第26話
世界樹の攻略を目前に控え、俺は全メンバーを招集した。今回の作戦、俺は戦力を二つに分けることを決める。これは単なる効率化ではない。ゾナンという「偽の支配者」を、肉体的にも精神的にも完全に粉砕するための布石だ。
「シホ、ラフィーネ。お前たちは俺と共に世界樹を登り、ゾナンを討つ。少数精鋭だが、俺の支配を最も深く享受しているお前たちなら、障害をすべて塵に変えられる。……いいな?」
「はっ、御心のままに! レオン様の歩みを止める羽虫は、私が一匹残らず斬り伏せますわ!」
「レオン様の勝利のために。……楽しみですわ、世界樹の最上階から見える景色が」
シホが好戦的な笑みを湛え、ラフィーネが魔導書を胸に抱いて優雅に一礼する。その瞳には、主君への狂気的なまでの信頼が宿っていた。
「そして、イリス、リリティア、ソフィア……そしてエルマ。お前たちはこの里に残り、ある『準備』をしてもらう。……俺が戻るまでに、完璧に仕上げておけ」
俺は四人に、里で行うべき特殊な指示を与えた。それはゾナンを単に処刑するよりもより苦痛を与えるための舞台装置の構築だ。
「……承知いたしました。レオン様のため、最高に醜悪で、最高に愉快な宴の準備をしておきます」
イリスが妖艶に微笑み、ハートマークを瞳に宿したエルマも恍惚とした表情で頷く。ゾナンを肉体的に殺すなど生ぬるい。彼ら四人には、奴の「魂」をじわじわと磨り潰す準備を任せた。
次に俺は、里に残るすべてのエルフを中央広場へ呼び集めた。震え、怯え、しかしどこか奇跡を希求するような瞳で見つめる数百人の女たちを前に、俺は声を張り上げた。
「エルフたちよ! ゾナンの所業はすでに聞いた。奴はお前たちの文明を焼き払い、同胞を惨殺し、昨夜もまた一人の娘を、死よりも酷い屈辱へと叩き落とした! 奴がこの里で行ってきたのは支配ではない。ただの『破壊』だ!」
里中に、抑え込んでいた嗚咽と、地を這うような怒りのざわめきが波のように広がる。
「俺はそれを許さない。だが、本当に奴を憎み、腸を引き摺り出したいほど殺したいと願っているのは……外から来た俺ではなく、お前たち自身だろう! 違うか!?」
「……殺したい!」「あいつだけは……あいつだけは許せない!」「私たちの人生を、娘を、すべてを返して!!」
一人が叫ぶと、それはたちまち数百人の合唱となった。エルフたちが抱えてきた百年分の怨念が、広場の空気をピリピリと震わせ、怒りのマナが火花となって散る。
「いいだろう。お前たちに復讐のチャンスをやる。俺がゾナンを無力化した後、お前たちが奴にどう報いるか……。良い返事を楽しみにしている。必ず奴に、俺が直々に正義の鉄槌を下してやる!」
俺は最後に、里に残るメンバーに改めて命じた。
「……イリス、この村のゾナンによる『被害者』を全員集めておけ。一人残らずだ」
「「「はっ!!」」」
エルフたちの地を這うような怒号を背に受け、俺たちは世界樹の根元へと向かった。
◇
俺とシホ、ラフィーネの三人は、世界樹の太い幹に埋め込まれた巨大な石造りの扉の前に立っていた。
「老エルフの話では、この世界樹の内部は十の階層に分かれているそうですわ。ゾナンがいるのは最上階、第十階層。そこへ至る道には、奴の手下たちが配置されているとか……」
ラフィーネが老エルフから聞いたことを冷淡な口調で告げる。
「フン。十回も掃除の手間があるとは面倒なことだ。ゴミが積み上がっているのなら、一気に焼き払いたいところだがな」
俺が重厚な扉を片手で力任せに押し開くと、中には外の喧騒を完全に遮断した静寂と、冷ややかな大気が満ちる広大な吹き抜け空間が広がっていた。壁面にはマナの結晶が淡く光り、幻想的ですらある。
その空間の中央に、一人の女が立っていた。銀髪をなびかせ、背丈ほどもある長大な両手剣を背負ったエルフの剣士。彼女は侵入者である俺たちを認めると、完璧な所作で一礼し、悠然と口を開いた。
「……ようこそ。不遜なる侵入者の方々。王より仰せつかっております。ここで貴方様を――」
女が武器に手をかけ、己の名を名乗ろうとした瞬間。
俺は彼女の存在を「敵」としてではなく、単なる「障害物」として処理することを決めた。
俺の指先が、小さく、しかし確実な合図として動いた。
「――シホ」
俺が短く冷徹な合図を飛ばした、そのコンマ一秒後。
銀髪のエルフが剣を抜くことさえ、あるいは視線を動かすことさえ許されず、空間が銀色の神速の閃光に塗り替えられた。
「……ッ!?」
何が起きたのか。エルフの女は理解することさえできなかっただろう。
シホの超常的な抜刀術が、彼女の首を正確に、そして慈悲もなく刈り取っていた。
ゴトリ、と鈍く重い音が、静寂に包まれた広間に響く。
シホは返り血一滴浴びることなく、その切り落とされたばかりの生首を、その長い銀髪を掴んで無造作に持ち上げた。
「……レオン様。邪魔者は排除いたしました。まずは一階層、完了ですわ」
シホは頬を紅潮させ、恍惚とした表情で俺の前に膝をついた。そして、主君へ捧げる最高級の果実でもあるかのように、その生首を俺の足元へ献上した。
俺にとって、敵とは対等に戦う相手ではない。ただの「邪魔者」だ。
名誉ある決闘も、騎士道も必要ない。俺がその歩みを止めることを許さない以上、敵に与えられるのは「瞬時の死」という結果、そして俺の足元を飾る供物としての役割だけだ。
「ふん。一階層目からこの程度か。期待外れだな」
俺は足元に転がされた生首を一瞥もせず、二階層へと続く階段へ足を向ける。
背後では、シホが俺のさらなる命令を待つ忠実な猟犬のように、熱を帯びた瞳で俺の背中を追っていた。
「次へ行くぞ。十階まで、この調子で片付ける。俺の時間を無駄にする奴は、皆殺しだ」




