交流戦一日目
「アルト、あまり深く話し合ってなかったが作戦はあるか?」
ライナと交流戦を出ると決意してからの数日間、お互いに個の力の向上にとにかく務めていたのでろくに話し合っていなかった。
連携は心配だが力は確実に上がっている。
「そうですね。一日目、なんなら二日目も戦うことを極力避け、食料や拠点の確保など生き残る準備をするのがいいでしょう」
「同感だ…っと言いたいところだが。アルト」
「えぇ…」
感じる。
どこからだ。
「…ここから九時の方向です!」
「おう!プファイル!」
俺の掛け声に合わせ、ライナが水の矢を九時の方向へ放つ。
すると九時の方向から飛んできた土の塊とぶつかり、相殺した。
「この大森林、広いくせにもうエンカウントしちまうなんてな…アルト、来るぞ」
「えぇ、極力魔力消費は避け、速やかに倒します」
「了解だ」
〇〇〇
「ちっ…やったか」
「いいや、手応えがねえな」
ガサガサ。
「確か…この辺で…」
「おい、居ねえぞ。しかも…」
「あぁ、ここで魔力同士のぶつかりを感じる。あいつらぶつけて相殺させやがったのか。」
「中等部のガキがいきがって参加してやがるから手始めにって思ったが案外やるらしい」
「ま、そう来なくっちゃな」
………
「鎌鼬っ!」
今だ。俺は風を鋭く尖さらせ相手に放つ。
鉤爪のように、風を。
やっぱりこの杖はすごい。
いつもより放たれる威力が強い。
「ちっ!そこか!おい!」
「あぁ!わかってる!」
「「エルドワンド!!」」
すかさず相手は二人で二重の壁を築く。
お互い土の属性を使う魔術師か。
土+土で威力を二倍にでもさせているのか。
だが…
「なにっ!」
「だめだ!抑えられない!」
俺の鎌鼬が土の壁を打ち砕く。
「今です!」
「あぁ!」
すかさず物陰からライナが顔を出す。
「しまっ…」
「遅い!プファイル!」
「くっ…うわあぁああ!!!!」
〇〇〇
相手を殺さず無力化。
蔦でグルグル巻にして拘束。
「戦闘不能。完全勝利ですね」
「あぁ、初めてにしては連携もいいな」
「えぇ、ではすぐにこの場を離れましょう。こういう時には湧きますから」
「そうだな、さっさと行こう」
「今度こそこれからは静かに行きましょう」
「あぁ、こんなのが続くようじゃ三日持たん」
「まずは拠点の確保ですね。洞窟や木の上、二人分のスペースがあり、騒ぎの際すぐに撤収できる場所が好ましいでしょう」
「賛成だ。道中木の実なども採っていこう」
〇〇〇
大森林を歩き始めて何時間経っただろう。
「もう夕暮れか。そろそろ休む場所を決めよう。暗くなってから行動するのは危険だ」
「はい、そうしましょう」
俺たちはできる限りの体力と魔力の消費を避けるため休みをこまめに挟めて行動していたので拠点は見つからなかった。
少し開けたスペースを見つけた。
周りも見えて四方八方開けているのですぐに逃げることもできる。ここがいいだろう。
「では今日はこのスペースで」
「あぁ、木の実を採っておいてよかったな。今日はこれで我慢しよう」
今日はとりあえず順調。
明日も今日と変わらずな感じで。
俺たちは木の実を食べながら、今日の反省や今後の行動について話し合った後、交代で睡眠をとることとした。
………
今は季節で言うと夏。火を焚かなくともやっていける。
まぁあれはロマンだから季節関係なしにやりたくなるが。
「相棒は寝た?」
…は?
横から声がした。
気配が全く感じなかった。
反応が一瞬遅れる。
「突ぷ…」
「待て待て、ぼくたちだ」
影から姿を現したのはツヴィとリング。
「何か?」
「おいおい敵意剥き出しだな」
「安心してよ〜戦いに来たわけじゃないから」
二人とも手を上げ頭に当てている。
何もしない合図。
俺はかざした手を下ろす。
「信じてくれたか」
「うれっし〜」
「…あの、こんな時に信じろというほうが難しいですよ」
本来今は交流戦の真っ只中、この二人は俺たちの敵だ。
一体何しに来たんだろうか。
「ははは、違いないな。」
「あたしたちはアルトに話があって来たの」
「話…ですか?」
「あぁ、単刀直入に言う…」
なんだろうか。とりあえず敵意はないみたいなので大丈夫か。
「ぼくたちの弟になれ」
………
「…は?」
「ちょっとツヴィ。アルト固まってるよ〜」
「す、すいません。言ってる意味が…」
「言葉足らず過ぎたな。一から説明しよう。」
「そうだね、まずは自己紹介から」
自己紹介?偽名だったのか?
「あたしはリング・アンデレ・カイネファルベ」
「ぼくはツヴィ・アンデレ・カイネファルベ」
カイネ…ファルベ?
俺と同じ苗字。つまり
「おそらくアルトの考え通り、ぼくたちはアルトの従兄弟だ」
「従兄弟…」
「そう。カイネファルベのアンデレ家次代の当主候補であるぼくたち。そしてアルトの父親のテルズは現当主でぼくたちの父であるダルハンドの兄で元アンデレ家の人間だ。最もアンデレの家を捨てた腰抜けだがな。」
腰抜け。
テルズがアンデレ家だったことは知らなかった。
だからどんな事情があったのかも知らない。
だからここはグッと堪える。
「そんな元アンデレ家の人間から優秀なカイネファルベの魔術師が産まれた。本家に貢献してもらうのは当たり前だ」
「それで…要は僕をアンデレ家で引き取ろうと。」
「その通り〜!」
話はわかった。
この二人の言い分も本家の人間ならではの言葉で理解できる。
だが…
「答えはノーです。」
「ほう…」
「え〜!どしてどして!」
理由はいくつかある。
跡目争いとかそういうのに興味がない。元々今の俺はアンデレ家ではないのでどうでもいい。
そもそも今更なんだって話だしな。
でも一番は…
「父を、テルズをバカにされたからでしょうか」
「テルズをバカに…?ははは、そうか。アルトはあいつが好きか」
「えぇ、感謝も尊敬もしています。」
「あの男が尊敬か…父様が聞いたらブチ切れものだぞ」
「僕はテルズが、あの家が大好きです。バカにされてヘラヘラしてられる程できた人間じゃない。」
「そうか…じゃあどうしても自分からは来てくれないのか」
「はい」
………
「残念だ」
殺気。今やる気か。
今は正直不利すぎる。
「安心しろ。今ここでやる気はない。」
肩の力を抜く。
「アルト、最終日まで生き残れ。ぼくたちにもプライドがあり引けないんだ。お前だってそうなんだろ?」
父親をバカにされた。
お家とか関係なくイラッときてる。
「はい」
「お互い引けないんだ。だったらぶつかるしかないだろう。ぼくたちにはぼくたちの、お前にはお前の通したいものを通そう。では健闘を祈る」
「またね、アルト」
「お互いがんばりましょう」
「ふっ、無論だ」
二人は去っていった。
案外簡単に引いてくれて助かった。
今はお互いの曲げられないものがありぶつかるしか道がない状況ではあり敵同士ではあるが、決して悪いやつらではないらしい。
「最終日まで絶対に生き残ってやる」
あの二人をも倒して俺たちはこの大会に勝つ。