたな。
「ほら、もうすぐ始業式でしょ? だから買い物!」
筆箱でしょー、ポーチでしょー、ノートも買わないとなんだよねー、指折り数え始める透子を尻目に、私も思い出す。
始業式、か。
「でも憂子ちゃん、オシャレしてきてって言ったでしょー」
私が思考に深くはまる直前、透子の声が聞こえて我に返る。彼女の声は責めるような部分がほとんどないのが不思議、名前通り透明な子、なのかな。
そんな考えの後、透子の言葉を咀嚼して呑み込むと、目線を服にやる。
私はジーンズに薄手の長袖、上にチェック柄のシャツワンピで、普通にまとめた。
透子は黒のサロペットで、髪をアップにしたり、腕にシュシュをつけたりと細かい部分に気を使っていて、あんまりくどくもないし、彼女っぽい。
「まあいっか、行く?」
私は頷いて「行く」と返事をした。