第23話
老エルフが用意してくれたのは里の端にある古びた木の家だった。「男女別で」という配慮は、俺の部屋の扉が開いた瞬間に無意味なものとなった。
「……おい、お前ら。少しは遠慮という言葉を知らないのか?」
俺の狭い個室は、五人の美女たちの熱気と甘い吐息で飽和状態だった。シホ、ラフィーネ、イリス、ソフィア、リリティア。彼女たちは当然のように、俺の周囲の「領土」を奪い合っている。
「レオン様のお側こそが私達の定位置。離れるなど死ぬより苦痛ですわ」
イリスが潤んだ瞳で俺を見上げ、甘えるように腕を絡めてくる。すると、最近とくに積極的なソフィアが、反対側から俺の手をそっと取り、自分の柔らかい頭の上に導いた。
「レオン神様……えへへ、撫でてください……もっと、強く……っ。レオン神様の大きな手に支配されていると思うと、私……幸せすぎてどうにかなりそうです……えへへ……っ」
蕩けた顔で自ら手の平に頭を擦り付けてくるソフィア。そのあまりの可愛らしさに、俺も思わず指先で彼女の髪を弄る。
「……ふっ、いい傾向だ、ソフィア」
「っ! は、はい……! レオン様にそう言っていただけるなら、私、一生こうしていたいです……!」
その様子を見ていたリリティアが、我慢できなくなったように俺の膝の上に飛び乗ってきた。
「レオン様! わたくしも、わたくしも撫でてくださらないと嫌ですわ! ほら、ここですわよ?」
俺の首に腕を回し、顔を至近距離まで近づけてくるリリティア。鼻腔を彼女たちの異なる甘い香りが突き、俺の膝にはリリティアの柔らかい感触が伝わる。
シホやラフィーネから、リリティアに向けて隠しきれない殺気が放たれる。
「リリティア、あまり動くな。……それと、他の奴らの殺気をどうにかしろ。喧嘩が勃発してこのボロ家を吹き飛ばされるのは御免だ。……ほら、一度降りろ」
俺が宥めるようにリリティアの頭を撫でて降ろすと、彼女は「むぅ」と頬を膨らませながらも、俺の指先の感触を反芻するように自分の髪を触っていた。
「さて、明日の話だ」
俺の声に、それまでイチャついていた彼女たちが一瞬で真剣な、しかし愛に満ちた瞳を俺に向ける。
「まずはゾナンの『聖霊の力』を調査する。勇者ほどではないだろうが、未知の力だ。万が一にも、お前たちをあんなゴミのために失うわけにはいかないからな。……お前たちは、俺の宝だ」
「「「…………っ!!」」」
全員が顔を赤らめ、感極まったように身を震わせる。
「レオン!……そんな……私たちを宝だなんて……!」
「あぁ、もう……レオン様のためなら、この命、何度でも捧げられますわ……!」
彼女たちの忠誠という名の狂愛が、さらに温度を上げるのを感じながら、俺はあくびを一つした。
「さて、寝るか。……だが、この家には枕すらないのか」
「ババアを殺してきましょうか? 奴の家を漁れば枕の一つや二つ……」
シホが即座に立ち上がろうとするのを、俺は手で制した。
「物騒なことを言うな。そうだな……枕がないなら、お前たちで作ればいい。……イリス、お前に膝枕をさせてやろう」
「えっ……あぁっ、レオン様ぁ……! 光栄ですわっ、さあ、どうぞ!」
イリスが狂喜乱舞して太ももを叩くが、すぐさま他のメンバーから「待った」がかかる。
「ずるいですわイリス! いつも貴女ばかり!」
「そうです! 公平な支配を求めます!」
俺は騒がしい彼女たちを見渡し、ニヤリと笑った。
「却下だ。リリティアとソフィア、お前たちは太ももが細すぎて枕には向かん。シホ、お前は筋肉質で硬すぎる。……というわけで、ラフィーネ。お前がしろ」
「えっ……わ、わたくし、ですか……っ?」
ラフィーネは顔を一瞬で林檎のように赤くした。俺は躊躇なく、彼女の柔らかい太ももに頭を預ける。
「ふむ……適度な弾力と、心地よい体温。これは最高だな、ラフィーネ」
「ひ、ひ、ひぎゃあああああああ……っ!!」
レオンの頭が自分の脚に乗っているという現実に、ラフィーネの脳内麻薬が飽和した。彼女は白目を剥き、幸せの絶頂で鼻から一筋の血を流しながら、「幸せですわ……」と呟いてそのまま気絶した。
「……全く。だが、このまま枕として使わせてもらうぞ」
他の四人が、気絶したラフィーネを殺気混じりの羨望で見つめている。
「仕方ない。……睡眠の邪魔をしないなら、どこかに触れながら寝ることを許可してやる」
その瞬間、俺の体は「獲物」になった。右腕をシホが抱きしめ、左腕をイリスが独占する。足元にはリリティアとソフィアが絡みつく。
俺は五人の美女の温もりと、蕩けるような愛の重みを感じながら、深い眠りに落ちた。
◇
翌朝。
顔に当たる柔らかい感触と、首筋をくすぐる吐息で目が覚めた。
「……ん、レオン……大好き……愛しているぞ……」
見ると、シホが俺の上に完全に覆い被さり、幸せそうに俺の胸に顔を埋めて眠っていた。シホの豊かな胸の感触がダイレクトに伝わり、朝から少々刺激が強い。
「おいシホ、起きろ。幸せそうな顔してないで、どけ」
「ん……あ、おはようございます、レオン……。ふふ、最高の目覚めだ。ずっとこうしていたい……」
シホが名残惜しそうに俺から離れようとした、その時だった。
「いやあああああああああああーーーーっ!!!」
里の静寂を切り裂く、悲鳴。
俺たちは瞬時に甘い空気を脱ぎ捨て、鋭い刃のような表情で外へ飛び出した。
世界樹の巨大な根元。そこに、エルフたちが絶望に顔を歪めて集まっていた。
「どけ」
俺が群衆を割って入った先に、それはいた。
一人の若いエルフの娘。
全裸のまま放り出された彼女の体には、酷い打撲痕と、噛み跡、そして執拗な損壊の跡が刻まれていた。
何より異様なのは、その顔だ。
瞳からは意思の光が一切消え、ただ口元だけが歪に吊り上がっている。
心が完全に壊れ、絶望のあまり「死んだように笑っている」のだ。
「……あぁ、ゾナン様が……ゾナン様がまた一人、お壊しになった……!」
老エルフの震える声。
俺は、自分の「所有物」をただ壊して喜ぶゾナンという男のやり口に、心底からの不快感を覚えた。
「……趣味の悪い。支配とは、生かしてこそ価値があるものを」
俺の背後で、シホやイリスたちが凍りつくような殺気を放っていた。
彼女たちにとって、自分たちがこれほど愛し崇拝するレオンの「支配」を、あんな汚らわしいやり方で汚すゾナンは、もはや生かしておけない害虫だった。




