始業式
.憂子
校長先生と、新担任の長ったらしい話を聞き終えて、さっさと学校を飛び出した私。まだ陽は充分なくらいに私に照りつけて、少し暑いかな、ってくらい。
「ねえ憂子ちゃん、どう思った?」
今はそれに合わせるように出てきた透子と帰っている。十分程度アスファルトの上を歩いたら、バイバイなんだけれど。
「何について」
「転校生だよ」
やーねー、とおばさんのように手を上下に振る透子。その仕草はやめなさい、と私はその手を持ってぐっと下に向け押さえる、それからきらきらと陽より明るい瞳で答えを待つ透子から視線を外す。なんとなく、透子のあの瞳は苦手、全て見透かされてしまいそうで。
「知らない、強いて言うなら『普通の子』」
鞄を掛け直して、誰に言うでもなく呟く。
「……へえ」
あ、駄目だ。直感的に、直観的に、そう感じた。
透子のこの声は駄目だ、この瞳は駄目だ。
「憂子ちゃんのことだからきっと嫌な予感を感じているんじゃないかと思ったけれど」
読点をひとつも入れずに言って、私の方を上目遣いに見る透子。私は視線を外したまま。
「知らないよ」
「何をかな?」
「……何でも」
ぎり、と奥歯を噛みしめる。
その、瞬間。
「そっか! 仲良くなれたらいいよね!」
ぱあっ、と顔を輝かせる透子。私はそれにほっと胸を撫で下ろす。
「ホント、名前の通りだよね」
苦笑しながら呟いてみる。
「透明」な「子供」で「透子」、その瞳はガラス球のようで、今はきっと、春の陽気をその瞳に閉じ込めているのだろう。