新しい戦い
アルト・カイネファルベ 十歳。中等部一年。
入学して五年の月日が経とうとしていた。
この学園では初等部、中等部、高等部があり言ってしまえば小学校、中学校、高校がそれぞれ四年ずつあるというシステムだ。
初等部では主に座学、魔術の原理や起源など。
そして中等部から高等部は対人戦を含めた魔術の使い方。
明らかに難しさ、危険度のレベルが倍以上に上がり日々苦労しながら魔術の研究をするそんな日々。
そんな中等部一年の年も半年の月日が流れていた。
ホームルームにて担任から言い渡されたことがあった。
アリア魔剣学園 校内交流大会 魔術科部門
この学園は一年を通し、前期と後期に分けており中等部〜高等部前期の最後に毎年催す大会らしい。
これは魔術科、剣術科、体術科、幻術科の全て共通で行う。とは言っても科内での大会なので別科同士の戦いはないが。
魔術科のすることは簡単に言えばサバイバルの生き残り。
大森林に参加者全員放たれて三日間のサバイバル。
そこで互いに実力をぶつけ合い一人を決めるらしい。
魔術師の弱点はなんと言っても動かないので体力、そして魔力依存だということ。
三日間体力的にも実力的にも生き残れ、ということで体力と魔力の二点を試される競技なようだ。
正直言って地獄の三日間だろう。
そして担任のこの一言でクラスは凍りついた。
毎年死者が出る。と。
死が身近に感じる。明らかに初等部とは違うと思わせられる。
学園の所有してる大森林で行うのだが参加資格があるのは中等部一年〜高等部四年まで。学生同士の年齢、力、能力は当たり前に個々違う。戦った末の死、他にもサバイバルでの食料不足なのでの死。様々な理由があるがそのくらいは魔術師以前に人として覚悟して挑めということだろう。だから参加は完全挙手制。
そして僕は…
「ではこのクラスからはアルト・カイネファルベとライナ・グレッチャーで決まりだな。みんな拍手と声援を」
「よろしくな、アルト」
「あぁ、よろしくライナ」
交流戦まで一週間。僕らは二人で交流戦への参加を決意し、握手を交わした。
〇〇〇
数日前。
授業が終わり、特に用もないので寮へ帰ろうと準備をしていたところ。
「今日はバーミリオンはいないのか?」
席を立った時、話しかけられた。
まぁほとんど毎日うちのクラスに来るしな。
他の科のやつをよく思わないやつらもいるが中等部にもなればあんだけ強いとそうそう変なのは寄ってこないので心配ではないが。
物静かそうな彼。こいつは確か…
「えぇ、今日は一人です。何か御用でも?ライナくん、ですよね。」
こいつはライナ・グレッチャー。
座学、実技ともに常時良の優等生。
「くんはいらん、ライナでいい」
「わかりました、ではライナ。なにか?」
俺が再び席に着くとライナはその前の席に俺と向き合う形で座った。
「アルト、折り入って相談がある」
「は、はぁ…」
相談…だ~?ライナとは話したこと自体今日が初めてだった。
そんな相手に相談?
「アルト、一緒に交流戦に出てくれないか」
交流戦、中等部からが参加可能だから今年から出れるのか。
「交流戦ですか…どうして僕に…?」
「無論、強いからだ」
「それはどうも」
「この四年でこの魔術科クラスに俺以上の実力者はアルトお前だけだ」
「申し訳ありませんが今のところでるつもりはないんですが…」
「いくらだ?」
「はい?」
「いくらやると出てくれる?」
金…だと。
そんなものに釣られるはずがない。
「1000…いやいやそうではなく」
「金じゃないのか。何が望みだ」
「あの、なぜそこまでして?」
ライナは口を閉じ、下を向く。
きっと何か事情があり、それを話すか悩んでいるのだろう。
「無理には聞きませんが…」
「いや、盲点だったな。教えるのが義務だろう。」
ライナは語り出す。
「俺の家、グレッチャー家は代々風と水を掛け合わせた氷の属性の魔術を得意としていた。火のバーミリオン。氷のグレッチャー、とな」
なるほど、直接的ではないにしろライナとロットの家はライバル関係のあるようだ。
「氷は風と水でしか生み出せない。つまり二属性を持って産まれてくることが必然。そんな家に風を持たない水のみを持って産まれた子供がいた。それが俺だ。」
確かに四年間ともに色んな訓練をしてきたがライナが風を使っているのは見たことがない。
「俺は水しか持ってない。未だにな。だから家からはずっと落ちこぼれのレッテルを張られていた。」
ロットも火の魔術が得意な家柄から産まれながら魔術の才が全くなかった。
似たようなものだが違うのはライナが男ということだろう。
グレッチャー家の家族構成はわからないが、跡取りなどの関係から男は特に許されないんだろう。
「見返してやりたい。交流会には死をも覚悟した猛者が集まる。その中で落ちこぼれだと見捨てたやつがここまでやれるんだって証明したい」
必死。ライナの顔からはその意思がひしひし伝わってくる。
半端じゃない。覚悟は伝わった。
「それで答えはどうだ。ゆっくり考えれる時間はないが日を改めても…」
「いえ、失礼。僕でよければ協力いたしましょう」
ガタッ。
「ほ、本当か!」
ライナが興奮をあまり席から立ちあがる。
自惚れてるつもりはないが自分には少しばかり力があることを知っている。
本気のやつが相談してくれたんだ。手を貸したくもなる。
「えぇ、出るからには優勝を狙いましょう。」
「ふっ…大きく出たな…だけど悪くない」
こうして俺とライナの交流戦参戦が決まった。