魔術
「「アル、3歳の誕生日、おめでとう」」
「ありがとうございます。母さん、父さん」
そう、今日は俺の3歳の誕生日。死んでこの世界に転生して…3年か。
はやいものだな。
豪華な料理を見てそんなことを思う。
「さ、ティラがよりをかけて作ったんだ。暖かいうちに食うぞ」
「はい」
「「「いただきます!」」」
この3年、俺はこの二人の息子として生きてきた。
そしてこれからも。
胸の奥のザワザワを抑えて俺は笑った。
○○○
足腰もしっかりしていき最近の俺は外でテルズの鍛錬を眺めるのが日課となっていた。
やっぱり強いなこいつ。
この世界は魔術、剣術、体術、幻術or薬術の四つが存在する。
魔術は火、水、土、雷、風の五つの属性が元になっている。
属性は人によって適正があるらしく一つしか目覚めない者、何属性も目覚める天才まで…
ティラ―ルはアリア魔剣学園 魔術科にいた魔術の専門家だった。テルズは剣術科。
寝る前にティラ―ルから魔術の話を聞いたがなかなか奥が深い。
なんでも水×風=氷、水×土=植物など派生して新しい魔術を作れたりするだとか。
四つのすべてにはクラスが存在する。
初級である「キューケン」
中級である「ウルフ」
上級である「レーヴェ」
神級である「ゴット」
上級行けばがっぽがっぽらしい。
信じられないが、テルズ剣術上級。
神級は正直おとぎ話。行けたのは人界、天界、魔界でも片手で数えれるくらいらしい。
もっともそれも本当なのかわからないが。
俺もそろそろ身体も自由に動くようになってきたし何か学びたい。
魔術はティラールから少し聞いている。
大事なのはイメージ。何をどうしたいか頭にきちんと形にするそうだ。
「ふぅ…」
目を瞑り、なんとなく手から出るよう手をかざす。
そよ風が吹く。
最初は風からだ。風を想像。少し強い風。集中。
なんとなく身体から何かが手に流れ込む感覚が来て、外気がどんどん強風になっていくのがわかる。
目を開けてみると…
「や…やった!」
風が集まっていく。俺の手のひらに。
成功だ。
「ア、アル…お前、魔術が…」
「え、はい!なんだか出せました」
気が緩んだその瞬間。集められた風の密集体が手から離れた。
しまった。気が…
「アルゥ!!そっから離れろー!」
「え?」
なんだテルズが即座に顔を真っ青にして走って向かってくる。
「エアトクルンペン!!」
何かを唱えたティラ―ル。
すると俺の足元の土が集まって風の密集体を包み込んだ。
「伏せて!」
「…クッ!間に…合えー!」
そう言って一瞬にして目の前にテルズが現れ、俺を抱きかかえて倒れた。
次の瞬間、ものすごい爆破が俺たちを襲った。
○○○
「…い!、アル!」
「目…さまして!」
声が…聞こえる…
「ん…んぁ…」
「アル!おい、怪我はねーか!」
「待ってて!回復の魔法陣を!」
「あぁ!頼む」
「待っ…てください、大丈夫です。怪我はありません」
「あぁ…よかったぁ…」
俺は二人に潰されるほど強く強く抱きしめられた。
あたりはボロボロ。
村の人が驚いて見に来ていた。
何が…あった?
「父さん、母さん、もう大丈夫です」
「あ、あぁ」
二人から離れ立ち上がる。
「そしてこれは…」
俺はあたりを見回して二人に聞いた。
家も半壊だし、ただ事じゃないぞ。
「その…だな…」
二人とも気まずそうだ。
「アル…そのさっきの魔術はどうやって?」
「どうって風を想像したんです。出せるかなって。」
「聞いた?テルズ」
「あ、あぁ…」
次の瞬間俺はティラ―ルに抱きかかえられていた。
「アルは魔術の天才よー!!」
やば、怒られ………え?
「3歳でこれって…すさまじいな…」
「これでアリアは魔術科で決定ね!」
「待て待て、アルの意思を聞こう」
「それもそうね、アルはどうしたい?別に行かないってのもいいのよ」
「僕は…」
○○○
一度考えさせて欲しい。
そう言った。
二人はゆっくり考えればいいと笑ってくれた。
自分の手のひらを見る。
「あの惨状…本当に俺がやったんだな…」
正直こんなに危険なものだと思っていなかった。
少し自分が怖くもなった。
「はぁ…」
「ね、ねぇ!」
後ろから声がした。
その声は大きくパシャリとしてびくっとなってしまった。
振り返ると明らかに不安そうな表情をした女の子がいた。
「な、なんでしょう…?」
「さっきの…」
「さっきの?」
「教えて!」
さっきの…あの風か。
彼女はジッとこちらを見て返答を待っていた。
「申し訳ありません…教える気はありません」
「え…?ど、どうして!」
「あれを見てたならわかるでしょう。危険だからです」
「…」
彼女は黙った。
俺も黙る。間違ったことを言ったつもりはない。
この力は危険だ。いつか誰かを殺してしまうかもしれない。
「そ、それでも…」
「え?」
「それでもいいから!教えて!」
なんだこの子、全然引かない。
「はぁ…僕はアルト・カイネファルベ。お名前は?」
「ロット。ロット・バーミリオン…」
自信がなさそうでもじもじした赤い女の子だった。