赤の危険信号
交流戦、二日目。
俺たちは早々に起床して早速拠点探しに出ていた。
ライナも朝が強い方で助かった。
まだ日も登って間もない。
夏頃なので太陽の出的に午前五時あたりだろうか。
カチカチ。カチカチカチ。
二人の歩く足が止まる。
何か物音がする。近い。
俺は無言でライナにゆっくり行くぞと指で合図をする。
ライナもその意図を汲み取り、頷いた。
ゆっくり歩く。一歩。一歩。
「くっそ。明日までこんな獣臭いのばっか食わなきゃなんねーのかよ」
「仕方ないだろ。我慢しろ」
「おい、少し静かにしろ。何が起こるかわからないだろう」
「こんな朝っぱらから行動してるバカなんていねーよ」
四人。
焚き火を囲い、野うさぎだろうか…猟か何かでとった肉なのだろう。朝食の準備をしているみたいだった。
完全に油断している。
いけるか…?
ライナにアイコンタクトを送る。
ライナは頷く。やる気だ。
俺も覚悟が決まった。
それに頷き返し構える。
一歩、踏み出した瞬間。
ザクザクザク。
別方向から足音がして俺たちは静止した。
仲間か?
ザクザクザク。
どんどん近づいてくる。
ザクザクザク。
朝食の準備をしていた四人も足音に気づいたようで周りを警戒し始める。
仲間じゃないのか。
「やぁおはよう、おバカな諸君」
足音の主が顔を出す。
全身ローブを羽織り、肩まで伸びる長髪の男。
「…?やつは確か…」
ライナが隣でそんなことを呟いた。
「おバカ?はっ、そりゃあ四人に一人で突っ込んできたお前らのようなやつのことだぜ!」
「あぁなんと。実力の差を知らない悲しい者たちよ。」
「ちっ…悪いが早々に終わらせてやるよ」
ライナの反応も気になったがこっちはもうやる気満々だった。
四人が杖を構える。
四対一。
どんな戦いをするのか気になった。
お手並み拝見か。
「終わりだ。フロント…」
………
一人が魔術を打とうとした時、一瞬全ての音がなくなった。
「…カハッ…カハッ…」
「うぅ〜ん〜、やっぱりこいつらは大したことないな」
は?なんだあれ。
魔術を打とうとしたやつが必死に喉元から溢れる血を必死に抑えている。
そして向かって行った長髪の男の手には血がついていた。
一瞬で何が…
「さぁ〜まだまだ行くよ」
「…カハッ…く…そ…がああああああ」
杖を構え魔術を放とうとしたがすかさず片手で首を絞められ、持ち上げられる。
魔術師なのか…?あいつ、なんてスピードとパワーだ。
「あ…あぁ」
「いやぁあああ!」
一人の魔術師が腰を抜かす。
二人の魔術師が必死に逃げる。
それを見てやつは笑った。
「逃がしません…よ!」
自分の杖と喉を潰され倒れているやつの杖をまさかの方法…ぶん投げた。
その二本の杖は尖りを先端にものすごい速さで飛んでいく。
「だ、だれかあああああ!!!」
「たすけ…」
バタリ。
おいおい、なんだよ、これ。
三人、死んだ。
戦闘不能にすればいいだけなのに、やつは殺した。
それに魔術師では考えられない戦い方で。
「うぷっ…」
脳天か割れ、頭から血を流し倒れる二人。喉を手跡がつくほど握られ仰向けに倒れるやつ…さっきまでみんな生きていた…
吐き気がした。
ドクドクドクドク。
心臓がうるさい。
初めて、人の死を見た。
それも命乞いをした相手を笑いながら殺すという拷問のようなものを。
「ヴァッサードラッへ!!」
隣でライナが唱える。
瞬く間に水の龍がやつへ突っ込んでいく。
「へっ…いるじゃねーか…ちょっとはやるやつ」
長髪の男はこちらの存在に気づき、笑った。
隠れて時が過ぎるのを待つこともできた。でもライナは技を放った。つまりライナは倒す気でいる。
死ぬかもしれない。でもやらなきゃいけないという覚悟がヒシヒシ伝わってくる。
おいアルト・カイネファルベ。お前は一体何をしている。確かにお前はこの世界ではまだ十年しか生きていない。
前世でもあんな死に方をするくらいだ。ロクな人生じゃなかったはず。
お前は諦め、歩みを辞めたんだ。
そして今ライナ・グレッチャーも死に直面している。
でもライナ・グレッチャーは違う。前に進むために死ぬ気でがんばろうとしてるんだ。
お前はそんな勇敢な友を見捨てるのか?
「アルト!やつを倒すぞ!!」
「はい!!」
〇〇〇
「ヴァッサードラッへ!!」
ライナはもう一度水の龍を放った。
さっきは半分脅かしみたいなものだったのだろう。
近くの木に直撃した。
その木もなかなかの大木だったが一撃で倒してしまった。
ライナ・グレッチャー。魔術科学年二位の実力を誇るということを再度確認される。
「へっ…こいやぁ!!」
長髪のやつが構える。
「こいつはシャイテル流と言ってな〜…」
長髪の男は向かってくる水の龍に対し、立ったまま微動だにせず余裕の笑みを浮かべ片手を上げた。
「破っ!!!!」
次の瞬間、視界が真っ白になる。
耳もキーンとする。
ものすごい爆発が起こった。
ライナもおそらく同じ状態。
目も耳も使い物にならない。これはまずい。
「廻転!!」
「ちっ…」
急ぎはったのは風を超高速回転させたもの。
これなら使うのに目はいらない。
「くっ…ライナ」
「あぁ…大丈夫だ」
少しずつ視界も耳もが治ってきた。
あたりの木は跡形もなく平地になっていた。
そして目の前には右手を抑える長髪の男がいた。
血が出ていることから廻転を使ったのは正解だったみたいだ。
「へっ…やるじゃねーかお前ら。何年だ」
「中等部一年だ」
「中等部の一年だ〜?ほんとか?すごいなお前ら。あ、ちなみにさっき俺に殺られたのが中等部の四年な。お前ら高等部の実力はあるな」
「…なんで殺したんです?」
「あ?あぁそれはな〜…」
さっきの戦いも何もかも疑問だった。
それにやつは「シャイテル流」と言った。
魔術には〇〇流などというのは聞いたことがない。
「魔術師が邪魔だからだよ〜」
不気味な笑み。
確信がついた。
「あなた…魔術科ではありませんね」
「へっ…俺は体術科 高等部一年 暴力に愛されし天才 ゲバルト・テュラーン。」