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第20話

 強烈な眩暈の後、俺が目を覚ますと、そこは真っ白な空間だった。

 足元以外、どこまでも純粋な白が広がっている。まるで、何もない虚無に放り込まれたかのようだ。


 パーティーメンバーたちとの支配の繋がりは感じ取れる。だが、念話は使えないようだ。この空間は、思考による直接的なコミュニケーションを遮断している。


「小細工か、会話すらままならぬように仕向けるとは、随分と姑息な結界だ」


 その白い空間の中央には、黒いローブと深いフードを被り、顔が見えない男が立っていた。その背後には、異様に大きな黒い扉がある。

 フードの男は、俺の存在を認識すると、静かに声をかけてきた。


「挑戦者よ。ここは、お前の心の真贋を試す結界だ。先に進みたければ、提示された試練を突破せよ」


 フードの男の頭上に、文字が浮かび上がる。


【試練:お前が最も愛する者への断罪を証明せよ】


「第一の試練。お前が持つ、過去の愛する者を殺せ。お前の内にある、最も純粋な愛情を、お前の手で否定せよ」


 その言葉と共に、俺の目の前に幻影が現れた。それは、俺の母親の姿だった。

 俺はため息をついた。


「くだらん。結界のくせに、随分とありきたりな心理学だな」


 幻影の母親は、憎悪に満ちた表情で俺を見つめる。


「レオン。お前は私を裏切った。私から逃げた! この私を殺せば、お前は本当に一人になるぞ! 愛する者を殺すなど、人間として許されると思うのか!」


 俺は冷笑した。


「馬鹿げている。誰もが、親に愛されて育ったと思うなよ。愛と支配を履き違えた、お前のような存在に、俺の愛を語る資格はない」


 俺にとって、母親は愛の証明としての支配を、暴力で強いていた存在だ。それは愛ではなく、恐怖だった。

 俺は躊躇なく魔力を収束させ、幻影の母親の頭部を狙って圧縮した魔弾を放った。ドガッという音と共に、幻影は塵となって消え去る。


「ただ恐怖だけを与えた存在など、俺の愛する者ではない。試練と呼ぶのもおこがましい。どうせなら会ったことのない父親の幻影を出すべきだったな」


 フードの男は、俺の冷酷さに無反応だったが、背後の黒い扉が軋みながら、ゆっくりと開かれた。


 俺は開かれた扉の先に進んだ。そこもまた、先ほどと全く同じ、真っ白な空間が広がっている。

 フードの男は再び声をかける。


【試練:今愛するもののために、お前の命を差し出せ】


「第二の試練。お前が今、最も愛し、支配している者たちのために、お前自身の命を捧げよ。真の支配者は、配下のために自己を犠牲にする愛を見せるはずだ」


 そう言って、俺の目の前に幻影が現れた。それは、倒れ伏したシホ、ラフィーネ、リリティア、イリス、ソフィア、ネムムの六人の姿だった。

 俺は腕を組み、考えるポーズを取った。


「フン。本当に馬鹿な問いだ。俺が支配者なのは、俺の命が、配下全員の命よりも遥かに重いからだろう」


 俺は支配者だ。支配者が、支配される者のために命を差し出すわけがない。

だが、このままでは扉を開けられない。


(どう突破したらいい? 俺は自分の命を差し出すつもりは一切ないが)


 俺はハッと閃いた。俺には素晴らしいスキルがあるじゃないか。

 俺は一歩、フードの男に近づいた。


「俺だけにしかできない攻略法だな」


 俺はフードの男に向かって、全ての魔力を込めた「絶対服従(テイム)」を放った。


「開けろ、この扉を! 俺に服従しろ! 俺の支配下に入れ!」


フードの男の体が激しく痙攣し、次の瞬間、「ゴゴゴゴ……」と音を立てて、背後の黒い扉が勝手に開いてしまった。


 俺は勝利の笑みを浮かべた。


「見たか、結界の番人よ」


 俺は開いた扉の先に進んだ。三度、同じ白い空間。しかし、今度はフードの男は立っていない。二度も同じ手を使わせないつもりだろう。

 フードの男の声だけが、空間に響き渡る。声には、わずかな動揺が混じっているようだった。


【試練:お前が愛する者の命と、全人類の命。どちらかを選べ】


「これは、全人類の未来に関わる問いだ。選択を間違えれば、お前は永遠にこの空間を彷徨うことになるぞ」


俺は迷いなく、即答した。


「俺が愛する者の命に決まっているだろう」


「全人類の命を捨てる、と?」


「そうだ。全人類? どうでもいい。俺が支配しない人類など、無価値な石ころに等しい。配下こそが、俺にとっての全てであり、俺の愛の結晶だ」


 俺の答えを聞くと、すぐに背後の扉が開いた。


「貴様らは異常だ」


 吐き捨てるように言う

 俺は口角を上げた。


「フン。俺たちにまともな倫理を求めるなよ」


 扉の向こう側は、先ほど俺が気絶した森の土の匂いと、新鮮な空気だった。レオンは、歪んだ倫理観と圧倒的な力により、迷いの森の結界をあっさりと突破したのだった。

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