勇気の出し方
「ロットはなんで魔術を学びたいのですか?」
「強く…強くなりたい…この髪を馬鹿にするやつらに負けないように」
そう言いロットは自分の赤い髪を優しく撫でる。
「綺麗な髪じゃありませんか」
「目立つのが問題なんだよ…それにわたしには魔術の才能がないし」
「なぜ魔術なのですか?」
「バーミリオン家は火の使いとして有名だから」
「なるほど、だから魔術ですか」
「ね。ねぇ…それで…」
「うーん、僕の母さんがすごい魔術師です。そこに弟子入りするというのは…」
「…いい」
「…え?なにかいいまし…」
「もう、いい!!」
「ヘブシッ!!!」
何が起きた?気づいたら俺が宙を舞っていた。
あ、殴られたのか。
え、モーションすら…見えなかっ…
バタリ。
○○○
「ハッ!」
気が付くと自室のベット。
目の前には二人が居た。
「お、気が付いたか」
「父さん」
「アル」
「はい、母さん」
ティラ―ルが俺の元に来た。
「女の子に優しいのはいいことだけど女の子に背負わせて帰って来るなんて…」
あ、やばいかもこれ
「そんな甘っちょろい子に育てた覚えはありません!!」
「ヒィィィィ!ごめんなさい!」
○○○
俺はあの後気を失い、ロットに背負わせて帰って来たらしい。
いや、確かに言いたいことはわかるけどさ…?
俺ぶっ飛ばされたんだぜ?
そんなこんなで礼をして来いと。
おっと礼と言っても運んでくれた礼だ。何もやり返そうって気はない。
「しっかし…いいパンチだった…な?」
何か聞こえるな。
声のする方へ行ってみる。
すると子供が何人かいてその中心にはロットがいた。
「おい、目立ちたがり屋!どけよ!」
「だったらそれを返してあげるのが先よ!」
どうやら何か取り合いをしているらしい。
子供だな~。
「チッ!邪魔だよ!」
「キャ!」
子供がロットを突き倒した。ロットはそのまま尻もちをついた。
「キャ!だってよ!」
「女っぽい喋りしてんじゃ…」
「そこまで」
ただの言い争いなら割って入らないが手が出るなら話は別だ。
「なんだお前。」
「名乗るほどの者でも。それより一人にそんなにいっぺんにかかって恥ずかしくありませんか?」
「何言ってるんだよ!目立ちたがり屋の仲間するならお前もやるぞ!」
そういって三人が同時にかかってくる。
「全くこんな親御さんはどんな教育をしているのやら」
まず一人目。右手、左手。
二人目。右の蹴り。
三人目。目つぶし。
見える。こんなの日々テルズの鍛錬を見ていたら簡単に見切れる。
倒すのは容易いが。
「ロット、いいのですか?」
「え?」
「このままだと僕が倒しちゃいますよ」
「なんだと!」
「なめるな!」
「くっそ!なんで当たらないんだ!」
「強くなりたい。そう言ったのはロットですよ。」
「…」
「殻を破るなら今です。大丈夫、魔術なんかなくたってロットは強い」
「…」
「もし…」
「…」
「一人が不安なら心配には及びません。僕がロットのナイトとして背中を守ります」
「…」
………
「うりあぁぁ!」
ロットは立ち上がりイノシシのように突っ込んでくる。
そしてことごとく殴り倒され、いじめっ子たちは次々に宙を舞う。
その場にいるいじめっ子たちが逃げ出すのにそう時間はかからなかった。
○○○
「はぁ…はぁ…」
ロットが大の字になって横になっていた。
俺は彼女の顔を覗き込む。
「すっきりしました?」
「ねぇ…」
「はい?」
「さっき言ってたの本当?」
「さっき?」
「わたしのナイトってやつよ!」
「あ、あれは勢い余って…」
「うそ…なの?」
「いいえ、嘘ではありません。約束します」
それを聞いた彼女はみるみる笑顔になっていった。
「約束ね!えへへ」
○○○
そこからロットは俺にべったりになった。
朝家に来て俺を引っ張り出して修行だので夕方まで連れまわす。
何かの鍛錬なのかと思うほどにハードだった。
月日は流れ俺とロットは5歳になっていた。
あれからロットはティラ―ルから魔術を教わっていたみたいだがあまり伸びなかったらしい。
対して剣術のほうは飛躍的な成長を見せていた。
あと少しすれば中級も夢じゃないとか。
テルズが太鼓判を押したのだ。嘘ではなさそうだ。
なにより見ていても強いことは伝わってくる。
俺は魔術の制御の研究をしていた。
どうやら俺は魔力が多いらしい。だからあの時は分からず暴走していた。
今はだいぶ制御できるようになってきた。
今度から魔術と魔術のかけ合わせの実験をしてみよう。
○○○
「ところでアル」
「はい、なんでしょう父さん」
「お前も5歳だ、学校の答えを聞きたい」
「はい」
「もちろん行かないも選択肢の一つだ」
「はい、父さん」
「なんだ」
「僕はアリア魔剣学園 魔術科に行きたいです。」
「そっか…父さん的には剣術科を推してたんだがな」
「期待に応えられず申し訳ありません」
「いいんだ、それがお前の選択だ。手続きはしておこう」
こうして俺はアリア魔剣学園 魔術科の入学が決まった。